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企業の財務諸表を紙で管理する場合、1か所の間違いで多くの書類に反映する必要があった。加えて、経理業務は人手や専門知識が必要だった。そんな経理業務を効率化する有効手段が、会計ソフトの活用である。会計ソフトは、経理業務の多くを自動化する便利なソフトウェアだ。今回は、中堅・中小企業がクラウド型の会計ソフトを選ぶ際、「どういった部分を比較すると良いか」を説明しつつ、マネーフォワードや弥生会計、freee、勘定奉行など人気ソフトの特徴も紹介する。
企画:ビジネス+IT編集部、構成・監修:時田信太朗
企画:ビジネス+IT編集部、構成・監修:時田信太朗
テック系編集者/メディア・コンサルタント
外資系ITベンダーでエンジニアを経てSBクリエイティブで編集記者、スマートキャンプでボクシル編集長を歴任。2019年からフリーランスで活動。メディアコンサルタントとしてメディア企画プロデュース・運営に携わる。
会計ソフトとは
会計ソフトとは、収支など会社のお金の動きをデータ管理し、データを集計して決算書の作成まで行うソフトウェアのことである。大企業の場合は、自社の勘定系システムに組み込まれていることも多い。
しかし「会計ソフト」と呼ぶ場合は、汎用的な製品として提供されているパッケージソフトウェアやクラウドサービス単体を指す。ここでは、会計ソフトの基本的な機能と会計ソフトの種類について順番に解説する。
会計ソフトでできること
さまざまな種類の会計ソフトがあるが、どの会計ソフトにも備わっている機能は、主に以下の3点である。
- ・収入と支出の記録を行う
- ・お金(現預金)の動きを明確にする
- ・集計から決算書の作成を行う
会社の事業活動では、日々多くのお金が動く。従来はすべて人手で行われていた業務であり、計算が合わないと原因を探すために多くの人手をかけるなど、効率の悪い業務だった。しかし会計ソフトを利用してお金の動きをすべて記録していけば、各勘定項目へ自動的に仕訳されて、そのデータが蓄積される。
その蓄積したデータにより、会計ソフトで検索をするだけで、日々の収支やお金の動き、決算書の作成が可能になる。数字の修正がある場合は、その数字を修正するだけで関連するすべての帳簿へ修正後のデータが反映される。
会計ソフトによって、日々の経理処理を手動で行う部分が劇的に減るため、人的ミスも少なくなり、会計業務の負担が激減。業務を効率化することが可能になった。決算書や試算表も自動で集計できるため、常に最新の会社の財務状況が確認できる。
会計ソフトの種類
会計ソフトの提供形態としては、現在のところ「パッケージ型」と「クラウド型」の2種類が主流だ。
・パッケージ型
パッケージ型とは、DVDやCD-ROMなどの提供媒体、あるいはソフトウェア本体をダウンロードして、パソコンにインストールするタイプ。媒体やダウンロード時に購入代金を支払うため、初期コストはかかるが月額料金は不要だ。バージョンアップの場合は新しい媒体を購入する形となる場合が多い。
パッケージ型は、これまでも広く利用されている提供形態だ。入力画面は操作性を考慮し、利用しているパソコンのOSに合った操作性を持つものが多い。
・クラウド型
一方クラウド型の会計ソフトは、インストール不要のWebサービスとして提供されている。利用する際は、Webブラウザを使って指定のURLにアクセスして使う。契約プランによって、初期費用や月額料金が決定するが、多くの場合で初期費用は不要であり、いつでも解約できる仕組みだ。
クラウド型は、不特定多数のパソコンで会計ソフトを利用したい場合に使いやすい点が魅力である。月額料金なのでお試しで1か月使ってみて、本格的に利用するかどうかを決められる点も魅力の一つだろう。
会計ソフトの選び方
会計ソフトを新しく導入する場合、選択する要素は主に次の3点である。
- ・費用負担が少なく手間がかからない
- ・遠隔地との迅速な情報共有
- ・柔軟なコミュニケーション
- ・経費削減効果・生産性向上への期待
個人事業主や中小企業の場合は、シンプルな機能を持つ会計ソフトがあれば十分なケースが多い。しかし企業規模が大きくなってくると、部門別管理機能や連結決算有無など、中小企業では不要だった機能が必要となってくる。
