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2018年11月の有効求人倍率は2.36倍と採用が困難な状況が続くが、希少な能力を持った「スペシャリスト」はどのように転職先を決めているのだろうか。多くの人がうらやむような大手に勤めながら、働き盛りの40代前半でスタートアップへの転職を決断した工藤 達雄氏に転職を決断した理由と価値観、そして給与に対する考え方を聞いた。
「スペシャリストでいられる環境」を作れるか
仕事の内容がますます高度化し、専門性が求められるようになる中、ビジネスで差別化を可能にするのは「人」、希少なスキルや経験を持ったスペシャリストだと言っても過言ではない。今回はID(Identity)に関する技術に関する技術に携わってきたスペシャリストである工藤 達雄氏の話から、スペシャリストと働くにはどのような環境が必要かを考察する。
工藤氏は1998年に新卒でサン・マイクロシステムズへ入社し、2008年に野村総合研究所(NRI)へと転職、2014年からは同社子会社のNRIセキュアテクノロジーズ(NRIセキュア)に出向した。会社は変わっても一貫してIDのスペシャリストであり、Authleteへは、その専門性を生かすために転職したという。背景には、IDという専門分野への熱量の差を感じていたことがあった。
「最後に所属したNRIセキュアの主戦場は情報セキュリティです。そこではID関係は本流ではなく、あくまでセキュリティ対策のひとつ、という位置づけでした」(工藤氏)
また自分自身の専門性が十分に発揮できなくなってしまうことへの危機感もあった。
「大きな会社にいると、リスクは少ない一方、自分の目標とは一致しないのではないかという危機感を持ちました。また自分の専門性による貢献ができているうちはいいのですが、体制上、自分が得意ではないこともやらなければならず、その結果、組織内で『イケてない人材』と評価されてしまうことが懸念でした」(工藤氏)
こうした背景から、より専門性を高め、組織や社会に役立つことができる職場を求めて転職に至ったという。つまり、スタートアップという組織に興味があった訳でもなければ、ストックオプションを狙って一獲千金を目指していた訳でもない。「スペシャリストでいられる環境」を求めた結果だったのだ。
「結果的にスタートアップだったという感じです。自分の専門性が一番高く評価される場所を考えたら、大企業とは違う外の世界だったということです」(工藤氏)
Authleteは、企業がAPI(Application Programming Interface)を使い、外部のパートナーとサービスを連携する際、サービスへのアクセスを認可するID技術を提供するスタートアップである。
長年にわたりID技術に携わってきた工藤氏が力を発揮できる職場である一方、同社にとっても工藤氏は喉から手が出るほど欲しい人材だった。最適な組み合わせであったわけだ。また、自分と同じようなスペシャリストの集団であることも、工藤氏にとっては魅力的であったという。
「Authleteは、標準技術であるOAuthやOpenID Connectの仕様を非常に短期間で実装できるサービスを提供しています。それに従事する人材には、OAuthの仕様策定に関わっていたメンバーや、実際の実装ではグローバルレベルで活躍できるメンバーがそろっています。そういう人達と一緒に働けたら面白いと思いました」(工藤氏)
価値に見合った待遇をきちんと用意できるか
自分の力を発揮できる職場で働くことは誰もが望むことであろう。ただし、家庭を持つ身ともなれば、「収入」も重要な要素だ。そして、一般的にスタートアップの給与水準は、大手企業と比べて低いとされる。しかし、工藤氏に限ってはそうした面での問題はなかったという。
「もともとグローバルなチーム構成のせいか、海外の相場から見ても競争力のある報酬でした。日本のスタートアップの給与水準と比べると『良い』のかもしれません」(工藤氏)
これは言われてみれば当然のことなのかもしれない。一般的にスタートアップの給与水準が大手より低いケースもあるが、多くの人がそうした先入観を持っているに過ぎない。
事業の成長に必要な人材がいて、その人のスキルに希少性があり人材マーケットで高く評価されているスペシャリストなのであれば、採用のためには相応の待遇を提示しなければならない。これは大手企業でもスタートアップでも同じである。工藤氏はこう語る。
「生活を考えた場合、待遇を考慮しないということはありません。その際、何かユニークな部分、私だと『デジタル・アイデンティティ・プロフェッショナル』としての知識と経験が重要です。希少性の高い人を採用するにはどうすればいいかと考えれば、これぐらいの待遇が必要だという答えが出てくる。スタートアップがエッジの立ったことに挑戦して、その実現に向けて求める人材を特定する。そしてその人を採用するために必要なことを手当てできれば、それが40代であっても、大企業に勤めていても入社してもらえると思います」(工藤氏)
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