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世界の気候変動問題の解決には欠かせない存在である政府間組織「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」。耳にすることはあっても、実際に何をしている組織なのかあまり知られていない。各国の環境問題に対する意識が高まる今こそ、IPCCの存在意義や役割は認識しておく必要があるだろう。ここでは、IPCCが「具体的に何のためにどのような活動をしているのか」、「どのような人たちが関わっている組織なのか」、まるごと解説する。
IPCCとは
IPCCは、“Intergovernmental Panel on Climate Change”の略称である。日本語では「気候変動に関する政府間パネル」と訳されるが、今や、IPCCという英語の略称の方が浸透しているかもしれない。
IPCCとは、人間が引き起こす気候変動の影響やそのリスク、またそれらへの対応策の選択肢について、科学的・技術的・社会経済学的な情報を世界中から集めて評価し、その結果を世界各国の政府・政策決定者や一般の人々に知らせる役割を担っている組織だ。
IPCCのユニークな点としては、科学者が協力して政策決定者に助言を行う仕組みを、恐らく史上初めて世界規模で実現したことである。
また、IPCCが作成する報告書は「政策的に中立でなければならず、政策を規定するものであってはならない」という原則も、IPCCを理解する上で重要である。
IPCCは、気候変動に関する政策を検討する上で必要な情報を科学の立場から提示するが、特定の政策を推奨することはしない。科学的な情報に基づいて、とるべき行動を決めていくのは、科学者ではなく政策決定者の役割だからである。この原則は、設立時から30年以上にわたって一貫して守られている。
IPCC設立の背景
IPCCは、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立され、その年の国連総会の承認を経て活動を開始した。これは、人間の活動により引き起こされる地球温暖化(気候変動)が、1980年代に国際政治上の課題として認識されるようになったことが背景となっている。
大気中の二酸化炭素が増えると地球の平均気温が上昇するという地球温暖化のメカニズムは、100年以上も前から科学的には指摘されていた。しかし、それが人類にとって大きな問題となり得ると広く認識されるようになったのは、20世紀後半になってからである。
特に、1985年にオーストリアの都市フィラッハに科学者が集まって開催された国際会議で、「二酸化炭素など温室効果を持つガスが大気中で増加することによって、21世紀の前半には地球の平均気温が人類史上かつてないほど上昇するだろう」という警告が発せられたことが、その3年後のIPCC設立につながった。
IPCCは国連の下に位置する組織だが、多くの専属職員を抱えているわけではなく、その活動は世界中の数千人の科学者の自発的な貢献によって支えられている。
IPCCを構成する3つの作業部会、それぞれの役割
気候変動に関わる問題はさまざまな分野に及び、その科学的評価・検討を行うために必要な専門性も多岐にわたる。このためIPCCは、専門分野の異なる三つの作業部会(Working Group)を設けて、それぞれの分野に必要な専門家のネットワークを形成している。
第1作業部会(WG1)は自然科学的根拠の評価を担当している。たとえば、平均気温がこれまでどれくらい上昇し、今後どれくらい上昇すると予測されるか、あるいは海水面上昇についてはどうかなどについて科学的知見をまとめる役割である。
第2作業部会(WG2)は気候変動の影響、適応方策と脆弱性評価を担当している。たとえば、気候変動によって水資源や生態系はどのような影響を受けるか、健康被害や災害発生などによる経済的損失はどれくらいか、また、そのような影響・被害を抑えるためにどのような方策があるか、などについてまとめる役割である。
第3作業部会(WG3)は気候変動の緩和方策についての評価を担当している。第2作業部会が気候変動による影響とそれへの対処方法を評価しているのに対して、第3作業部会は気候変動そのものを抑えるための方策について科学的に評価する役割を持つ。
さらに、IPCCはもう1つ、国別温室効果ガスインベントリーに関するタスクフォース(Task Force on National Greenhouse Gas Inventories: TFI)を設けている。TFIは、温室効果ガスの排出量・吸収量を世界中の国がなるべく正確に把握できるよう、標準的な算定方法を開発しそれを普及させる役割を担っている。
IPCC全体の事務局(在ジュネーブ)のほかに、各作業部会とTFIはそれぞれに事務局機能(技術支援ユニット=TSU)を持っている。
このうち、TFIのTSUは、日本政府の支援により地球環境戦略研究機関(IGES)に1999年に設置され、現在に至るまで精力的に活動を続けている。
IPCCの報告書の種類
IPCCの報告書にはいくつかの種類がある。具体的には、(1)「評価報告書(Assessment Report)」、(2)「特別報告書(Special Report)」、(3)「方法論報告書(Methodology Report)」などである。ここからは、各報告書の特徴を解説する。
(1)「評価報告書」
評価報告書は、気候変動問題全般にわたって最新の科学的知見をまとめたものである。3つの作業部会がそれぞれ担当分野の報告書を作成し、さらにそれらをまとめた「統合報告書」が作成されることによって、評価報告書は完成する。IPCCはこれまで、数年置きに5回にわたって評価報告書を作成してきた。
1990年に完成した第1次評価報告書は、人間の活動のため大気中の温室効果ガス濃度が上昇しており、それによって将来地球の表面温度が上昇することを改めて確認した。同報告書は、地球温暖化対策の必要性についての世界中の政策決定者による認識の共有を促し、1992年の「気候変動に関する国際連合枠組条約(国連気候変動枠組条約、UNFCCC)」の成立に大きく貢献した。
1995年に発表された第2次評価報告書は、地球温暖化対策の緊急性・重要性を示唆する新たな科学的知見を示し、先進国に排出量削減目標を義務付ける京都議定書の合意(1997年)に影響を与えた。
最近では、2013年から2014年にかけて発表された第5次評価報告書が、2015年のパリ協定の合意に大きな影響を与えた。このように、IPCC評価報告書は、気候変動をめぐる国際交渉、とりわけ国連気候変動枠組条約の下で、政策上の議論に科学的な根拠を与えるという大きな役割を果たしてきたのである。そして現在は、「第6次評価報告書」の作成が進められている。そのポイントについては、後半解説したい。
【次ページ】IPCCの「特別報告書」「方法論報告書」、さらには「第6次評価報告書」をまるごと解説
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