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動画配信サービスはいま、群雄割拠の時代を迎えている。海外からはAmazon プライムビデオやNetflix、Huluといったサービスが進出し、国内ではdTVやU-NEXT、民法テレビ見逃し配信のTVerなどがひしめき合っている。そうした中、先日『亀田興毅に勝ったら1000万円』で1420万視聴を超えるなど、テレビクオリティを保ちつつ、新しい視聴の在り方を開拓するAbemaTVと、グローバルを前提に女性の切り口からUGC(User Generated Contents)で発信を続けるC Channel。それぞれの事業をけん引するサイバーエージェントの藤田 晋氏と、C Channelの森川 亮氏の2巨頭が、動画配信サービスの現状と未来について語りあった。モデレータはクラウドワークスの吉田 浩一郎氏が務めた。
1700万DLを突破したAbemaTV、藤田氏は「手ごたえを感じている」
スマートフォン(スマホ)などから無料で視聴できるAbemaTVは、この4月に開局1年を迎えた。いま自身の時間のほとんどを費やすほどAbemaTVに入れ込んでいるサイバーエージェント 代表取締役社長 藤田 晋氏は「AbemaTVのアプリは1450万DL(5月7日には1700万DL)を突破し、安定的にユーザーを伸ばせるようになった」と、大きな手ごたえを感じているという。
ただし、1年を経て改善点も出ている。1つはインターフェースの問題だ。AbemaTVをスマホで視聴する際、かつては横型の画面だけだった。藤田氏は「映像のダイナミックさ、クオリティの高さは、スマホを横に倒して視聴しないと伝わりません。そこで当初は横型から始まった。しかし、この4月から縦型もリリースしました」と語る。
縦型インターフェースを公開した理由は、スマホでも視聴習慣をつけてもらいたいからだ。「我々はスマホのマスメディアを目指しています。そのためTwitterやFacebookのように『手グセ』をつけてもらいたかった。スマホで横に倒すのは心理的な障壁になります。そこで縦型も用意したのですが、視聴者の反応も大変好評です」と説明する。
もうひとつの改善点は「Abemaビデオ」を開設したことだ。AbemaTVはリアルタイム放送が中心だ。「編成が弱い時間帯や見たい番組がないとき、オンデマンドのコンテンツを用意しました。映画やアニメのほか、過去に放送したバラエティも用意しています」と藤田氏は説明する。
インフルエンサーの「クリッパー」が縦長動画を制作
元LINEの代表取締役社長として活躍したC Channel 代表取締役 森川 亮氏は、ファッション雑誌が減少する中で、その代替となる動画メディアを目指して、2年前にC Channelをオープンした。女性が知りたいメイクや料理など情報は、従来の写真や文字ではわかりにくい。そこで動画で紹介することで、わかりやすく伝えられるようにしたわけだ。
「C Channelは最初から縦型画面で視聴できるようにしました。女性の場合は手が小さいため、スマホを横にすると両手で支える必要があるからです。またFacebookやInstagram、LINE、TwitterなどのSNSでも展開していますが、それらのエンゲージメントも国内最大級という特徴があります」(森川氏)
エンゲージメントは、コメントやシェア、お気に入りなどの数を指すが、SNSではリーチだけでなく、エンゲージメントを高める施策は重要だ。また多くの動画を「クリッパー」というインフルエンサーが制作して発信しているのも大きな特徴だ。
C Channelは、専門のカメラアプリを提供し、それを編集してアップロードできる形だ。いわばクリッパーは縦長コンテンツをつくるユーチューバーのようなものだ。そのためコンテンツの8割は彼女らがつくり、そのほか2割を内部の独自コンテンツとなっている。これらは自社のスタジオで制作している。
C Channelは、韓国、台湾、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシアなど、アジアを中心とした海外で展開している点も特徴だ。直近では昨年末から中国でもオープンし、Weibo(微博)を中心に動画を展開。C Channelは、ここ数か月で再生数が急増し、月間動画再生数は約6億PVに上っている。
「今年は200億円の赤字」成功は自分たちとの勝負
異なるコンセプトを持つ両サービスだが、注目度はいずれも非常に高い。では今後、動画配信サービスはどうなっていくのだろうか? モデレータのクラウドワークス 代表取締役社長 吉田 浩一郎氏は「従来のメディアのリプレイスになるのでしょうか? あるいは新しい価値を持つメディアになるのでしょうか?」と、両氏に問いかけた。
藤田氏は「Hulu、Amazon プライムビデオなど、各社で動画サービスのアプローチは異なります。市場が混沌とする中で、暗中模索でやっています。AbemaTVを始めた契機はNetflixの進出。我々はテレビ朝日と共同でスタートしましたが、最初は自社で制作できると思っていました。しかしノウハウがないと主軸のニュースもつくれないし、メジャーなコンテンツも手に入らない。自社だけでは難しかった」と振り返る。
とはいえ、この1年間でAbemaTVのように、テレビのようなリアルタイム性を保持し、オリジナル番組に注力するといった戦略をとる競合は出てくる気配もない。それはなぜか?
「今年は200億円の赤字になりました。我々の状況を見て、誰も参入しようとしないのかもしれない。このビジネスを成功させられるかどうかは、自分たちとの勝負です」(藤田氏)
現在、AbemaTVの視聴数は他の動画配信サービスと比べても多い。これは基本無料という理由もある。とはいえ、まだ伸びしろがあり、動画市場にも潜在力がある。
「これまでユーザーは、インターネットで動画を見る習慣があまりありませんでしたが、Wi-Fiとスマホの普及によって、市場が急速に形成されつつあります。我々のような企業が、いかにサービスを展開していくかにより、市場も大きく変わっていくでしょう」(藤田氏)
これに対し、吉田氏は「いま提携しているテレビ朝日との棲み分けはどうなのか?」と既存メディアとの関係について質問した。
藤田氏は「AbemaTVは、若者向けコンテンツを制作し、彼らをターゲットとするクライアントを獲得していく方針。一方、地上波の視聴者はシニア層が多く、テレビ朝日も深夜放送の番組で成功しています」と説明する。
いま全体的に若者のテレビ離れが顕著になっている。実はAbemaTVを運営するサイバーエージェントの20代社員も、3分の1がテレビを持っていない状況だ。
「家にテレビがないので、テレビの前に座って番組を見ない。そこで我々は、手元のスマホですぐに見られるコンテンツを届けていきたい。そういう点で既存メディアと棲み分けがあります。AbemaTVは常時30チャンネルほど放映し、3つの公開スタジオも使っている。従来のネット番組とは異なるクオリティと予算をかけています」(藤田氏)
AbemaTVは、このような形でテレビの新しい形をつくろうとチャレンジしているわけだ。
【次ページ】 藤田氏「歯を食いしばって耐えながら頑張り抜く」
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