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- 2021/03/12 掲載
上場後の資金調達の「いろは」を解説、アース製薬やHISが選んだ手法とは?
前編はこちら(※この記事は後編です)
上場ベンチャーが成長の壁を超えるためには
前回の記事では、上場ベンチャーが成長の壁にぶつかる「3つの要因」として、以下について説明しました。- 上場準備中に成長投資を絞ってしまい、成長のポテンシャルが減少してしまう
- 上場後、ベンチャーマインドのある優秀な人材の採用が難しくなる
- 四半期の決算開示が求められる中で、中長期視点での成長投資がしづらくなる
上場ベンチャーがこうした壁を突破するために行うべきことは、(1)成長市場で成長戦略を描き、(2)非連続な成長の実現に必要な戦力の確保、そして(3)戦略の実行、この3点です。
成長戦略とは、自社がどこを目指しているのか、そのビジョン、目標と現在地とのギャップを明確にし、そのギャップを埋めるための打ち手を道筋に整理したものを指します。
成長戦略の打ち手、つまり成長投資では「M&A」や「新規事業」、そして「マーケティング」が多く、「スタートアップ投資」や「既存事業のターンアラウンド」が含まれることもあります。成長戦略ができたら打ち手に必要な戦力の確保、すなわち成長投資を行うための「攻めのファイナンス」や人材採用を行い、戦略を実行していきます。
数行で簡単に説明しましたが、本来、戦略立案から戦力の確保、そして戦略の実行までそれぞれで連載を書けるほどの濃いテーマです。しかし本稿はファイナンス視点での解説なので、ここからは上場ベンチャーがいかにチャレンジのための資金調達を行い、成長を実現するかを中心にお話しします。
「攻めのファイナンス」としての、エクイティ・ファイナンス
企業の資金調達手法は3つに大別されます。- 自社の既存資産を基に資金調達する「アセット・ファイナンス」
- 銀行借入や債券発行による「デット・ファイナンス」
- 株式の発行による「エクイティ・ファイナンス」
「アセット・ファイナンス」は土地や建物が生み出すキャッシュフローや、売掛債権などを裏付けに資金調達する手法です。価値ある資産やキャッシュフローを生み出す資産があれば可能となる手法ですが、資産の乏しいベンチャー企業の資金調達で使われることは稀です。
「デット・ファイナンス」は一定の金利を支払い、返済期日まで資金を借り入れる方法です。差し入れる十分な担保がある場合や事業のキャッシュフローの蓋然性が高い場合、借り入れることが可能となります。未上場のスタートアップでは借入を行うことは容易ではありませんが、上場によって信用力の高まった上場ベンチャーではデット・ファイナンスが多く活用されています。
「エクイティ・ファイナンス」は株式を発行して資本の調達を行う方法です。デット・ファイナンスのように返済義務がない分、資金の出し手である投資家の期待するリターンは借入より高くなります。企業は調達した資本を活用して企業を成長させ、配当や株価上昇により投資家に還元をしていきます。
返済義務のないこと、投資家から高いリターンを求められることから、高いリターンは見込めるものの、一定のリスクがある投資に必要な資金の調達にエクイティ・ファイナンスは活用され、未上場のスタートアップの資金調達の主軸になっています。
また上場ベンチャーにおいても大きなチャレンジ(一定のリスクはあるものの、大きな成長を期待するM&Aやマーケティング投資等)における資金調達、「攻めのファイナンス」ではエクイティ・ファイナンスが選ばれています。
【次ページ】エクイティ・ファイナンスの3つの手法、そのメリット・デメリットは
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