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- 2018/03/29 掲載
パナソニックが挑むサプライチェーン変革、ロボットで物流プラットフォーム構築へ
森山和道の「ロボット」基礎講座
キーワードは「現場」、サプライチェーンの枠組みを作る
「ものが見えるようになること。IoTをいかにリアリティを持ってこのフィールドで活用できるか。キーワードはやっぱりね、現場ですよ。現場。もう現場。本当に現場がどうなってるのか、いかに理解するか。それで作るものが全然変わる」。パナソニック スマートファクトリーソリューションズ 小売・物流システム ストラテジックビジネスユニット ビジネスユニット長の足立秀人氏は、こう語る。
「パナソニックはロボット技術、半導体、IoTデバイスの知見を持っています。サプライチェーンを一番下から突き刺しながら、枠組みのプラットフォームを作れると考えています」。
「あした、現場で会いましょう。」
ある日、パナソニックが流しているCMの一つが気になった。「あした、現場で会いましょう。」というキャッチフレーズで、フリーアナウンサーの夏目三久氏が案内役となっている「コネクティッドソリューションズ」シリーズの「物流篇」、同「流通篇」の2本だ。聞けば、2018年1月からパナソニックが放送しているテレビCMで、BtoB事業としては同社初めての試みとのこと。目を引いたわけだ。CMの中では、工場での出荷シーンから始まり、物流倉庫とおぼしき場所の仕分け作業で稼働している無人搬送ロボットや、RFIDを使ったソリューションと思われるものが配送現場で使われているほか、全方位カメラが設置され、電子棚札や自動レジが活用される小売店舗での様子が紹介されている。
つまり上流から下流までが一通りおさえられていた。BtoB現場でのロボット活用シーン1つとっても興味深いが、単に1つひとつの課題に応えるにはとどまらず、サプライチェーン全体を見据えたソリューション事業へ取り組もうとしている強い意志が感じられた。
RFIDでモノと情報の流れを握る
「電子タグって、シールをペタッと貼らないといけないんですよ。モノを作っているところで貼る必要がある」。
現在、そのためのロボットを、FAやエアアクチュエーターを使ったロボットハンドの開発で知られるスキューズと組んで、開発中だ。
「僕らはロボット屋です。タッチポイントさえ手に入れば、ほとんどコストアップさせずに貼れます。そういう実験を今、一生懸命やっています」。
倉庫は“要”だ。倉庫にはヤマト運輸と、ガイドテープレスのAGV(無人搬送車)を使った取り組みを実施中だ。センサとAIを使ってぶつからず、効率良く動く。クール宅急便用の重量800kgのコールドボックスを運搬することもできる。そのモノの流れもアンテナ技術を使って把握する。
出口である店舗では、2016年12月からローソンと組んだ「ローソン パナソニック前店」での完全自動セルフレジ機「レジロボ」の取り組みや、2018年2月からはトライアルカンパニーと組んでウォークスルー型のRFIDソリューションを実証中だ。
2018年2月からは、大手スーパーマーケットやドラッグストアなど多くの流通・サービス業に対しPOSシステム「ANY-CUBE」を提供しているヴィンクスと提携し、「レジロボ」を高度化させている。パナソニック自社だけでは「足らないパーツ」は外部とも積極的に提携し、各店舗に応じた各種ラインナップを提供し、効率改善を目指している。
ローソン パナソニック前店での買い物では、通常は50秒ほどかかる精算時間を20秒ほどに短縮できることを示した。
「サプライチェーンを全部、ハードウェアで下から突き刺していく。そのためにいろいろなニーズに対応するラインナップを揃えようとしています。そしてお客さまが『これ、いいね』と言ってくれたら、それぞれを横につなげていく。そういう活動をしています」。
そのために重視しているのがロボット技術だ。「人が介在するプロセスを自動化しようとすると、やっぱりロボット技術が要ると思っています。情報のタッチポイント、モノを運ぶところ、袋詰めをしたりお会計をするところ。それぞれに僕らのロボットの技術が効いてきます」。
2017年4月に発足した足立氏の組織の母体(パナソニック スマートファクトリーソリューションズ)は、スマホの電子部品実装システムや自動車工場の溶接ロボットを既存事業としていた。それが強みの源泉だ。
「これからはその分野に限らず、もっと広い世界にロボットの要素技術を持っていきたい。そこで狙っているのが、この、サプライチェーンのプラットフォームというスコープです」。
経済産業省が出した「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」
流通の効率化は、パナソニックだけで取り組んでいるわけではない。商品の個別管理による店舗での消費・賞味期限チェックの効率化や、レジの自動化による業務の省力化等の実現を目標として、経済産業省 消費・流通政策課は2017年4月に「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定し、以下の宣言を出している。・2025年までに、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、ニューデイズは、すべての取扱商品(推計1000億個/年)に電子タグを貼付け、商品の個品管理を実現する。
・その際、電子タグを用いて取得した情報の一部をサプライチェーンに提供することを検討する。
・2018年を目処に、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、ニューデイズは、特定の地域で、取扱商品に電子タグを貼付け、商品の個品管理を実現するための実験を開始する。
出典:経済産業省 報道発表
これを受けて、2018年2月には「ファミリーマート 経済産業省店」「ローソン 丸の内パークビル店」「ミニストップ神田錦町3丁目店」で「電子タグを用いたサプライチェーン情報共有システムの実験」を実施した。3月には「ドラッグストアスマート化宣言」も出されている。
「業界と仲間作りをしながら、僕らのハードウェアの力が貢献できるところを探しています。RFID、電子タグに投資が入り、開発が今、加速している状況です」。
10年ほど前にもRFIDが注目された時代があった。当時課題だったタグのコストと読み取り精度の問題は、今もなお残っている。だが、各社の新しい技術開発によってRFIDを生産する技術が実際に進み、コストは下落している。読み取りにしても、タグ1つひとつバーコードのように逐次読んでいくのではなく、まとめて読み取る精度も向上した。
「携帯事業などに携わった無線技術者をどんどんプロジェクトに巻き込みました。集中してやると良いモノができるんですよ。そういう世界をハード的には作りながらも、最後は横をつなげることで価値を出したい」。
【次ページ】なぜパナソニックのロボット技術が、日本の社会課題を解決するのか
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