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  • 2018/02/15 掲載

MITのAI研究所がセクハラ対策ゲームGrayscaleを開発、風穴を開けるか

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動画視聴などでハラスメントの法的責任を学ぶ対策講座は多くの大企業に導入されているが、一連の世界的な#MeTooの動きを見ても、効果が上がっているとは言えない。そこで話題を呼んでいるのが、マサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピュータ科学・人工知能研究所が開発したハラスメント対策をシミュレーションゲーム形式で学ぶGrayscaleだ。既存のハラスメント対策の問題点を分析しながら、シミュレーションゲームによるハラスメント撲滅の可能性を探る。

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

Mint Labs製品開発部長。1981年栃木県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科修了。日本アイ・ビー・エムにてITコンサルタント及びソフトウェア開発者として勤務した後、ESADE Business SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は、スペイン・バルセロナにある医療系ベンチャー企業の経営管理・製品開発を行うとともに、IT・経営・社会貢献にまたがる課題に係るコンサルティング活動を実施。Twitterアカウントは@takayukisato624。ビジネスモデルや海外での働き方に関するブログ「CTO for good」を運営。

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#MeTooで世界的に見直されるセクハラ対策。MITのコンピュータ科学・人工知能研究所も動き出した
(© Photographee.eu – Fotolia)



米大手企業のハラスメント対策予算は数十億ドル

 2017年末から、ハラスメント被害を告発する「#MeToo」運動が全世界で広まった。この事実からもわかる通り、1980年代にセクシャルハラスメントという言葉が生まれて以後、かなりの時間が経っているものの、その問題の深刻さについて認識が十分にされていないのが現状だ。

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 職場においてはセクハラ・パワハラを含めた行為が従業員の心を蝕み、「働き方」を悪化させる原因となっている。企業側から見ても、ハラスメントを放置していると、従業員の意欲低下やメンタルヘルス問題の増加を招き、会社の競争力に影響する。

 米国ではハラスメント対策講座を従業員に受講させている企業が多い。州によっては受講が必須となっている場合もあるため、7割から9割の企業が何らかのハラスメント対策を実施しているという。米国の倫理・コンプライアンス専門会社Navax Global ヴァイス・プレジデントのイングリッド・フリードマン氏によると、「米国の大手企業はハラスメント対策講座のために数十億ドルを予算に組み込んでいる」という。

セクハラ対策講座を受講した男性の方が加害者になるという調査も

 一大産業となっているハラスメント対策であるが、その効果は限定的だという批判もある。多くの講座は、いかに自身をハラスメントから守り、どのように会社に報告するかを解説する動画を視聴する形式だ。これでは、法的責任に関する知識は増しても、人々の行動は何一つ変わらないのだ。

 米国の雇用機会均等委員会(EEOC)は、過去30年にわたって行われたハラスメント対策講座は予防措置としての機能を果たしておらず、その焦点は法的責任を逃れることにあてられている、という調査結果を発表した。また、EEOCはハラスメント被害を受けた従業員の約4分の3は被害を報告せず、泣き寝入りしていることも報告した。

 さらに残念なことに、ハラスメント対策講座を受講した人々には周囲に起きたセクハラを無視したり、被害者を軽んじたりする傾向がある、という研究も報告されており、むしろ逆効果だという見方もある。

 カリフォルニア大学バークレイ校 法律社会学学部教授 ローレン・エデルマン氏は「実際、セクハラ対策講座によって男性がハラスメントを認識しにくくなることもありえます」と語る

 セクハラの法的罰則を目にした男性が、自身の立場を守るため、セクハラの報告から距離を置くようになると考える研究者もいる

 ハラスメント対策は単に動画を見るだけではなく、被害を防ぎ、最小化するよう、人々の行動を変化させるきっかけとなる必要がある。人材管理コンサルティングを手掛けるChief of Mindsは、効果の上がるハラスメント対策講座の条件として、下記の8つの要素を挙げた。

1.現場と講座の内容に関連を持たせる
 日常とかけ離れたシナリオは参考にならない。

2.講座の内容が深刻なものであることを明確にする
 講座は従業員自身を守るためのもの。ユーモアを交え過ぎない。

3.「容認できないもの」と「違法なもの」を定義する
 違法ではないものを違法と認識することを防ぎ、同時に、違法ではないからといって人に不快感を与える行動が許されるわけではないことを伝える必要がある。

4.行動に焦点を当てる
 従うべきルールを並べるだけでなく、適切な行動を見せることに注力する

5.評価し、再評価する
 従業員にどれだけ伝わったのか調査し、講座の改善を続ける。

6.ハラスメントの報告に必要な内容を講座に含める
 管理職と一般社員に別の講座を用意し、相談窓口や、相談窓口が開いていないときの代替窓口も伝える

7.講座に双方向性を持たせ、継続的なものにする
 講座は定期的なもので、フォローアップがあり、継続的なものが効果を上げる。

8.管理職に「その瞬間」の対応方法のガイダンスを与える
 セクハラの報告を受けた際、管理職が不適切な対応をしないようにする。

 ハラスメントは杓子定規に判断できない微妙な問題を含んでいる。露骨なセクハラもあれば、善意の皮をかぶった抑圧的な態度もある。それらの問題に、どのように対処するべきか、1人ひとりが自分の頭を使って向きあうようにしなければ、職場環境は改善できない。今の時代に合わせた、新しいハラスメント対策講座が求められている。

【次ページ】MITが開発したセクハラ対策を学ぶシミュレーションゲーム、Grayscale

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