• 2017/09/21 掲載

洋上風力発電とは何か? どんな仕組みでどんなメリットがあるのか?

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2015年のCOP21でのパリ協定採択以降、再生可能エネルギーの普及が急速に広まっている。こうした中、注目されているのが「洋上風力発電」だ。洋上風力発電とはどのような仕組みなのか?またどんなメリットがあるのか。日本における洋上風力発電の可能性と課題、そして今後の展望を解説する。
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再生可能エネルギーへの期待が高まる中、
日本は「洋上風力発電」のリーダーになれるのだろうか
(© peshkova – Fotolia)



「洋上風力発電」とは? 仕組みとメリット

 風力発電は温室効果ガスを発生させない地球に優しい発電方法として、ヨーロッパを始め多くの国々が導入数を増やしている。世界の風力発電の設備容量は2017年に544GW(前年比111.7%、図では四捨五入した後の112%)になると予想されている。この設備容量の拡大は発電市場において2番目に大きい成長幅であり、風力発電が今後電力市場拡大の要になることを示唆する。

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世界の発電設備容量
(出典:ワールドエナジー・アウトルック、フロスト&サリバン)


 風力発電は太陽光発電とは違い、昼夜問わず発電できるのがメリットだ。しかしながら、現在主流である陸上設置型風力発電では、ブレード(回転羽根)を回せるだけの風が確保できる場所が限定的であり、風力発電所や風力発電装置稼動に伴う騒音被害が悩みの種だった。

 そこで注目され始めたのが、洋上風力発電である。洋上風力発電とは、海洋上に風力発電の設備を作り、海の上に設置された風車を風の力によって回転させて発電することを指す。

 洋上風力発電のメリットは2つある。1つは、陸上に比べてより大きな風力を持続的に得られるため、安定的に大きな電力供給が可能になる点、もう1つは洋上であるため、騒音や万が一の際の人的被害リスクが低く、設置場所の確保がしやすい点である。これらのメリットから、風力発電市場において、洋上化の動きが活発になってきている。

洋上風力発電をアグレッシブに進める「島国・イギリス」

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 ヨーロッパ諸国では、2020年までに電力需要の20%を再生可能エネルギーで賄うという目標のもと、風力発電に力を入れている。ヨーロッパ諸国の風力発電による発電供給量は毎年約10%拡大しており、堅調な増加傾向にある。

 特に注目したいのは、ヨーロッパ主要国のうち、風力発電供給量の増加率がドイツに次いで2位となっているイギリスである。

 イギリスが急速に風力発電供給量を伸ばしている背景には、風力発電の洋上化がある。

 イギリスは1996年より洋上風力発電の導入に積極的に取り組んでおり、2008年10月にデンマークを抜いてから5,355MWの発電量を持つ現在に至るまで、洋上風力発電のグローバルリーダーとして君臨している。

 2016年にイギリスが風力発電に投資した金額はおおよそ127億ユーロと、全ヨーロッパの風力発電投資金額の46%にも及ぶ。イギリスは2020年までに国内供給電力の15%を再生可能エネルギーで発電することを目標に掲げており、そのほとんどを洋上風力発電によって賄おうと、洋上化の勢いをさらに加速させている。

 イギリスはこれまでに、技術取得を目的とした「ROUND1」、比較的海岸に近い15の区域で実用化に成功した「ROUND2」、そして海岸から100~300km以上離れた9つの区域で2020年までの完成を目指す「ROUND3」の3つのプロジェクトを進めてきている。

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ヨーロッパ諸国風力発電資産投資
(出典:ウィンド・ヨーロッパ、フロスト&サリバン)


 イギリスが風力発電の洋上化を急速に拡大している背景には、イギリスの3つの特徴がある。

1. 国土面積が狭い
 イギリスの国土面積は、242,500㎢であり、日本よりも国土面積が狭い。加えて、人口密度は世界33位と、アジアを除く先進国の中で最も人口密度が高い国である。陸上風力発電を導入できる土地が、物理的に少なかったことが洋上化につながったのである。

2.長い海岸線
 イギリスは四方を海で囲まれた島国であるため、長い海岸線をもっている。それにより、必然的に経済水域が広くなり、洋上風力発電を設置する場所の確保がしやすいのである。

3.遠浅の海
 洋上風力発電は海洋上に発電装置を設置するため、陸上よりもしっかりと基盤を設置する必要がある。イギリスのように、遠浅の海が広がっていると、海底に直接装置を設置できるため、波や風の影響にも耐えうる洋上風力発電の設置ができる。

 以上3つの理由から、イギリスは最も洋上風力発電に適していると言われており、ヨーロッパ以外の製造メーカーからも熱い視線が注がれている。

「島国・日本」の秘めたポテンシャル

 これまで洋上風力発電の世界最大の市場であるイギリスが持つポテンシャルについて解説してきた。一方、日本も島国で海岸線が長く、国土面積が狭いという点では、イギリスと共通しており、洋上風力発電に比較的向いている環境にある。

 しかしながら、イギリスとの決定的違いは日本を囲む海にある。現在イギリスを始めヨーロッパで使用されている「着床式」と呼ばれる洋上風力発電は、水深50メートルよりも浅い海域に適用されるもので、日本の海域においてこの条件を満たす場所は限られている。そこで、水深の深い沖合いであっても風力発電を可能にする、「浮体式」洋上風力発電の研究が、日本で進められている。

