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日本全体が人口減少に転じる中、過疎地域が一段と深刻な状況に追い込まれている。高知県大川村は村議会議員のなり手不足から町村総会の検討に入った。宮城県石巻市の雄勝地区は東日本大震災のあと、7割の住民が戻ってこない。その一方で、全人口の過半数を65歳以上の高齢者が占める限界集落の消滅は確実に進んでいる。奈良女子大大学院人間文化研究科の中山徹教授(都市計画学)は「人口減少がより深刻な段階に入った」とみている。聞こえてくるのは、過疎地域消滅に向けたカウントダウンかもしれない。
雑木林に飲み込まれる消滅後の集落
徳島県の西端、四国山地に囲まれた三好市。中心部のJR阿波池田駅から車で30分ほどの三好市池田町馬路地区で1つの集落が消滅した。双子布(ふたごの)地区だ。三好市によると、これまで75歳以上の高齢者2人が居住していたが、ともに地区を離れたという。
馬路地区の中心部を通る国道192号から急峻で曲がりくねった山道を通って双子布へ向かう。路面は舗装されているものの、幅は普通乗用車1台がやっと。ガードレールもごく一部にしかない。
斜面にスギやヒノキが植えられているが、ほとんど手入れされていない。わずかな平地にへばりついて建てられた廃屋は、周囲の雑木林に飲み込まれようとしている。畑の跡地は人の背丈を超す雑草で覆いつくされていた。
地元のタクシー運転手は10年近く前まで地区内に暮らす高齢女性を市中心部の病院へ送迎していた。その女性は畑仕事をしながら独り暮らししていたそうだが、自宅はトタンがさび、今にも崩れそうなほど荒れ果てている。
この運転手は「配車の連絡が途絶えて随分時間が経つが、こんなになっていたとは。近くの集落も高齢者がわずかにいるだけで消滅するのも時間の問題」とつぶやいた。
三好市は廃校を地域のコミュニティスペースに活用する一方、サテライトオフィスの誘致で雇用を確保し、苦境を打開しようとしている。しかし、限界集落の消滅に歯止めをかけられないのが実情だ。
限界集落の消滅は全国で174カ所
限界集落の消滅が続いているのは、三好市に限った話ではない。国土交通省の2015年度過疎地域現況調査によると、2010年度の前回調査からの5年間で双子布など174カ所が消滅した。東北や四国、九州で多く、うち27集落が東日本大震災の津波被災地だった。
前回調査と比較可能な6万4,130カ所のうち、81.2%に当たる5万2,058カ所で人口が減った。市町村が存続か消滅かを予測した7万5,662カ所のうち、消滅の可能性があるとされたのは、全体の4.8%に当たる3,614カ所に上っている。
限界集落の数は1万3,649カ所を数え、全体の21.3%を占めた。前回は全体の14.7%に当たる9,516カ所だっただけに、急増ぶりが目立つ。高齢者だけの集落も前回の575カ所が726カ所に増えている。
限界集落を支えてきたのは昭和ひとけた生まれの高齢者だ。彼らが80代となり、体力の衰えで地域を支えきれなくなりつつある。国交省総合計画課は「過疎地の人口減少は綿々と続き、苦境が増大している」とみている。
高知県大川村は議会の維持も困難に
人口減少は過疎地域に新たな難題を投げかけようとしている。議員のなり手不足が慢性化し、議会の維持が困難になりつつあるのもその1つだ。人口約400人。離島を除けば日本一人口が少ない高知県大川村では、村議会を廃止して町村総会を設置する検討を始めた。
町村総会は有権者が直接、自治体の予算や条例を審議する制度で、1950年代に東京都宇津木村(現在の八丈町)で実施された。大川村は議会定数を6まで減らし、どうにか維持してきたが、これ以上人口減少が進むと立候補者がそろわないことも考えられる。
2015年の村議会議員選挙では、無投票当選した6人全員が前回と同じ顔ぶれ。平均年齢は70歳を上回っている。和田知士村長は6月の村議会で「議会の存続が第一だが、まさかのために選択肢を用意する必要がある」と検討開始の理由を説明した。
同じ悩みを北海道の十勝地方も抱えている。6月の中札内村議会議員補欠選挙(改選数1)では立候補者が1人もなかった。浦幌町議会議員選挙は2015年の統一地方選挙で定数11に対し、10人の立候補者しかなく、定数割れとなっている。北海道町村議会議長会は6月、国に議員確保策を求める異例の提案を採択した。
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