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個人や企業や団体が、制作した動画コンテンツをYouTubeで配信するビジネス「YouTuber(ユーチューバー)」。その市場規模は2022年までに約2.6倍の伸び、動画広告全体でも2023年までに約2.5倍の伸びが予測されている、まぎれもない成長市場である。現在のメディアの王者であるテレビをネットが逆転する時代も遠くはないと言われているが、いよいよそれを予感させる動きが活発になってきた。
再生回数がすべてではない、YouTuberの3つの収入源
ネット動画最大手のプラットフォーム、「YouTube」で動画を撮影して配信するコンテンツ制作者、「YouTuber(ユーチューバー)」。一般的には、動画を投稿する個人を指すイメージだが、それだけでなく企業や団体も含まれる。ハイビジョンテレビでの視聴にも耐えうるような高精度・高品質の映像で内容的にも優れたコンテンツを制作してYouTubeで配信している企業も、YouTuberに分類される。
再生回数稼ぎを狙ったいたずら動画やスピード違反動画、フェイクニュース動画などが話題になり、果ては2018年4月3日、アメリカのYouTube本社で銃乱射事件まで起こしたYouTuberだが、彼らはいまやメディア産業の一形態としての地位を確立しつつある。
YouTuberの収益ルートは大きく3つある。
・YouTube広告
インストリーム広告ともいい、動画の再生開始前に流れる。テレビ(ここでは、いわゆる地上波のことをテレビと総称する)のスポットCMと同じものが流れることもある。YouTubeは、動画の再生回数に応じて広告主から広告料を徴収し、その中からYouTuberに報酬を支払う。
なお2018年2月から収益化の基準が厳格化され、従来の「総再生回数1万時間以上」から、「過去 12か月間の総再生時間が4,000時間以上」「チャンネル登録者1,000人以上」に変更となった。
・タイアップ広告
広告主とYouTuberが広告会社を介して、あるいは直接接触して契約を交わし、YouTuberは制作費の提供を受けて動画を制作・配信する。テレビの番組スポンサーに近い。
・イベント・グッズなど
YouTuberが動画コンテンツに関連し、会場を借りてのリアルイベントやグッズの販売などを企画して、来場者や購入者から直接得る収入。
このうち、個人の動画投稿はYouTube広告収入目当てのものがほとんどだが、企業や団体の動画制作・配信はタイアップ広告やイベント・グッズなどの収入を得ていることもある。
たとえば、アニメの制作会社がオリジナルアニメ作品を制作してYouTubeで配信するケースを考える。アニメファンの間で人気が出て再生回数を伸ばしてYouTube広告で稼ぐ一方、独自のスポンサーがついて広告主からタイアップ広告収入も得て、さらにキャラクターの人形を通販サイトで販売しイベント・グッズなどの収入も得る、というようなケースである。アニメの制作会社にとっては、YouTube配信によって、その作品がテレビで放映されるのとはまた異なったビジネスモデルが確立できる。
動画広告市場は2030年までに2.5倍、3500億円規模に
CA Young Labとデジタルインファクトが共同で調査し2018年1月に公表した「国内YouTuber市場動向調査」によると、2017年の国内YouTuber市場は219億円で、2016年の100億円の約2.2倍に伸びた。今後、2022年までの5年間で約2.6倍の579億円に達すると、同調査では予測している。
収入種類別の今後5年間の成長率予測を見ると、動画の再生回数に応じて支払われる広告収入(YouTube広告)は139億円から334億円へ約2.4倍に、タイアップ広告収入は63億円から188億円へ約3.0倍に、イベントやグッズ販売による収入は17億円から57億円へ約3.3倍になる見通しになっている。
再生回数カウントによる広告収入の伸びもさることながら、タイアップ広告やイベント・グッズ販売の伸びがそれを上回ると予測されているということは、今後YouTubeがネットという枠を超えて、テレビのようなほとんどの国民が視聴する「総合メディア」へ進化していく方向性を示している。
YouTubeだけでなく動画コンテンツ全体の広告を対象に、サイバーエージェントオンラインビデオ総研とデジタルインファクトが共同で調査し2017年11月に公表した「国内動画広告市場調査」によると、2017年の国内動画広告市場は1,374億円で、2016年の842億円の約1.6倍だった。今後、2023年までの6年間で約2.5倍の3,485億円に達すると、同調査は予測している。
ネットがテレビを追い越す日は近い
最近の傾向は「プラットフォームの多様化」と「スマホでの視聴」。ネット動画元年といわれた2014年頃は「YouTube」「YouTube広告(インストリーム広告)」が大部分を占め、パソコンで見る人も多かったが、2017年はYouTube以外の動画プラットフォームの比率や、インストリーム以外の広告の比率が大きく伸びている。視聴機器もスマホが79.7%を占め、パソコンなどを圧倒している。
6年で約2.5倍という予測通りになるとすれば、ネット動画の視聴時間がテレビの視聴時間に追いつき、追い越す日が来るのも、現実味を帯びてくる。
電通が2018年2月に公表した「2017年(平成29年)日本の広告費」によると、地上波テレビと衛星メディア関連を合わせたテレビメディア広告費の推計値は1兆9478億円だった。
現状ではテレビがネット動画に約14倍の差をつけているが、テレビ広告費の伸びが頭打ちなのに対し、電通の推計ではインターネット広告費は前年比15.2%増の1兆5094億円で4年連続で2ケタ成長が続いている。このペースなら市場規模でテレビがネットに追い越される日は、決して遠くない。
世界は、もっと進んでいる。電通イージス・ネットワークが2018年1月、世界59カ国から収集したデータに基づき弾き出した2018年の世界の広告費成長率予測によると、世界のデジタル広告費は2017年15.0%、2018年12.6%と2ケタ成長が続き、そのうちオンライン動画広告の2018年の成長率は24.5%と際立っている。2018年の世界の総広告費に占めるデジタル広告費の割合は38.3%で、35.5%のテレビ広告費を初めて上回ると見込まれている。
ネット動画がテレビを追い越すのは、決して遠くはない未来だ。日本でそのときが来たら、テレビではなくネット動画で流された連続ドラマやそのセリフがブームを巻き起こし、年末恒例の「今年のヒット商品番付」や「新語・流行語大賞」の上位に食い込んでいることだろう。
そうなれば広告主も「もうテレビではなくネット動画の時代だ」と認識し、タイアップ動画の数も大きく増える。芸能事務所はテレビを差し置いて、スポンサーが広告費をシフトする動画コンテンツにタレントを優先的に出演させるようになりそうだ。
それは民放テレビにとって、ビジネスモデルが根底からひっくり返る重大な事態を意味する。
カネの切れ目は縁の切れ目。極端な言い方をすれば、テレビには二流のスポンサーしかつかないため、番組予算が思うように確保できず、二流のタレントしか出ない二流の番組があふれ、優秀な人材は落日のテレビ業界に見切りをつけて去り、テレビは「メディアの王座」から滑り落ちる可能性がある。
そのようにして、何年も前から予言され賛否両論が渦巻いた「ネットとテレビが逆転する時代」が、ドラスティックに到来するのだろう。少なくとも従来の民放テレビのビジネスモデルは見直しを余儀なくされるはずだ。
【次ページ】AbemaTV、DAZNが志向する、新たなメディアの形
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