 ここで、イギリスと日本で使用される2種類の洋上風力発電を紹介する。

1.着床式
 支持構造物を直接海底に埋め込み、固定して建設する方法の洋上風力発電装置。水深50メートルよりも浅いところでの利用が、経済的および技術的に有利とされている。現在ヨーロッパを中心に実用化されている洋上風力発電設備は、ほとんどが着床式である。

2.浮体式
 船舶のような浮体構造物を建設し、海底に固定したアンカーに繋ぎ止める方法の洋上風力発電装置。水深50メートルよりも深いところでの利用が、経済的および技術的に有利とされている。より広い海域での洋上風力発電装置の設置が可能になる上、着床式よりもタービン設置にかかる費用が低いため、洋上風力発電のゲームチェンジャーとして世界から注目されている。

 浮体式装置を使用した洋上風力発電は、世界的に新しい技術であり、実用化に向けて日本での研究が加速している。現在日本では、福岡県、長崎県、福島県にて浮体式装置の実証研究事業が行われている。

 なかでも福島の復興に向けて2011年に開始された福島沖の福島浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業は、浮体式洋上風力発電技術において、世界の最先端である。

 福島浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業は、2MW風力発電設備「ふくしま未来」、7MW風力発電設備「ふくしま新風」、浮体式洋上サブステーション、5MW風力発電設備「ふくしま浜風」を設置し、世界最大級の浮体式洋上ウィンドファームを完成させた。

 この事業を推進している福島洋上風力コンソーシアムは、経済産業省が10の民間企業や大学(丸紅、東京大学、三菱重工業、ジャパンマリンユナイテッド、三井造船、新日鐵住金、日立製作所、古河電気工業、清水建設、みずほ情報総研)とともに作ったものであり、造船、電力インフラ、鋼材、海底ケーブルの最先端技術を活用している。

 その成果の1つとして、洋上変電施設「ふくしま絆」がある。洋上風力発電において、風車が電力を陸上に送る際の送電効率は課題の1つだ。風車で発電した電流をその場で高圧化できれば、送電の大容量化とロスの低減につながる。しかし、通常の変圧器では、コイルや鉄心が液体に満たされている必要があるにもかかわらず、波によってこれらが空気に露出する危険性があった。この「ふくしま絆」には波でゆれても液面がコイルの上に行くよう、世界初の低動揺性強化技術が取り入れられた。

洋上風力発電の2つの課題と今後の展望

 日本が持つ洋上風力発電の地理的なポテンシャル、および実用化に向けての取組みについて述べたが、洋上風力発電の更なる市場拡大には、解決しなければならない課題もある。現在世界的に直面している洋上風力発電の課題は大きく2つある。

1.政府頼りの資金調達
 洋上風力発電は、陸上風力発電に比べて1.5~2.6倍の資本が必要だ。水上に設置するため、陸上よりも頑丈な作りにしなくてはならない上、波や強風などの陸上よりも厳しい気象条件にさらされるため、メンテナンス費もかかる。したがって、非常に多くの資本を必要とするので、発電にかかる費用も高くなってしまう。

 そこで価格競争が激しい電力市場において競争力を高めるために、さらなる技術革新が求められている。しかし、その技術開発に多額の資本が必要となるため、現状では政府の支援に頼らざるを得ない状況になっている。実際に大手商社丸紅は、採算が合わないとして茨城県神栖市鹿島港沖で進められていた洋上風力発電事業から撤退することを決めた。2012年に丸紅が事業計画を立てたときに予想していた、洋上風力発電機コスト低下が現実にならなかったからだ。

 洋上風力発電はコストが非常にかかるため、民間企業だけでは価格競争力を上げることは難しい。そのため、洋上風力発電開発に対する各国政府の支援体制が、その国の洋上風力の市場競争力を大きく左右する課題となっている。

2.求められる技術開発
 現在急成長を遂げている洋上風力発電だが、未だ技術的な課題が山積している。発電量を多くするため大型化した風力タービンや浮体式風力発電装置などを安全に稼動させるための高度な技術が求められているのはもちろん、設置に伴う輸送手段などのロジスティクスや送電効率などの電力供給の面でも、技術革新が求められている。

 最後に、洋上風力発電の技術的課題解決に向けて、日本が持つ国際競争力の優位性について言及したい。

 世界をリードする技術研究が進む、浮体式洋上風力発電は、水上に浮かぶ構造という点で、造船技術とつながるものが多い。そして造船技術は、かつて造船市場において世界トップのシェアを誇った日本のお家芸といえる。

 実際に福島浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業には、三井造船や三菱重工業など、長年に渡り高度な造船技術を培ってきた民間企業が参画している。

 日本が誇る造船技術は、風力発電において日本の市場競争力を高める大きなアドバンテージになるであろう。福島浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業はフクシマ復興だけでなく、日本の再生可能エネルギーの市場競争力を高める切り札になるかもしれない。

 その他の詳細は、「TechVision」で提供しているのでぜひご覧いただきたい。

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