そのため、会計ソフトは機能がシンプルでも十分な中小企業向けと、複雑な組織やさまざまな制度に対応しなければならない大企業向けに分けて提供されることが多い。
また、会計機能は、大別して財務会計と管理会計に分かれる。財務会計は、帳簿管理や決算書作成などを行うための会計機能だ。
一方、管理会計は事業ごとの損益計算や原価計算などを行う。会計ソフトによっては、どちらに強みがあるかの違いがあるため、比較対象とする場合に確認したいポイントだ。
最後は想定ユーザーの違いだ。社内に会計の知識が豊富な人員を抱えている企業とそうでない企業では求められるものが変わってくる。自分たちで経理業務を行ったり、業績管理を行うことを「自計化」というが、それができるかどかという観点も会計ソフトを利用するうえで大切な視点だろう。
会計ソフトを導入するメリット
そもそも、会計ソフトを導入するとどのような点でメリットがあるのだろうか。会計ソフトを導入するメリットは、主に以下の4点が挙げられる。
- ・業務の効率化
- ・データ共有のしやすさ
- ・専門知識不足でも扱える
- ・データの可視化
これらのメリットについて、順番に見ていこう。
業務の効率化
メリットの一つは業務の効率化だ。会計ソフトの導入時に、ある程度の初期設定は必要になるが、勘定科目の設定が済んでしまえば、会計データの入力・仕訳の手間は大幅に削減される。
データを自動的に仕訳できる範囲が大きいとそれだけ入力ミスが減り、修正の手間がいらない。自動計算機能や入力補助機能も、入力ミスを減らすメリットの大きい機能だ。データの修正の際も、間違っている数字を修正するだけですべてに反映される。紙の書類のように帳簿類を修正して回る必要はない。
人の手で修正すると、修正漏れも発生する可能性があるが、会計ソフトならその心配も不要だ。
データ共有のしやすさ
データを共有しやすい点も、会計ソフトを利用するメリットの一つだ。紙ベースで管理をしていると、会計事務所とのやり取りに原本を郵送する手間がかかり、決算のたびに郵送のタイムラグが生じる。また、会計事務所の担当者に来社してもらってチェックを依頼する場合は、別途料金がかかってしまう。
しかし会計ソフトにデータを登録していれば、同じ会計ソフトを使うだけでデータを共有できるため、郵送や来社の手間は不要だ。データを会計ソフトから修正してもらえば、帳簿類には自動で反映される。データのバックアップや会計ソフトの乗り換えは、CSVなどへ落とし込むだけで良い。
専門知識不足でも扱える
紙管理の場合は、簿記の知識がないと書類を書くこともままならない。しかし会計ソフトの場合は、自動処理の部分が多いため、日々のお金の流れさえ入力しておけば、後は自動的に必要な帳簿類ができあがっていく。会計ソフトなら、会計に関する深い知識がなくても、ある程度会計処理が進められるのだ。
日々のお金の流れを入力する場面でも、入力をアシストする機能が充実している。例えばデータ連携により、クレジットカードや銀行口座のデータを自動で取り込んで反映する機能や、領収書やレシートをスキャンしてデータを自動的に取り込む機能は、手入力が不要な機能だ。
データの可視化
会計ソフトを利用すると、日々入力されるデータが、決算書や試算表などの各帳簿に反映される。最新データを反映した帳簿は、すぐに検索や出力が可能だ。また、グラフ表示機能によって、データの動きをより分かりやすく可視化できる。
データを可視化することによって、データ分析を進めて経営課題を見つけ出し、よりスピーディーな経営判断もできるようになるだろう。データの可視化は事業の売上拡大にも役立つ。
クラウド会計ソフトのシェア動向【企業規模別】
クラウド会計ソフトの認知度は高まっており、利用者数も増加傾向にある。企業はどのような会計ソフトを選んでいるのだろうか。企業規模別に代表的な会計ソフトのシェア・利用動向について調べてみた。
個人事業主向けクラウド会計ソフトのシェア
MM総研の「クラウド会計ソフトの利用状況調査(2020年4月末)」によると、個人事業主の33.9%は会計ソフトを利用していることがわかる。また、会計ソフトの利用形態としては、クラウド会計ソフトは21.3%、インストール型(パッケージ型のこと)は67.7%だった。
2016年3月にはわずか9.2%だった会計ソフト利用者は、この数年で倍以上に増えている。クラウド会計ソフトのシェアは、1位が弥生会計、2位がfreee、3位がマネーフォワード。
