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  • 2018/09/18 掲載

免許証返納はわずか5%、アブナイ高齢ドライバーは今後も増え続けるのか

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昨日9月17日は「敬老の日」。日本はこれから、75歳以上が現状の約3割増える「超高齢社会」になる。75歳以上の運転免許保有者も、事故件数も伸び続けると予測される。それを防ごうと警察庁は高齢者の免許更新時の検査を強化し「免許証の自主返納」を呼びかけているが、応じない高齢者からは「ここではクルマがないと生きていけない。しかたない」という声があがる。しかし今、全国各地の自治体では、免許証を返納しても、クルマがなくても、生活に不便をきたさない施策を次々と打ち出している。財政支援も受けて年々拡大しているこの「免許証返納経済圏」には、ビジネスチャンスがある。
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75歳以上の運転免許保有者数は、2020年には600万人に達するといわれる
(©maroke - Fotolia)


人口3割増の75歳以上が「危ないドライバー」に

「赤信号を無視して交差点に入ったが、気を失って覚えていなかった」
「駐車場でアクセルとブレーキを間違え、コンビニに突っ込んだ」
「インターチェンジで出口を入口と勘違いして、高速道路の追越車線を逆走した」

 これは高齢の運転者による死亡事故例のごく一部。当の高齢ドライバーからは「個人差がある。一緒にするな!」と怒られそうだが、全国の交通死亡事故全体が減っているのに対し、その中に占める高齢ドライバーが起こした事故の割合は、年々増加している。

 内閣府の「平成29年版交通安全白書」によると、交通死亡事故に占める75歳以上の運転者による事故の割合は、2010年の10.0%から2016年の13.5%へ、右肩上がりのペースで6年間で3.5ポイント上昇した(警察庁資料による/原付以上第1当事者)。

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交通死亡事故に占める75歳以上の運転者による事故の割合(単位:%)の推移

 「75歳以上」は、65~74歳の「前期高齢者」と区別し「後期高齢者」と呼ばれる年齢層。疾病や要介護になるリスクが高いことから2008年4月、前期高齢者と切り離した「後期高齢者医療制度(長寿医療制度)」が発足した。

 内閣府の「平成30年版高齢社会白書」によると、2017年で1942年(昭和17年)以前生まれの75歳以上の人口は1748万人だったが、今後は終戦後の1946~1950年頃生まれの「ベビーブーム世代」「団塊の世代」が持ち上がってくるので、2030年には2288万人へ約3割、540万人も増加する。そのボリュームは、現在の名古屋市と大阪市の総人口の合計にほぼ匹敵する。

 2030年の日本の高齢化率(65歳以上の人口比率)は31.2%で、2017年の27.7%から3.5ポイント増えるだけだが、65~74歳が1767万人から1428万人へ339万人減少する一方、75歳以上の年齢層には大都市2個分の540万人が流れ込む。平均寿命が伸びていることもあり「人生100年時代」「超高齢社会が到来する」といわれている。

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65歳以上の高齢者数(単位:万人)と高齢化率(単位:%)の将来の推計

 これから75歳に達する世代は、現在80代の「昭和ひとケタ」とはまた違う人生を歩んできた。学校を卒業して社会に出た1960年代は、1964年に東海道新幹線が開通して前回の東京五輪が開催されるなど、高度経済成長まっただ中。

 モータリゼーションの波が起きて「マイカー時代」が到来し、自家用車が普及した。企業も普通免許(当時)の取得を奨励していたので、当時の若い世代は男性も女性も自動車教習所に通って免許を取り、週末はドライブに出かけた。

 だからこの世代は前の世代と比べて運転免許の保有率が高い。「交通安全白書」によると、75歳以上の運転免許保有者数は2017年の542万人から2020年には600万人に増えると推計されている。

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75歳以上の運転免許保有者数の将来の推計(単位:万人)

 75歳以上の人口に占める免許保有者比率は2017年の31.0%から2020年の32.0%へ伸びる計算で、ほぼ3人に1人が運転免許を持つ。それに「団塊の世代」が加わる2020年代後半には、75歳以上のほぼ2人に1人が運転免許を持っている時代がやってくる。

 かつて、免許とりたてで運転未熟なドライバーは事故率が高く「危ない18歳」と呼ばれていた。だが今後は、警察庁調べの事故率上昇中の「危ない75歳以上」のドライバーが全国にあふれる。自動車保険料もかつては20歳以下が最も高く、35歳以上は全て最安値だったが、損害保険各社は2015年10月から60歳以上の自動車保険料を高くし、70歳以上はさらに高くした。高齢者は事故のリスクが高いと、保険会社も認識している。

自主返納者への優遇は拡大しているが……

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 警察庁は免許更新時、「高齢者マーク」をつける70歳以上は「高齢者講習」、75歳以上は「講習予備検査(認知機能検査)」を義務づけていたが、2017年3月に制度を改正し、検査で「認知機能が低下しているおそれがある」と判定されたら「高度化講習」(3時間)の受講が義務づけられた。

 さらに「認知症のおそれがある」と判定されたら「高度化講習」に加え臨時適性検査または医師の診断書の提出が求められ、結果によっては免許取り消しや免停が命じられるようになった。

 自分の意思で運転免許を警察署に返上し、身分証明書代わりの「運転経歴証明書」の交付を受けられる自主返納制度は1998年に導入された。自主返納者は2015年の自動車保険料の年齢条件の改正による「経済効果」もあいまって、2015年は前年比37.5%増、2016年は20.6%増、2017年は22.3%増と、増加のピッチが一段と上がっている。

 伸びが大きいのが75歳以上で、2016年は前年比30.6%増、2017年は56.1%増というハイペース。75歳以上の免許保有者全体に占める返納者の割合も2016年の3.16%に対し2017年は4.67%で、1.51ポイント上がっている。最近は警察や自治体がレジャー施設、宿泊施設、飲食店の利用割引、タクシーの割引、小売店の配達料無料などさまざまな特典を用意して、65歳以上の運転免許自主返納を促している。

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運転免許証の自主返納者数(単位:万人)の推移

それでも自主返納しない、最大の理由

 しかし、増えているとはいえ自主返納している人数は、75歳以上でたかだか20人に1人という割合である。残りの19人はなぜ、自主返納をしないのか?

 「まだまだ元気で運転できる」と自信を見せたり、「見返りの特典が物足りない」という声もあるが、かなり大きな比率を占めているのが「地方ではクルマがなければ生活に困る」という、地域の交通事情を挙げた理由である。

 鉄道はとっくに廃線。路線バスも次々廃止され、タクシー会社も減車して「完全クルマ社会」になった地域では、クルマがないとスーパーにもコンビニにも病院にも役場にも行けない。大げさではなく「クルマがないと生きていけない」から、免許を返納したくても、できない、というのだ。そのため身体が弱っても、反応や判断力が鈍っても、認知症になってもクルマを運転し続ける。

 これは、鉄道やバスが発達した大都市圏以外の全国の自治体が共通で抱えている問題である。大都市圏でも、少し郊外に出ればクルマ社会に近く、その事情に大きな差はない。高齢者が自分から進んで運転免許を自主返納し、地域の交通安全が図れるようにするには、クルマ以外の生活の足が確保でき、「クルマがなくても、生きていける」街に変えなければならないと、自治体は地域の交通政策に真剣に取り組んでいる。

【次ページ】免許証返納が作る「経済圏」とは一体何のことなのか
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