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- 2017/01/16 掲載
古民家「再生」で地方創生、なぜ「限界集落」に観光客が殺到したのか
限界集落にある古民家が人気の高級宿に
農地の間に12戸の民家があり、かなり年季の入った建物も少なくない。里山を背景に民家のすぐ横に白壁を配した土蔵と古い石垣が見える。目の前に広がるのは、まるで日本の原風景ともいえる光景だ。
丸山地区は広さ4.2ヘクタール。住人は6戸、23人にとどまるが、2009年、集落内にある築150年以上の古民家を宿泊施設に改装、「集落丸山」として開業すると、話題性もあって一気に有名になった。現在は、2棟が1棟貸しの宿になり、週末や観光シーズンには首都圏や京阪神から宿泊客が相次いでいる。
外国人の宿泊客や常連も増え、いまや人気の古民家宿として定着しつつあるが、宿を開業する前は12戸のうち7戸が空き家で、耕作放棄地が広がっていた。地区に残るのは高齢者が大半。消滅に向けてひた走る限界集落だった。
「このままでは集落が消滅する」。危機感を抱いた住民が結成したのがNPO法人の「集落丸山」。市出資法人の再編民営化で誕生した一般社団法人「ノオト」と連携し、有限責任事業組合「丸山プロジェクト」を結成、地域の再生を目指してスタートさせたのが空き家の宿泊施設化だ。
地区住民は市民ファンドに出資する一方、空き家の所有者が建物を無償提供した。内部は生活の近代化が残した厚化粧をほとんど取り払い、水回りを除いて昔の農家そのもの。玄関の広い土間、太い梁、五右衛門風呂がどこか懐かしさを感じさせる。
周囲に特段の観光施設はない。あるのは昔ながらの里山と農村風景だけ。その代わり、一流シェフと地域の女性が地元の食材で作る最高級の食事と地区ぐるみのもてなしで出迎える。料金は高級旅館並みだが、それでも宿泊客が押し寄せ、宿の経営は順調だ。宿泊客は農村に溶け込むひとときと家族のような地区住民のもてなしを満喫している。
古民家宿の開業は地域に思わぬ波及効果ももたらした。宿泊客以外にも地域を訪ねる人が増え、都市部との交流が始まったからだ。開業前に2.1ヘクタールあった耕作放棄地は、都市部の住民が借り受けて農業を始めたことから、ゼロになった。地区の盛況を耳にしてUターンした家族もいる。
集落丸山の佐古田直實代表(73)は「人が人を呼び、地区が見る見るうちに元気になった。現在、新たに2軒の古民家をリノベーションする構想がある。これを実現させ、さらに地区を元気にしたい」と意気込んでいる。
政府がプロジェクトチームで活用策検討
政府は2016年9月、菅義偉官房長官を議長に国土交通省、農林水産省、総務省など関係省庁を結集したプロジェクトチームを編成、古民家をはじめとする地域資源を活用した観光産業の振興や地方創生策の検討を始めた。政府の「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」は2016年3月、文化財を核とする観光拠点を2020年までに全国で200カ所整備する計画を打ち出している。プロジェクトチームは、専門家が各自治体にアドバイスするとともに、政府として実行可能な資金支援について検討を進め、目標達成を目指す。
篠山市は2015年、国家戦略特区に指定され、旅館業法の特例が認められたが、過疎地域で古民家宿を開業するとなると、24時間待機のフロント設置義務は大きな障害となる。このため、旅館業法など古民家活用の妨げとなる規制について見直しも視野に入れる。
11月には菅官房長官が、篠山市の丸山地区を訪問し、佐古田代表らからこれまでの状況について説明を受けた。その際、菅官房長官は歴史的資源を活用した丸山地区のまちづくりを高く評価し、全国展開のモデルにする考えを明らかにした。
【次ページ】徳島の「秘境」でも古民家宿に外国人が殺到
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