2020年度からの税制改正により、確定申告にe-Taxを利用するか、電子帳簿保存に対応したソフトを利用することで、青色申告特別控除額が65万円となる。この改正で、これまで会計ソフトを利用しなかった個人事業主も、会計ソフトを利用することが予想される。
中堅・中小向けクラウド会計ソフトのシェア
IT調査会社のノークリサーチによると、中堅・中小企業のクラウド会計ソフトの利用は増加傾向だ。ただし、ASP/SaaS形態でインストール不要型のクラウド会計ソフトを利用している企業の割合は3.7%とまだまだ少数にとどまっている。
しかし、パッケージ型の中でもデータ部分をクラウド化した「DC設置」型や、IaaS/ホスティング型も含めると、クラウド会計ソフトを利用している企業は27.3%に達する。中堅・中小企業で大きなシェアを占める会計ソフトは「勘定奉行」「弥生会計」「GLOVIA」が3強だ。これら上位を占めている会計ソフトも、近年はクラウド化に力を入れている。
人気会計ソフトの比較一覧表
主なクラウド型の中堅・中小向け会計ソフトは以下の通り。
名称 |
提供形態 |
料金・コスト |
アプリ・API連携 |
サポート |
特徴的な機能 |
マネーフォワード クラウド会計 |
クラウド |
・スモールビジネス 年額35,760 円(税抜き) ・ビジネス 年額59,760 円(税抜き) ・エンタープライズ
要相談 |
2,400以上の金融関連サービス対応 入出金明細を自動で取得
請求書発行、経費精算などの各ソフトと連携 |
あり (チャットボット) |
勘定科目を自動で提案 |
弥生会計 |
両方 |
【弥生会計 オンライン】 ・セルフプラン 年額26,000円(税抜き) ・ベーシックプラン 年額30,000円(税抜き)
【デスクトップアプリ弥生会計】 ・セルフプラン付き 販売価格:39,800円(税抜き) ・ベーシックプラン付き 販売価格:39,800円(税抜き) |
スマート取引取込 取引データのインポート(CSV) |
あり (チャット、メール、電話) |
かんたん取引入力 |
freee |
クラウド |
・スターター 年額14,160円(税抜き)
・スタンダード 年額2,8560円(税抜き)
・プレミアム 年額39,800円(税抜き) |
銀行口座やクレジットカードから明細を自動取得
請求書発行、経費精算、入金管理、支払管理などの各ソフトと連携できるERP型会計ソフト |
あり (チャット、電話) |
経営状況の見える化(売上利益の詳細分析など) |
勘定奉行クラウド |
両方 |
・iJ 年額 96,000円(税抜き) ・iA 年額160,000円(税抜き) ・iB
年額230,000円(税抜き) ・iS 年額540,000円(税抜き)
|
さまざまなシステムとデータ自動連携 (他の奉行商品) CSVによる外部連携やMicrosoft Office連携も予定 |
あり (電話、遠隔で画面を共有してのサポート) |
高度なセキュリティ 処理速度の速さ |
PCA会計DX |
両方 |
・サブスク 年額168,000円~(税抜き) ・パッケージ 170,000円~(税抜き) |
他システムとのAPI連携 ドキュメントと登録データの紐づけが可能 口座取引、クレジットカード取引を自動で仕訳作成 |
あり (電話、リモート、メールなど) |
仕訳の承認機能搭載 部門グループにより部門の階層管理が可能 予約伝票による入力忘れの防止 |
会計王 |
パッケージ |
・会計王20 44,000円(税込み) ・会計王20PRO2ライセンスパック 99,000円(税込み) |
なし |
あり (会計・税務相談など) |
軽減税率制度に完全対応 AI自動仕訳 |
JDL IBEX会計 |
パッケージ |
162,800円(税込み) |
eレシートで仕訳入力 銀行・クレジットカード明細の取り込み スキャナによる通帳読取 |
あり (サポートデスクなど) |
オペレーターの好みに合わせて選べる入力方式
顧問会計事務所と連携した処理 |
※2020年11月執筆時点の情報です |
会計ソフト比較検討のポイント
会計ソフトを比較検討する際に押さえておくべき主なポイントは、次の5点である。
1. 提供形態
提供形態は、パッケージかクラウド、または両方を提供しているかを確認する。
2. 料金・コスト
