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三菱商事、GEコマーシャル・ファイナンス・アジア、GEキャピタル、日本GEなどの企業で要職を歴任してきたビザ・ワールドワイド・ジャパン代表取締役社長の安渕聖司氏。多様な人材をマネージし、ダイバーシティの理解を広める活動をしながら、ハラスメントフリーな職場づくりに取り組んできた同氏は、キャリアを一段ずつ上げながら、「経営者が最も必要とする人材」に気付いたという。それはどういう人材なのか。安渕氏に聞いた。
執筆:鈴木恭子、聞き手:ビジネス+IT編集部 佐藤友理
執筆:鈴木恭子、聞き手:ビジネス+IT編集部 佐藤友理
1979年三菱商事入社。1999年、米投資ファンド、リップルウッドの日本法人立ち上げに参画。2001年、UBS証券入社。2006年、GEコマーシャル・ファイナンス・アジアに上級副社長として入社。2007年、GEコマーシャル・ファイナンス・ジャパン社長兼CEOに就任。2009年、GEキャピタル社長兼CEOに就任。2010年、組織改編により日本GE代表取締役、GEキャピタル社長兼CEOに就任。2016年の事業売却により三井住友ファイナンス&リースの傘下に入り、SMFLキャピタル代表取締役社長兼務CEOに就任。2017年4月より現職。
企業に求められるのは「法律以上」の倫理
―― 「ハラスメントフリー」な職場環境を構築する重要性を教えてください。
安渕氏:最初に強調したいのは、「企業にとってハラスメント禁止は大前提」であるということです。社員の属性――人種、国籍、肌の色、宗教、性的指向、性別、政治志向、障害の有無など――を評価や昇進の基準にしてはいけません。
属性差別は、男女雇用機会均等法第5条で禁止されています。ですから、経営者や管理職は「ハラスメントフリーな環境を作らなければいけない」のではなく、「(属性による)ハラスメントはやってはいけない」のです。
社員の評価・昇進の基準となるのは、「What(何をしたのか)」と「How(どのように行動したのか)」です。
たとえば当社であれば、「Visa社員の行動・判断の基本方針となる「『Visa Leadership Principles』にのっとって業務を遂行しているか」が基準となります。Visa Leadership Principlesには「we act with highest integrity(高い倫理性を持って行動します)」と明記されています。Visaはグローバルブランドであり、世界中の人が知っている企業です。その社員としてふさわしい行動をしているか。社会がグローバル企業に求めるのは、「法律以上」の倫理であり、高いコンプライアンスです。「法律を守っているから問題ないだろう」との姿勢は、企業価値を失墜させます。
―― 高い倫理性を組織に根付かせるのは大変です。
安渕氏:単にガイドラインを配って「ここに書かれていることを守ってください」と言うだけでは実効性はありません。「わが社は女性差別やハラスメントを許さない会社なのだ」という企業風土を醸成するためには、トレーニング(eラーニング)や社内セミナー、外部からのゲストを招いた勉強会やワークショップを開催するなど、継続的な努力が必要です。
大切なのは(組織や部門を率いる)リーダーが率先して行動すること。「自社ではハラスメントをどう捉えているのか」「何がハラスメントなのか」「何をしたらいけないのか」を明確にすると同時に、「差別に対してはどのように対処すべきなのか」という理解を徹底させることです。
たとえばVisaであれば、差別に遭ったり、差別を見たりした場合には、人事部への報告が義務付けられています。また、報告されたことに対する報復禁止ルールも明確にしています。
そもそも差別はVisa Leadership Principlesから外れた行動ですから、人事評価としてもマイナスになる。逆に、勉強会やワークショップなどの活動をすれば、プラスの評価を受けます。正しい行動が、人事的にもプラスの評価を受ける、つまり人事評価にもしっかりと「倫理規範」が組み込まれていることが重要だと思います。
GEでもVisaでも続けてきた「女性支援」
―― 安渕さんは熱心に女性活躍を支援されていると聞きました。これまでの活動を教えてください。
安渕氏:GEコマーシャル・ファイナンス・アジアに入社した2006年には、「ウィメンズ・ネットワーク」の日本での活動支援を引き受けました。これは、女性の成長やキャリアアップをサポートする、GEグループの支援組織です。
この組織は東京、大阪、福岡などに支部があり、ビジネスリーダーが「チャンピオン」と呼ばれる支援者として関わり、活動を支援します。私もそのチャンピオンでした。
また、2010年に日本GE代表取締役、GEキャピタル社長兼CEOに就任してからは、ダイバーシティの環境作りや、ダイバーシティの理解を促進するトレーニング整備を支援しました。
また、2013年頃には性的少数者であるLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)」を支援するGEグローバルの活動の日本支部の創立メンバーとして、立ち上げに参画しました。グローバルのGEにはこうした活動があったのですが、日本にはまだなかったのです。
さらに、性的少数者に対する理解を深めてもらおうと、LGBTを支援するNPO法人「グッド・エイジング・エールズ」の松中権代表を招いて勉強会なども開催しました。
Visaに入社してからは、「D&I Boosters」という社内ダイバーシティ推進グループのスポンサーをしています。さらに、現在ではVisaのクライアント企業でダイバーシティに取り組んでいらっしゃる方々にお話を伺うなどの活動をしています。
たとえば、丸井グループさんもこういったお客さまの一社です。丸井グループさんは障がい者や性的マイノリティの方々に向けた取り組み支援に力をいれていると伺っており、こうしたお客さまにお応えするためのさまざまな活動についてお話を伺う機会を設けたこともあります。
職位が高ければ高いほど、「NO」と言う人が必要
―― こうした取り組みに積極的な男性経営者は少数派です。取り組み始めたきっかけは何だったのでしょうか。
安渕氏:性別によって仕事能力に差異がないことは、三菱商事に勤務していた時代から感じていました。当時、多くの会社は女性の仕事と男性の仕事を暗黙の了解で区別し、女性には男性社員のサポート業務しか割り当てていませんでした。
しかし、私のチームでは優秀な女性に積極的に仕事をしてもらったところ、非常に成功したのです。「女性に活躍してもらう」ことにおける私にとっての成功体験とも言えます。
チームを統括する立場から見ても、性別で仕事を分担することはプラスになりません。「ベテランの女性社員がサポート業務をし、経験の浅い男性社員がコア業務を引き継ぐ」といった仕事の進め方は非効率です。それよりも、能力のある人に権限を与え、最初から最後まで担当してもらったほうが、結果的によいアウトプットが得られる。
これまで女性は「最初から最後まで任務を遂行する」という機会を与えられていませんでした。しかし、そうした機会を提供することで能力発揮し、素晴らしい仕事をする優秀な女性はいます。
男女を問わず、仕事ができる人に権限を与えて、責任を持って最後まで仕事をしてもらう。そしてそれが社員の成長につながる。こうした環境が「当たり前だよね」と言えるようにならないといけません。
さまざまな考え方や視点を持った人がいることで、チームは活性化します。しかし、日本の男性は上司に対してストレートに意見を言いません。一方、私の経験では、女性は相手が上司であっても異議を唱えたり意見をしたりする「ストレートトーカー」が多い。
個人的な経験から言うと、大組織でポジションが高くなるほど、自分に対して「それは違う」と意見してくれる人が必要になります。異なる価値観・考え方を持った人材がお互いの意見を出し合うことで、これまでにない付加価値を持ったものや新たなサービスが生まれる。こうした成功体験がベースになっていると思います。
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