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- 2018/04/17 掲載
「まったく儲からない」、トップ弁護士がスタートアップ支援に情熱を注ぐ理由
法律からスタートアップを支援する
増島 雅和 氏(以下、増島):はい。私の父親は日本の大手ITベンダーに勤めていて、家には物心ついたときからPCがありました。BASICでゲームを作って、パソコン通信やアマチュア無線をやっていました。ただ、あまり物理や化学といった科目に興味が持てず、文系の法学部に進みました。
一方、学生時代に、ITベンチャーブームが起きたときに「これは面白い」と思ったのですが、“そちら側の人になる”という意思決定ができなかったのです。そこで、法律からベンチャーやスタートアップを支援するというアプローチを目指しました。
──弁護士の道に進まれたのですね。
増島:ただ、私が弁護士になった2001年ごろに、ちょうどITバブルが弾けたので、希望するスタートアップ支援の業務は一切なくなってしまいました。そこで不動産証券化などのファイナンスの案件に数多く携わっていました。
そんな折、2006年に米国に留学することになりました。コロンビア大学に進みその後、実務では西海岸に行くことができ、主に日本企業のシリコンバレー進出や、シリコンバレー企業の日本進出支援などに携わりました。
シリコンバレーで働いていると、シリコンバレーのスタートアップ向けのファイナンスが、日本と形は似ていますが全然違うことに気づきました。理解するにつれ、彼らのやっていることがいかに合理的かを理解し、「これを日本でも取り入れることができたら」という思いを持って帰国したのです。
──日本に戻ってきてからはどんなキャリアを?
増島:日本に戻ってみると、留学前と変わらずスタートアップは少ない状態でした。かつ“スタートアップ支援の弁護士をやる”というのは当時、キャリアを傷付けるリスクがありました。
スタートアップ支援は法律事務所の案件としては儲からないので、それだけで食べていくのは難しいというのが定説だったのです。スタートアップ支援への思いは抱きつつも、M&Aチームに所属していました。
その後は金融庁への出向が決まり、主に組織再編や規制の観点から保険と銀行の監督に携わることになりました。
震災が転機となり、スタートアップファイナンスの道へ
──そこからスタートアップへのファイナンスの道に進む転機は何だったのですか?増島:転機は東日本大震災でした。当時は金融庁にいて、震災時は保険金の支払いが多く発生するので、土日も働くほど保険課は多忙を極めていました。7月のある日曜日の夜、帰宅しようとしたら、節電で暗くなっていた階段で足を踏み外して右腕を骨折してしまったのです。入院と療養に2カ月かかることになりました。
せっかく時間ができたので、やりたかったベンチャーやスタートアップへのファイナンスの知識を皆に知ってもらう活動をしようと、「Startup Innovators」というサイトを立ち上げたのです。記事は、ほとんど左手一本で書いたのですが(笑)、公開すると結構見てもらえて、「やはりニーズがあるな」と。
──記事を公開するなかで気づいたことはどんなことですか?
増島:シリコンバレー勤務時代に、シリコンバレーと日本のベンチャー実務がここまで乖離している理由をずっと考えていたのですが、決定的に違うのは、起業家のファイナンス知識が圧倒的に足りないということです。
投資家と起業家の間の知識のギャップが大きくて、私としては、この知識ギャップが固定化されていることに、日本のスタートアップファイナンスの実務がファイナンスとしてメイクセンスしていない(合理的な資金調達ではない)原因があるのではないかという仮説を持っていました。
ですから、このギャップを解消する方法として、起業家の側から見たスタートアップのファイナンスの話を、世の中に発信する必要があると感じました。
米国はそういうスタンスで情報を発信している人が多かったのですが、日本ではほとんどそういう情報はなかった。投資家は発信するのですが、あくまで「投資家ポジション」なので、一見起業家によいことに見えても、最終的に自分が損することは絶対に言わないですから。私は「起業家ポジション」で情報発信することに注力しました。
──そうすると、Startup Innovatorsの立ち上げをきっかけに、スタートアップ企業と実際の接点が生まれ、スタートアップ支援に関わることになったのですか?
増島:もともと職場にはベンチャーキャピタルのクライアントがいましたので、そのようなクライアントを通じてスタートアップ企業の法務をやっていました。一方、いわゆる設立の段階、ビジネスモデルを考える段階から起業家と一緒になってやるということに注力し始めたのは、この頃からです。まだ金融庁に務めていたので、活動は週末に趣味の活動として無償で行うと整理しました。
【次ページ】スタートアップの取り組みが、今後のメインストリームになる
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