料金・コストは、初期費用と維持費用(月額費用あるいは保守費用)を確認する。パッケージ型の場合は、初期費用が高くなりクラウド型は月額費用がかかる。「ライセンス数をどのようにカウントするか」「ボリュームディスカウントはあるか」という点も要確認だ。
3. アプリ・API連携
他システムのとの連携も確認する。銀行口座やクレジットカードのデータ連携、マーケティングシステムへのデータ連携など、どのような連携ができるかを確認しよう。また、データのCSV出力およびCSVデータ入力ができると、他との連携がかなりやりやすくなるので確認しておこう。
4. サポート
サポートの有無も確認しておきたいポイントだ。会計業務に慣れていない場合や、企業規模が大きくさまざまな機能を使いこなさなければならない場合は、サポートありのほうが助かるだろう。会計やIT系の知識が豊富で特にサポートが不要な場合はサポートなしでも問題ない。
5. 機能
会計ソフトには、それぞれに特徴的な機能がある。自社にとってその機能が便利かどうかを検討することも重要だ。
これらの5つの観点で比較しつつ、各ソフトの特徴について簡単に解説する。自社にはどの会計ソフトがフィットするのか、説明を確認しながら検討してほしい。
クラウド会計ソフト代表サービス5選
1. マネーフォワード クラウド会計
マネーフォワードの提供するクラウド型会計ソフト。明細データの自動取得、仕訳の自動入力などの機能で会計業務の効率化をサポートする。同じマネーフォワードシリーズの勤怠管理、人事労務手続きなどのシステム連携があり、会社の総務部全体をフォローするシステムの一部としても使える。
注目すべきは、金融機関や銀行、クレジットカード、電子マネー、POSレジなどからも自動でデータ連携・仕訳入力ができる点。AI(人工知能)機能によって、データ連携や手入力時に提案する勘定項目が洗練され、より使いやすくなる点も大きな特徴だ。
2. 弥生会計
昔から、高いシェアを誇っている弥生の看板商品。パッケージ型、クラウド型の両方に対応している。会計業務経験がない初心者でも、簡単に使いこなせる画面設計が魅力だ。現金取引以外の通帳明細、クレジットカードなど、手入力することなく取引データを自動で取り込める。
3. freee
freeeの提供するクラウド型の会計ソフトである。シンプルな機能を備えたスタータープラン、質疑応答形式で確定申告の書類が作れる特徴的な機能が利用できるベーシックプランまでは、個人事業主や小規模企業向けのプランだ。
4. 勘定奉行クラウド
オービックビジネスコンサルタントの会計ソフト。紹介するのはクラウド型だが、パッケージ型もある。勘定奉行クラウドは、同じシリーズ製品との連携に優れており、個人事業主から大企業まで、さまざまな規模の企業向けのプランを用意。
5. PCA会計DX
ピー・シー・エーの会計ソフトでパッケージとクラウドの両方を用意。日常の伝票入力だけで、各種会計帳票や経営分析・各種管理帳票の出力が可能だ。仕訳の承認機能(ワークフロー)、部門の階層管理などもできる点が魅力。APIを公開しているため、他システムからの連携もしやすい。
6. 会計王
ソリマチのパッケージ型会計ソフト。仕訳・記帳・集計・決算など、会計業務全般を簡単に行えることを主眼に置いている。銀行の入出金データを取り込み、AI(人工知能)機能を利用した自動仕訳により、データを変換・伝票登録できるため、経理業務の生産性が大きく向上する。
7. JDL IBEX会計
日本デジタル研究所の「JDL IBEX会計」シリーズのパッケージ型会計ソフト。顧問会計事務所とのデータのやり取りは、インターネットで連携をしてデータのやり取りがセキュアな環境で行える。日々のデータ入力方式は、オペレーターの習熟度に合わせて変えられる点も魅力だ。
法令改正への対応も選び方のポイントに
会計ソフトを選ぶ際は、消費税率や軽減税率など、会計に関係する法律改正への対応についても確認が必要だ。パッケージ型は自動でアップデートされないため、法令改正のたびに更新バージョンを取得する必要がある。クラウド型の場合は、自動的にアップデートされていくため、特に気にしないで最新の機能が利用できることがメリットだ。
会計業務の支援機能のような付帯するサービスや、会計ソフトを利用する従業員の会計知識レベルなどから選択条件を見極めてほしい。
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