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  • 2018/05/07 掲載

スリープテック(睡眠テック)がいよいよ本格化、「眠れない日本人」を救うか

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日本人は、よく眠れない。統計データによると平均睡眠時間は先進国でも最低レベルで、年を追うごとに眠れなくなっている。特に大都市圏郊外に住む中年男女の睡眠時間が短い。睡眠の量だけでなく質も悪く、これでは身体にいいわけがないと、わかっているけど眠れない。睡眠時間が確保できないなら、せめて睡眠の質を良くしたい。「睡眠ビジネス」は少なくとも1兆円以上の巨大産業だが、そこへITなどテクノロジーを活用して参入するのが「スリープテック」。企業の働き方改革にも後押しされ、「満足な眠り」をめぐるビジネスチャンスが目を覚ます。
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「量」「質」ともに、多くの日本人が満足できていない睡眠。だからこそ、スリープテック市場は大きな可能性を持つ
(© sopradit – Fotolia)


遠距離通勤する日本の中高年は、世界で最も睡眠時間が短い人類?

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 睡眠は、食事、運動とともに「健康の三大要素」に挙げられる。しかし日本人の睡眠時間は国際比較でも少ない部類で、しかも年々削り取られる一方だ。

 「先進国クラブ」とも呼ばれるOECDが2011年に加盟国の国民の平均睡眠時間を調査したところ、日本は7.9時間でOECD平均の8.3時間よりも少なく、それより悪いのは韓国の7.7時間だけだった。アメリカは8.5時間、職場でも「昼寝の時間」をとる習慣がある南ヨーロッパのスペインは8.5時間、イタリアは8.7時間だった。

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主要先進国の国民の平均睡眠時間

 総務省統計局は「社会生活基本調査/生活時間に関する結果」で、5年ごとに国民の睡眠時間をアンケート調査している。2016年の最新のデータによると、平日、土曜、日曜を含めた平均で7時間40分だった。男女別では男性は7時間45分、女性は7時間35分で女性のほうが少ない。現役世代で仕事についている男性有業者の平均睡眠時間は減少の一途をたどり、1976年(昭和51年)は8時間12分だったが、2016年は7時間29分で、40年間で43分、8.74%減少した。

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男性有業者の平均睡眠時間

 では、睡眠時間を最も犠牲にしているのはどの年齢層なのか?男性は50~54歳の7時間11分、女性は55~59歳の6時間51分が最も少なく、男女とも45~59歳の働き盛りの中高年が「最も寝ていない年齢層」だという調査結果が出ている(「社会生活基本調査」2016年)。15~64歳の現役世代では20~24歳が最もよく寝ている年齢層で、男女とも8時間近い。

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男女年齢別の平均睡眠時間

 地域別では、やはり産業も人口も集中する首都圏、中京圏、関西圏は平均睡眠時間が少なく、7時間31分の埼玉を最低に、千葉、神奈川、東京の1都3県で平均睡眠時間の少ないワースト1位から4位までを占めた。愛知、兵庫、奈良も同率4位で、その後に大阪、茨城と続く(「社会生活基本調査」2016年)。

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平均睡眠時間が少ない都道府県ワースト10

9割以上が、「睡眠に不満」

 人類は、十分な睡眠がとれないと身体に支障をきたす。ひどいと生命に危機が及ぶこともある。だが、睡眠時間という量を確保することも重要だが、「睡眠の質」の確保も同じくらい重要で、それは、ほとんどの人が自分の体験からわかっているだろう。

 健康機器メーカーのフジ医療器(本社:大阪市)が2017年12月、20歳以上の4303人の男女を対象に調査した「第5回睡眠に関する調査」によると、「睡眠への不満がある」という回答が92.6%に達した。調査は第1回以来、「不満がある」という回答が全体の9割を切ったことがないという。

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睡眠への不満があるか?

