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日本映画製作者連盟の発表によれば、2022年の映画興行収入は2,131億円、前年比131.6%と大きく伸長した。これは歴代最高興収を記録した2019年の約8割にも及ぶ。入場者数1億5201万人も前年比132.4%。この数字だけ見れば、新型コロナ感染拡大で苦境に陥った映画業界がようやく「復活」したようにも見える。果たして、そうなのか。前回は、ヒットする作品とヒットしない作品の「二極化」が日米で進行していること、定額制動画配信サービスが興行を“侵食”している現状についてリポートした。今回は、前回に引き続き映画配給会社勤務のA氏(40代)に配信ビジネスについて、映像制作会社勤務のB氏(40代)に製作現場の変化について聞く。両氏とも仮名としたのは、所属会社の原稿チェックという制約を受けることなく、また取引先に忖度することなく、現場の声を拾うためである。ご了承いただきたい(取材日はA氏、B氏ともに1月下旬)。
映画ファンの“時間”が奪われている?
現在、NetflixやDisney+をはじめとした定額制有料動画配信サービスの各社競争は、ここ数年、世界的に熾烈を極めている。莫大な予算をかけ、一級の作り手と贅沢なキャストを起用することで、作品数だけでなく、その「質」(作品性の高さ+リッチな画面)のアベレージも驚異的に向上させている。
それで、何が起こるか。かつて「質」の高さを求めて映画館に足繁く通っていた映画ファンの“時間”を奪った。
彼らは、いっぱしの映画並みに「質」が伴っている配信ドラマに目ざとく飛びついた。しかし数話から10数話で1シーズンが構成される連続ドラマは、視聴時間を食う。結果、鑑賞優先度の低い劇場公開作が犠牲になる。筆者の周囲でも、「配信ドラマが面白すぎて、映画館に行く暇がない」という声は昨今よく聞く。なお劇場で見逃した作品は後日配信で観るので、その点に問題はない。
彼らがよく話題にするドラマシリーズは、2022年であれば『ベター・コール・ソウル』『ストレンジャー・シングス』『ザ・クラウン』『ウェンズデー』(いずれもNetflix)や『パチンコ Pachinko』(Apple TV+)など。2023年に入ってからは、片山慎三らが監督で柳楽優弥主演の『ガンニバル』(Disney+)や、是枝裕和が監督し森七菜らが出演する『舞妓さんちのまかないさん』(Netflix)といった国内作品もそこに加わった。
SVODの伸び率は鈍化
とはいえ劇場だろうと配信だろうと、映画だろうとドラマだろうと、「観られている」のだから映像業界全体としては潤っているではないか、という意見もあろう。ただ、A氏は「映画に関していえば、ちょっと頑張れば劇場にかけられる作品を配信がお金をかけて“刈り取って”も、実は配信のためにならないのでは」と憂う。
「今、配信各社はどこも会員数が伸び悩んでいて、いわゆるSVOD(Subscription Video on Demand/定額制動画配信)市場は踊り場を迎えています。しかも、コロナ禍の巣ごもり消費で複数サービスを契約したユーザーが外遊びにも時間を使いはじめ、『あまり観ないサービスは、もったいないから解約しよう』という気持ちになっている」(A氏)
Netflixは2022年10~12月期決算で、売上高が前年同期比2%増だったが、これは2002年の上場以来最低の伸び率だった。日本国内のSVOD市場についても、昨年あたりから複数の調査機関が「伸びが鈍化している」「ピークアウトは近い」と分析している現実がある。
「つまり各社は、新規会員を増やすためというよりは、今いる会員を逃さないためにお金をかけて質の高い作品を製作あるいは確保しなければなりません。しかし、もともと定額で月額料金を払っているユーザーがいくら質の高い新作を大量に観ようと、プラットフォーム側はもともとの月額会員料金以上に料金を徴収できるわけではありませんよね」(A氏)
大枚はたいて作品をつくったはいいが、それが直接的な利益のプラスにつながりにくい。興行を“侵食”しているかといって、配信各社は決して経営的に順風満帆というわけではないのだ。
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