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- 2023/02/16 掲載
「ワンピース」「呪術廻戦」は超ヒットも……、劇場が配信に“ヒット作を奪われ続ける”理由
稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」
シニア層が戻ってきていない?
2020年初頭からの新型コロナ感染拡大は、映画館の集客に壊滅的な打撃を与えた。2020年の年間興収は1,433億円と、2,612億円を記録した2019年からほぼ半減。2021年も1,619億円と苦境は続いたが、2022年、ようやく2010年代の平均的な水準に戻ってきた。■国内興行収入の推移
ただ、映画配給会社勤務のA氏は、あくまで自分の観測範囲でと前置きしながらも、「10~20代の若者は劇場に戻ってきているが、コロナに慎重なシニア層が十分に戻ってきていない」ことを劇場とのやり取りの中で体感するという。
「たとえばうちの作品ではないですが、シニア層を当てこんだ『峠 最後のサムライ』(2022年6月公開、監督:小泉堯史、出演:役所広司、松たか子)の興収は5億円弱。キャスティングや公開規模からしても、コロナ前なら20億円程度を狙ってもいい作品でした。それほどまでにシニア層が劇場に戻ってきていない」(A氏)
アニメ作品が国内興収ランキングの上位を占めるのはコロナ禍に始まったことではないが、トップ5のうち4作品を占めるアニメ作品『ONE PIECE FILM RED』『劇場版 呪術廻戦 0』『すずめの戸締まり』『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』の中心客が10~20代前半の一般層であるのは事実。また、コアなファンに向けた『映画 五等分の花嫁』『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVEスターリッシュツアーズ』が大作洋画と肩を並べる20億円前後という成績で大健闘しているが、両作の観客層も当然若年層がメインだ。
■2022年度興収ランキング
(※)は集計時点(2023年1月31日)で上映中の作品
- 1 ONE PIECE FILM RED 197.0億円(※)
- 2 劇場版 呪術廻戦 0 138.0億円
- 3 トップガン マーヴェリック 135.7億円(※)
- 4 すずめの戸締まり 131.5億円(※)
- 5 名探偵コナン ハロウィンの花嫁 97.8億円
- 6 ジュラシック・ワールド/新たなる支配者 63.2億円
- 7 キングダム2 遥かなる大地へ 51.6億円
- 8 ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密 46.0億円
- 9 ミニオンズ フィーバー 44.4億円
- 9 シン・ウルトラマン 44.4億円
- 11 スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム 42.5億円
- 12 SING/シング:ネクストステージ 33.1億円
- 13 99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE 30.1億円
- 14 余命10年 30.0億円
- 14 沈黙のパレード 30.0億円
- 16 コンフィデンスマンJP 英雄編 28.9億円
- 17 映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021 26.9億円
- 18 ドラゴンボール超 スーパーヒーロー 25.1億円
- 19 ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス 21.6億円
- 20 映画 五等分の花嫁 22.4億円
- 21 映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝 20.4億円
- 22 あなたの番です 劇場版 20.0億円
- 23 劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVEスターリッシュツアーズ 19.8億円(※)
- 24 ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ 19.1億円
- 25 映画『おそ松さん』 16.7億円
- 26 今夜、世界からこの恋が消えても 15.3億円
- 27 劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編 15.0億円(※)
- 28 マトリックス レザレクションズ 14.0億円
- 29 ソー:ラブ&サンダー 13.5億円
- 29 ブレット・トレイン 13.5億円
- 31 ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー 12.5億円
- 32 バズ・ライトイヤー 12.2億円
- 33 THE BATMAN-ザ・バットマン- 11.9億円
- 34 カラダ探し 11.8億円
- 35 劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ 11.6億円(※)
- 36 HiGH&LOW THE WORST X 11.4億円
- 37 死刑にいたる病 11.0億円
- 37 機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島 11.0億円
- 39 映画 ゆるキャン△ 10.8億円
- 40 ボス・ベイビー ファミリー・ミッション 10.0億円
- 40 劇場版 Free! the Final Stroke 後編 10.0億円(※)
とはいえ劇場にしてみれば、数字さえ戻ってきているなら観客の年齢などどうだっていいのではないか。しかしA氏は、必ずしもそうとは言えないという。
「大都市のシネコンはそれでいいでしょうが、高年齢層を頼みにしているミニシアターや地方のチェーンは厳しいです。実際、ミニシアターで興収8000万~1億数千万規模の“小規模公開の洋画でいい感じのヒット作”が減りました。それらを支えていたシニア層が劇場に来ないからです。これは痛い」(A氏)
日米ともに二極化
2022年の興行が好調だったことについて、「100億円突破作品が4本もある」という指摘は少なくない。しかも「邦画の100億円突破が3本」は史上初であるばかりか、映連発表のランキング対象外である2022年12月3日公開の『THE FIRST SLAM DUNK』も2023年2月8日に興収100億円を突破した。喜ばしいことである。一方で、「ヒットするものとしないものの二極化が激しい」という声は、数年前から興行界でよく聞かれる。2022年はその傾向が一段と加速しているとA氏。ネットやSNSで大きく話題になった大規模作品は、多くの人が話題についていきたいために「我先に」と観に行く。一方、海外の映画賞を受賞した良質なミニシアター系洋画の類いであっても、宣伝展開が地味だと存在にすら気づいてもらえない。
ネットやSNSで話題になっていなければ「観る理由がない」と考える層は世代を問わず一定数存在するので、ヒットした作品はますます興収を積み、話題に上らなかった作品はますます日の目を見ない──という悪循環が加速する。
ただ、この二極化傾向は北米にもみられる。米国の興収集計サイト「Box Office Mojo」で、北米における年ごとの興収上位10作品が総興収に占める割合を2018年と2022年で比較すると、2018年が32.6%だったのに対し2022年は52.2%と、上位作品の寡占率が大幅に上昇しているのだ。
10作品の合計興収は両年とも約38億ドルとほぼ同じである一方、総興収は激減(118.9億ドル→73.7億ドル)していることから考えると、中規模以下の作品がふるわなくなった、という傾向はたしかにありそうだ。
【次ページ】中規模作品が配信に“取られた”北米市場
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