• 2017/04/14 掲載

「心理的安全性」を作るマネージャーがイノベーションを起こす

元グーグル ピョートル・フェリークス・グジバチ氏インタビュー(後編)

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国、産業、企業規模に関わらず、イノベーションの必要性が叫ばれている。しかし、成功している日本企業は多くない。グーグル、モルガン・スタンレーにおいて人材開発に携わってきたピョートル・グジバチ氏は、「イノベーションの成否はマネージャー次第」と指摘する。イノベーションを「起こすマネージャー」と「潰すマネージャー」とは、どう違うのか。
(聞き手・編集:編集部 佐藤 友理)

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プロノイア 代表取締役
モティファイ チーフHRサイエンティスト
ピョートル・フェリークス・グジバチ氏
前編はこちら


イノベーションにはダイバーシティと心理的安全性が必要だ

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――ピョートルさんは著書『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか』の中で「クリエイティブな発想をするには集合知、コレクティブ・インテリジェンスを活用せよ」とおっしゃっていますね。イノベーションはチームで取り組むことが重要なのでしょうか。

ピョートル氏:1人でできることには限界があります。1人でできること、2人でできること、3人でできること、4人でできること。これは足し算で増えていくと思いますか? 実は、掛け算なんですよ。集合知は指数関数的に増えるのです。

 たとえば、僕がいない3人で作ったものと、僕がいる4人で作ったものはどちらがいいものになる可能性が高いかといったら、後者です。それは僕が特別な人間だからというわけではなくて、ダイバーシティ(多様性)が増えたからです。外国人で、男性で、日系ではない企業の経験があって、というような属性や立場の違いによって、異なるものの見方ができます。イノベーションを起こすには、多様性に富んだ集合知が不可欠です。

 ただし、これを実践するには職場で心理的安全性が担保されていなければなりません。心理的安全性とは、人が持つ「信頼されている」「尊重されている」「必要とされている」「努力をわかってくれる」という感情です。人はこの心理的安全性を感じることができると、相手のことを信頼して気持ちが楽になり、今まで以上に成果を出せるようになるのです。以前グーグルの研究でわかったことなのですが、職場の心理的安全性が高くないと、個々のメンバーはうまく力を発揮できないのです。

グーグルでも重視される「T型人材」「π型人材」

ピョートル氏:また、個々のメンバーが役割を超えて、一緒に共通課題を解決しようとする姿勢も重要です。「私は経理だから経理関連のことだけ発言する」「私は編集者だから記事以外のことは発言してはいけない」などと思わないで、部門や会社で解決すべき課題があればどんどん意見をいえばいいのです。さらに、1人の人間の中における多様性も歓迎すべきことです。

 自分の中に多様なアイデンティティを持つことがイノベーションの源泉です。たとえば、「芸術が好きな自分」「男性である自分」「息子である自分」「配偶者である自分」など、これらは1人の中に同時に存在しうるアイデンティティです。

 私が知っているある女性は、動物が好きな人でした。彼女は企業で働く傍ら、趣味でペットの情報を配信するWebサイトを作りました。そこで広告収入を得るようになり、ペット用品を販売するようになりました。結果として、副業収入が本業を上回るようになり、最終的に退職し、起業しました。

 大切なのは、専門的な知識を学校やなにかで学ぶことではなく、夢中になれるもので新しい分野を作ることです。自分が持っているアイデンティティ、スキル、情熱を組み合わせれば、まだ誰もやっていないことにたどり着けるんです。先ほどの女性は「ペットが好きな自分」と、「ビジネスパーソンとしての自分」を掛け合わせて、新しいビジネスを創ったわけです。

 グーグルでも、「T型人材」「π型人材」といって、自分の専門領域に加えて、何か1つ、あるいは2つ、特筆すべき趣味や経験を持っている人を採用しようとしていました。最近は、「H型人材」といって、コミュニティとコミュニティの橋渡しができる人も組織にとって価値ある人材であることがわかってきました。

「何を言ったか」より「誰が言ったか」?