 では、具体的には何に最も不満を感じているのか問うと、最多が「寝ても疲れがとれない」(19.3%)で、以下「何度か目が覚める」「朝すっきりと起きられない」「なかなか寝付けない」「眠りが浅い」と続き、「睡眠時間が満足にとれない」は第6位で、不満を持つ人の中では8.8%だった。それは、睡眠の量への不満以上に、睡眠の質に不満を感じている人がいかに多いかを示している。

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睡眠に関して最も不満に感じることは?

 では、満足した睡眠をとることができない原因は何なのか質問すると、52.8%が「ストレス」と回答した。理想の睡眠時間は「8時間」が51.1%を占めながら、平日の実際の睡眠時間は「6時間」が36.1%、「5時間以下」が23.9%というのが実情。だがそれでも「ストレスがなければ、たとえ短くてもぐっすり眠れるのに」と思っている人は多いようだ。この調査結果から、睡眠では「量」の確保とともに「質」の確保がいかに重要な問題になっているか、よくわかる。

 2017年は「睡眠負債」が新語・流行語大賞候補にノミネートされた。アメリカ睡眠医学会を設立したスタンフォード大学のウィリアム・デメント(William Dement)教授が提唱した言葉で、睡眠不足の負債が積み重なって「債務超過」状態になると、生活や仕事の質の低下だけでなく、うつ病やがん、認知症などの病気にかかるリスクが高まるという。学習能力や記憶力だけでなく免疫系の働きも低下させ、寿命を縮めるという研究結果もある。

 かといって休日に「寝だめ」すれば睡眠負債が一気に返済されてスッキリではなく、たとえ短時間の昼寝でも質のよい睡眠が必要だという。厚生労働省は2015年、11年ぶりに「健康づくりのための睡眠指針」を改定し、今では睡眠の量の確保一辺倒ではなく、質のよい睡眠が重視されるようになっている。

1兆円超えの巨大市場、「睡眠」

「睡眠の量がこれ以上増やせないなら、せめて睡眠の質をもっと高めたい」

 そんなニーズに応えるビジネスは非常に幅広い。7000億円近い市場(矢野経済研究所調べ)を持つ枕やベッドなどの寝具だけでなく、機能性表示食品、空調、防音、照明、リラックスできるBGM、安眠できる衣料やサプリメント、アロマ、化粧品、入浴剤、ヨガ、健康器具、エステ、マッサージ、健康管理サービス、睡眠カウンセリング、お昼寝カフェなどもすべて含まれる。

 そうした「睡眠ビジネス」の国内市場規模は寝具新聞社の2016年の調査によると1兆2359億円にのぼり、潜在市場は3兆円とも5兆円ともいわれている。少なく見積もっても1兆円以上の巨大市場である。

 その睡眠ビジネスを強く後押ししそうなのが政府の「働き方改革」だ。睡眠不足は過労死の一因でもあり、残業時間を抑えて働く人の睡眠時間を確保し、その健康を守ることは働き方改革の大きな目的である。

 また、経済産業省と東京証券取引所は2015年から、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として年1回、選定し公表している。そうした動きに呼応して、企業も従業員の睡眠に大きな関心を払うようになってきている。事実、健康管理のために「快眠スペース」を設ける企業も増えている。

 個人ではなく企業を対象とする睡眠ビジネスとしては従来から、工場や交通機関などの現業部門で安全管理、生産性向上を目指した「睡眠改善プログラム」を提供するようなコンサルティング・ビジネスがあった。それが今は「健康経営」の一環として、「従業員の睡眠問題の解決」をアシストするツールやサービスを提供する「全社的な総合ソリューション」が、求められるようになっている。

 そして、従業員一人ひとりの睡眠状況の把握や管理にビッグデータ、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)のようなITを活用するものは、「スリープテック(ST/Sleep Tech)」と呼ばれている。

【次ページ】いよいよ動き出したスリープテックの数々
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