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  • 2018/09/20 掲載

ESG経営を実現させる3つの戦略とは何か

デロイト サステナビリティ 日本統括責任者が解説

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ESG投資の拡大をはじめ、ESGへの取り組みの流れは大きく加速している。企業もESG課題への取り組みが重要だと感じている一方で、まだまだその対応は鈍いというのが現状だ。そもそも、ガバナンスにどのようにしてESG課題を組み込んでいけばよいのか。デロイト トーマツサステナビリティ代表取締役社長・有限責任監査法人トーマツ パートナーの達脇恵子氏が、企業が取るべき3つの対応を解説した。
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デロイト トーマツサステナビリティ代表取締役社長
有限責任監査法人トーマツ パートナー
達脇恵子氏

ESGをとりまく大きな流れをつかむ

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 企業がESG戦略を持続的に取り組むためには、まずは環境(E)と社会(S)の視点をガバナンス(G)に組み込むことが必要である。そのためには「まずは経営者がESGをとりまく大きな流れをつかむことが大事」と達脇氏は語る。

 現在、ESG投資の拡大トレンドが国内外で進んでいることは、国際連合(国連)が2030年までの15年間で達成するために掲げた目標「SDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」が今や世界共通言語としてさまざまなプレーヤーが目標としていることなどからもうかがえる。

 その傾向は、PRIの「The SDG investment case」の発表、日本政府によるSDGsの推進本部の設置や「SDGsアクションプラン」の発表、経団連によるSociety5.0 for SDGs」の発表や“Society5.0の実現を通じたSDGsの達成”を柱とした「企業行動憲章」の改訂などにも表れている。

 また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に対して賛同の意思表明をする機関や企業が各国で広がっており、TCFDの存在感が増している。その一方で、「国別に見ると日本の賛同企業数はまだまだ少ない」と達脇氏は指摘する。とはいえ「日本の企業がそれほど気候変動リスクに興味がないというわけではない」という。ただ、日本企業の特徴として、慎重になっている企業が多いとのこと。

 世界のリスク認識においても、環境(E)と社会(S)のリスクは大きな位置を占めるようになってきている。たとえばダボス会議が発表した今後10年における「発生の可能性」トップ10と「影響の大きさ」トップ10のリスクの中には、環境および社会リスクが大勢を占めていた。「この調査は毎年、当社でチェックしているが、年を追うごとに社会・環境リスクが増えている」と達脇氏は力強く語る。

 さらに、デロイトが経営幹部や取締役会メンバー300人以上に行った調査では、「サステナビリティ/企業の社会的責任(CSR)」が最も影響を受ける事業戦略上のリスクとして挙げられたという。同調査は数年ごとに行われており、「前回の調査では、サステナビリティのリスクは影も形もなく、ここ数年で一気にトップに躍り出てきた。世界の経営者は、社会の変化を肌で感じているからだろう」と達脇氏は推察する。

 これらの大きな流れからわかることは、もはやESGの視点は一時的なトレンドではないということだ。「企業もこれまでの経営のありようを見直す段階に来ている」と達脇氏は力説する。企業のガバナンスの中に環境や社会という視点をしっかり組み込み、意思決定や行動する際にその視点が漏れてしまわないようにすることが重要なのである。

「重要な社会課題を長期戦略に組み込み、その長期戦略から中期経営計画や年度計画、さらにバリューチェーン全体の活動に落とし込む。そしてそれらの活動の結果を開示し、ステークホルダーからの意見、要望を受け止め、次の計画に生かしていくことが求められている。自社でPDCAを回すだけでなく、社会を取り込んだ大きなPDCAサイクルを経営の中につくっていくことが重要です」(達脇氏)

 では、ESGを経営に取り込むために、具体的に企業はどのようにして取り組んでいけばよいのか。「いろいろな方法が考えられるが、今回は次の3つの方法を紹介する」と達脇氏は前置きし、企業に求められる対応について解説した。

対応(1)「取締役会にESGを組み込む」

 まず1つ目の対応は、取締役会にESGを組み込むことである。「この方法には3つのポイントがある」と達脇氏。

 第1のポイントは社外取締役の役割だ。昨年、有限責任監査法人トーマツが経済産業省から委託を受け実施した調査(「コーポレートガバナンスに関するアンケート調査結果2017年版 」)によると、社外取締役への期待役割として「経営の監督を行う」「経営陣に経営に関する助言を行う」などのほかに、「株主以外のステークホルダーの意見を取締役会に反映させる」ことが挙げられていた。

 つまり社会の声、ステークホルダーの声という社会の風を取締役会に吹き込む役割が社外取締役にはあるという。

 第2のポイントは取締役会議案だ。デロイトが発行する「Sustainability and the Board」にも書かれているが、「サステナビリティに関わることを取締役会の定常的なモニタリング事項とし、常にその観点で議論が行われる状況を作ることが大事になる」と達脇氏は言い切る。

 第3のポイントは役員報酬へのESG要素の組み込みだ。すでにそのような取り組みをしている企業も出てきている。オムロンはDJSI(Dow Jones Sustainability Induces:ESGの株式指標)に基づくサステナビリティ評価を役員の報酬の中に組み込んでいる。そのほかにも、コニカミノルタは、ESGの非財務指標に関わる取り組みを含む重点施策の推進状況が、日本航空は安全や顧客満足などが、資生堂は経営哲学や企業理念を反映した重要目標がそれぞれ役員報酬に組み込まれているという。

 取締役会へのESGの組み込みは、企業だけの動きではない。UNEP-FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)が出しているレポート「Integrated Governance」では、サステナビリティ統合型ガバナンスへのステップを提示するなど、後押しをしている。

「最終的には、サステナビリティ委員会が不要になり、取締役会がサステナビリティ戦略を管轄する。メインの議題の1つとしてサステナビリティが取り扱われるようになるだろう」と達脇氏は予測する。

 ただし、その際に注意しなければならないのは優先順位だという。たとえば経営企画にサステナビリティの機能を統合するケースでは、どうしても直近のビジネスをどうするかという話が優先されてしまい、10年後を視野に入れたサステナビリティの議題が後回しになってしまいがちだからだ。

【次ページ】対応(2)は「戦略立案プロセスへの組み込み」、対応(3)は?
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