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  • 2019/08/23 掲載

キャッシュレス大国アメリカに“Payブーム”がまったく来ないワケ

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クレジットカードが初めて誕生し“キャッシュレス大国”として知られてきた米国。だが現在は、Apple PayやSamsung Payなどのスマホ非接触型決済がなかなか普及せず、中国では常識となったQRコード決済も一般にあまり知られていないなど、その後進性が目立つ。なぜこうした差が生まれたのか。またこの先、米国と中国の決済フィンテックは、どのような発展の違いを見せるのか。読み解いていく。
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なぜ“キャッシュレス大国”であるにも関わらず、モバイル決済が一向に普及しないのか
(Photo/Getty Images)

キャッシュレス社会、だが非モバイル

 米国は、1950年に「ダイナースクラブ」クレジットカードが世界で初めて誕生した、元祖キャッシュレス先進国である。また、クレジットカード登場以前から決済には小切手が多く使われるなど、現金を多く持ち歩かない文化が深く根付いている。

 それでも消費者決済の31%をなお現金が占めており、電子決済、クレジットカード決済、デビットカード決済、小切手決済を抑えて堂々の第1位となっている。

 一方で、現金を除く残り69%の決済はキャッシュレスなのだが、クレカやデビット、小切手など非モバイル系の手段が主流であり、非接触型スマホ決済(NFC)やコード決済は世界に比べて大幅に遅れているのが現状だ。

クレカ先進国の“逆説”

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 こうした「後進国」の米国から見て、中国テック大手アリババ傘下のAlipayやテンセント傘下のWeChat Payなどが普及した中国は「先進国」と映る。米投資サービスのCB Inightsは、「中国の2017年における15兆5000億ドル相当のモバイル決済の実に92%がQRコードで行われている」と驚きを隠さない。

 このような差がついた理由について、「中国ではモバイル決済以前にクレカが普及していなかった。クレカがキャッシュレス決済の主流であった米国では、その先進性が逆に先端技術の普及を妨げた」という認識が米国では広く共有されている。

 米『バロンズ』誌電子版は2018年10月の記事で、「米ベンチャーキャピタル企業のループベンチャーによると、非接触型決済のApple Payは世界で2億5200万人のユーザーを誇るが、その内の米国ユーザー数は3800万人と、WeChat Payの8億人というユーザーベースの5%以下にすぎない」と指摘した。

 主な要因として、同誌は「米国では消費者の大半がクレカを使用しており、モバイル決済はクレカと競争しなければならないからだ」と解説した。あまりにもクレカが主流であるため、積極的にキャッシュレス社会を目指す日本のような「ペイブーム」さえも起こらない。

 英コンサルティング企業ジュニパーリサーチのウィンザー・ホールデン氏は、「米国には非接触型決済の伝統がないため、Apple Payの奮戦にもかかわらず、比較的小規模の市場にとどまる」と予想する。

 レガシーなシステムが支配的であるため、小売側にクレカの高い取扱手数料に対する反発があるにもかかわらず、より低コストでより簡便なQRコードに移行したいとする組織的な動きもない。

 さらに、便利なAlipayやWeChat Payは配車の手配や診察の予約まで可能なライフスタイルアプリのWeChatなどにひもづけられているにもかかわらず、それらのアプリが米国でまったくシェアを持たないこと、AlipayやWeChat Payが米国在住の米国人には開放されていないことも、普及の妨げになっている。

EMV対応がさらなるクレカ依存を促す

 また、最近の米国ではICチップ埋め込み型でセキュリティに優れるEMVクレジットカードが加速的に普及した。

 このため、もともと高かったクレカ普及率が安価なEMV対応機器への投資を小売側に促す一方で、非接触型決済やコード決済の必要性をさらに低減させている。

 米国ではほんの5年前まで磁気カードがクレカやデビットカードの大半を占めていたが、オバマ前大統領がカードセキュリティに関する大統領令に署名し、EMVに準拠したカードの発行を義務化したことで、2015年に約50%だったEMV普及率が2017年にはほぼ100%となった。

 事実、スマホを使ったモバイル決済はクレカやデビットカードと比較して、逆に面倒だと思われているふしさえある。そのため米決済業界や小売業者は、中国の同業者のような切迫感に欠けるのだ。

 アップルのジェニファー・ベイリー副社長も、「米決済産業が世界に比べてはるかに遅れているのは、米国のテクノロジーインフラの構造に原因がある」と認める

【次ページ】銀行に挑戦する中国、共存する米国
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