――会社にいれば誰しもイノベーションに貢献したい気持ちはあると思うんですが、「何を言ったか」という発言の内容そのものより、「誰が言ったか」で発言が尊重されるかどうかが決まるところがあるような気がします。

ピョートル氏:「若造がえらそうなことを言うな」というものですね。生意気な若者は必要な存在なんですけどね(笑)。

 ある会社で組織開発の1泊2日のワークショップをお手伝いしたときのことです。ある拠点のマネジメント層から一般社員まで全員集まってもらってフリーディスカッションをしたんです。マネジメント層は「何でも好きに言っていいよ」と言うんですが、若い人は上の人の顔を見て何も発言しないんですね。2日目、皆さんに参加の感想を言ってもらったんですが、ある中堅クラスの女性が言ったんです。「チームで共同作業しているとき、このままでは失敗すると思いながら、私が言っても誰も聞いてくれない。誰か他の人が言ってくれないと、と思っていた自分の固定観念に気がつきました」と。まさにこれですね。

――ここには2つの問題があると思います。1つは、若い人や女性が発言してもマネジメント層が耳を傾けない企業風土がある。もう1つは、若手や女性が「どうせ言っても無駄だ」と学習してしまっている。この事態を脱却するにはどうしたらいいですか。

ピョートル氏:ダイバーシティを進めるしかないでしょう。違う業界、違う年齢、違う国籍、そういった外のものを取り込んで、異なるものの見方を学ぶしかありません。僕の人事コンサルタントとしての役割も、外からの目でその会社の人々に気づいてもらうというところが大きいですね。

イノベーションを「起こすマネージャー」と「潰すマネージャー」

――こう考えてくると、イノベーションを成功させるのも、潰すのもマネージャー次第という気がしてきますが、マネージャーとして絶対やってはいけないことというのは何でしょう。

ピョートル氏:マネージャーの仕事は、管理することではなく、人とチームを育成することです。だから、部下の意見を聞かないというのは絶対やってはいけないことですね。日本企業には、入ってきたばかりの社員を「弟子」と思っているところがあって、とにかく言うとおり働いて、何かいいたければまず一人前になってからだ、といったような風潮があるようですが、これはまちがっていると思います。

 僕がいたモルガンスタンレーやグーグルでは当たり前で、日本企業の多くでは当たり前でないことに「一対一面談」があります。一週間に一度、1時間ぐらい部下と面談の機会を持つというものですが、日本企業にこれを勧めると「一週間に1回2人で会って何を話せというんですか」という質問が返ってきます。

 面談の目的は部下の意識を言語化することです。「今やっているプロジェクトはどうですか」「この先どう進めようとしていますか」「何かボトルネックがありますか」「仕事をしていて楽しいと思う瞬間はいつですか」と聞くことはいくらでもあります。このように話を聞くことで、心理的安全性を高めるとともに、部下が力を発揮できる環境をどう整えるかを考えるのです。

 マネージャーの仕事は、人とチームを育成し、パフォーマンスを高める仕組みをつくることです。それがわかっていたら、「誰が言ったか」は重要ではなくなります。相手を否定したり、意見を拒否することは絶対にしてはいけません。

 組織のパフォーマンスが上がらないとき、「結果を出して」というのがマネージャーの仕事と思っている人が多いですが、そうではありません。そういうときは、問題を「パフォーマンスの問題」ととらえるのではなく、「パフォーマンスにつながる学び」としてとらえなければいけません。

 どうしたら彼がワンステップ上ることができるか。ノルマの数字を変えることかもしれないし、仕事のやり方を変えることかもしれない。「どうやって変えたらいいと思う?」と部下と話し合いながら学んでもらう。それでパフォーマンスは上がるし、それがイノベーションにつながっていくと思います。

前編はこちら
(聞き手・編集:編集部 佐藤 友理)


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