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  • 2019/10/17 掲載

GAFAのESG戦略に学べ、前のめりなアマゾンが開けた「パンドラの箱」

米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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米国の有力経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が2019年8月18日、過去半世紀にわたって米財界が推進してきた株主第一主義を廃止すると発表した。米テック大手アマゾンも名を連ねたこの文書は、「株主利益のみの追求をやめ、今後は利益追求とともに、社会的責任を果たすことにも注力すべきだ」としている。同社では、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス・企業統治)のバランスを総合的に実現していくESG戦略を推進しているが、それがいかに利益とリスクの両方をもたらしているかを明らかにする。
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風力発電所「Amazon Wind Farm Texas」を抱え、SDGsに積極的なアマゾン。ESG経営に着手する上で良い手本となるか
(出典:Amazon Press center)


ESGが求められる背景は、利益至上主義への反省

 いま米国で、日本で、そして世界で企業の社会的責任にスポットライトが当たっている。

 なぜ企業が従来の利益至上主義から社会全体の利益も考慮した経営のあり方を模索するようになったのだろうか。アマゾンのESG戦略を理解するためには、そこから解き明かさねばならない。

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 過去半世紀近くにわたり、米資本主義の株主至上主義や利益最優先主義を支えてきたのは、ノーベル経済学賞の受賞者で、「シカゴ学派」の総帥と崇められた米経済学者ミルトン・フリードマン(1912~2006)の学説だ。

 フリードマンは1970年に、「企業経営者の唯一の使命は株主利益の最大化」「経営者は、法律が要求する以上の社会的責任を負わない」「(社会的責任を取らないことでもたらされる)利潤の最大化は善である」という絶対自由主義のドクトリン(基本原則)を唱え、それが米企業活動のバイブルのように受け入れられてゆく。

 米経済が製造業の衰退や高インフレなどに起因する1970年代の低迷から立ち直って驚異的な成長を続け、長い好況が続いたのは、このドクトリンの採用によるところが大きい。

 だが、半世紀の時を経て、その弊害が誰の目にも明らかとなってきた。経営者たちは短期的な利益を上げることのみに集中し、危険で時には違法な行為にさえ手を染めるようになった。従業員やコミュニティの利益は企業の目的ではないため、顧みられることが極端に少なくなった。リスクテイキングな経営は、逆に企業に対する訴訟や捜査や規制を招くことが多くなった。

 つまり、株主至上主義にかかるコストが利益を上回ることが増えたのである。こうした結果に対する反省から、環境・社会・企業統治を重視するESGの実践が脚光を浴びるようになった。

 「世界を変えていきながらもうけよう」という哲学であるESGが財界人から注目を集めることになった背景には、このような従来の資本主義のあり方に対する反省がある。

 ただし、ESGの「環境・社会・企業統治」基準は、業界団体や政府が厳密に要件を定めているわけではなく、罰則や法的責任も生じない。それぞれの企業が独自のゴールを定め、到達度を自己評価するという、「努力目標」であることに注意する必要がある。

 その意味において、類似のコンセプトである「持続可能な開発目標(SDGs)」と比較して、ESGは企業にとってよりハードルが低い。

積極的なアマゾン、「2040年二酸化炭素排出ゼロ」の公約も

 アマゾンは、世界有数の企業として、独自のESGおよびSDGs活動に取り組んでいる。たとえば、同社のクラウドサービスであるAmazon Web Services(AWS)は、米国務省などと協力してSDGsに参加する世界16社のスタートアップがAWSを利用して各社の持続可能な開発目標が達成できるよう手助けをするイベントを開催した。これにより、アマゾン自身がSDGsに貢献していることになる。

 自社サービスとしては、「アマゾン持続性データイニシアティブ」も提供しており、AWSを使って顧客企業が公共ビッグデータを分析し、これらの企業が持続性イノベーションを創造する役に立っている。

 また、米太陽エネルギー産業協会(SEIA)が発表した2018年版の報告書によれば、太陽光発電の設備容量(発電設備における単位時間当たりの最大仕事量)でアマゾンは329.8メガワット(MW)と、アップルの393.3MWに次いで米企業の中で第2位の好成績であり、環境面でクリーンな実績をあげている。

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大量光発電の設備容量ランキング(2018年時点)。GAFAのうち3社がトップ10に食い込む
(出典:2018 Solar Means Business Reportを基に作成)

 アマゾンはすでに15の大規模な風力および太陽光発電プロジェクトを立ち上げ、年間1.3ギガワット(GW)相当の発電能力を備えていることが特筆される。2024年には使用エネルギーの80%、2030年には100%を再生可能エネルギーにする予定だ。

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アマゾンのフルフィルメントセンターに設置された太陽光発電パネル
(出典:Amazon Press Center)

 加えて、ジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は、2030年までにアマゾンが発送する商品の半分を、カーボンニュートラル(排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量に抑える、すなわち新たな二酸化炭素の排出は行わない、という概念)にすると宣言している。

 さらに野心的なのは、2040年に二酸化炭素排出をゼロにすると公約したことだ。これは、「気候変動に関するパリ協定」が目指す2050年までのカーボンニュートラル達成より10年も早く、アマゾンが規範を示すことを意味する。

 このため同社は、配送向けに電気自動車(EV)を10万台発注する一方、森林・湿地帯の保全に向けて自然保護団体の活動に1億ドルを投じると表明した。

 また、ESG実践で高評価を得てきた生鮮・健康食小売大手のホールフーズを2017年に買収したことにより、ホールフーズの健康な食生活への貢献(社会)、労使の良好な関係(ガバナンス)、食肉用の動物に対する愛護(社会)など、傘下に入った企業の実績をも買収した形となった。

 さらに、Amazon Payなどで、銀行口座を持てない信用度の低い金融弱者向けの金融サービスへのアクセスを提供していることは、地道な社会貢献だと言えよう。

【次ページ】フェイスブックの失敗に学べ、噴出するアマゾンの矛盾
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