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- 2023/01/12 掲載
ディズニー電撃復帰のCEOが描く「2つの戦略」、注目すべきは“アマゾン化”?
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
アイガーCEO電撃復帰の「2つの背景」
アイガー氏はCEOを15年間務め、その間にピクサーやマーベルなどを買収し、Disney+も始めるなど、ディズニーを大きく成長させた功績者だ。2021年12月にディズニーを去ったが、それからわずか11カ月後にCEOへ電撃復帰となった。なぜアイガー氏は復帰したのか。その大きな理由が業績不振だ。ディズニーの2022年7~9月期は、悲惨な結果に終わった。Disney+がけん引するダイレクト・トゥー・コンシューマー(DTC)部門は前年同期と比較して損失が2倍以上に膨らみ、14億7,000万ドル(約2,010億円)の巨額赤字を計上。また、テーマパークなどを含む全体の売上や純利益も市場予想を軒並み下回った。
それだけではない。より深刻な背景として米メディアが一様に指摘するのが、企業文化の原点忘却だ。すなわち、ディズニーが動画ストリーミングに軸足を移す中、熱烈なファンを魅了する、ディズニーだけの「マジック」「夢」の輝きが失われたというのである。
たとえば、ディズニーランドなどで相次いだトラブルが挙げられる。ウィズコロナの浸透で急伸した「コト消費」により、ディズニーランドなど全米4拠点のテーマパークは連日満員御礼だった。ところがアトラクション施設が度々故障したほか、場内で販売されている食事が非常に高価な割に「監獄のメシのようだ」などとSNSで酷評されたのだ。
しかも、ディズニーはこうした状況の中でも2022年12月に入場料や年間入場パスのさらなる値上げを実施。これは、「入場需要が高いことにあぐらをかいている」と不評だ。
アイガー氏はこうした状況に、後任者だったチャペック氏を「ディズニーの魂を殺した」とまで踏み込んで批判した。ディズニーはストリーミングを通してテクノロジー企業へとかじを切ったが、いまだにその企業文化は「家族で楽しめる娯楽」のイメージや無形の「マジック」に支えられている。そのため、ブランドイメージが毀損すればDisney+も悪影響を受けるのだ。
ディズニーが分断? チャペック氏がやらかした大事件
ところがチャペック氏はストリーミング至上主義を打ち出した。クリエイティブ部門は軽視されるようになり、組織上の権限が映画・テレビ番組制作部門から配給部門へと大幅に移行した。劇場の大型スクリーン用に制作された作品がDisney+で先行公開され、クリエイティブ側の士気が下がったのも、チャペック氏の下で起こった「事件」であった。組織に亀裂が入っただけではない。Disney+向けのコンテンツ調達においても、アイデンティティーの分裂が生じた。アイガー氏は「スターウォーズ」をはじめ、主に家族向け娯楽を手がけるピクサーやマーベルなどのスタジオを買収したが、それらのコンテンツは企業文化のイメージにも合致しており、「ディズニー的なもの」として受容された。
対してチャペック氏はDisney+で、ホラー映画や知識人向けミュージカルなど、従来にはない新機軸を次々と導入。そうした施策はユーザー数を一時的に増加させるものの、放映期間やイッキ見が終わるとまた減少に転じる。
それを食い止めるべく、ディズニーが運営するHuluとDisney+のセット割りをおススメするが、Hulu視聴には別個のアプリを開く必要があり、顧客の心をつかむには至っていないのが現状だ。
これらに加えてチャペック氏は、Disney+のユーザー数目標を、アイガー氏が定めた「2024年末に6000万~9000万人」から、「2024年末に2億3000万~2億6000万人」へと大幅に引き上げた。Netflixへの対抗心があったと思われるが、この目標引き上げがディズニーの収益を顕著に悪化させ、凋落ぶりを加速させることとなる。
【次ページ】ディズニー復活なるか、立て直し戦略の「2つの軸」
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