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  • 2016/12/13 掲載

平成の大合併は「大失敗」か、今も続く借金返済と商店街解散の悲劇

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「平成の大合併」がピークを終えて10年が過ぎた。兵庫県篠山市は相次ぐ箱物建設で財政危機を迎え、今も後始末を続けている。広島県尾道市や徳島県海陽町では、役場がなくなった周辺部で商店街組合が解散するなど、にぎわいを失った。北九州市立大地域戦略研究所の宮下量久准教授(地方財政論)は「現段階で合併による歳出削減効果は見込めず、行財政改革として十分な成果を上げているとはいいがたい」とみている。地方行政の効率化や地方分権の受け皿としてスタートしたはずの平成の大合併は、失敗だったのだろうか。
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平日の昼間でも人通りがほとんどない旧宍喰町役場周辺。廃業する店舗や空き家も増加している=徳島県海陽町久保
(写真:筆者撮影)

合併バブルに踊らされ、今も続く借金返済

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 JR大阪駅から快速電車で約1時間、盆地の中にのどかな田園風景が広がる。冬支度を終えた農地では渡り鳥が翼を休め、その向こうに古民家が点在する。日本遺産の「丹波篠山デカンショ節」で知られる篠山市。市内を歩いていると、日本の原風景ともいえる景色が次々と目に飛び込んでくる。

 市は1999年4月、篠山、今田、丹南、西紀の旧4町が合併して誕生した。平成の大合併で第1号となった自治体だ。それと同時に「合併バブル」に踊らされた街としても知られている。

 市は合併当時、4万7,000人いた人口が6万人に増えると予測し、清掃工場の改築や斎場、温水プール付きの運動公園、時計塔を備えた図書館の建設など次々に箱物事業に手を出した。

 図書館はもともと生涯学習センターを増築し、図書コーナーを設ける計画だった。それなのに、計画が膨れ上がり、豪華施設になってしまった。市をそんな気持ちにさせたのは、返済の7割を国が交付税で肩代わりする合併特例債を利用できるからだ。

 しかし、人口が増加したのはほんの数年。2016年10月現在の人口は4万1,000人で、逆に6,000人も減少している。合併から4年で市の借金は1,136億円まで膨らみ、財政は急激に悪化した。

 地方交付税は特例で合併後10年間増額されるが、それを過ぎると段階的に減少する。市は財政調整基金などを取り崩しても、年間に10億円以上の収入不足が見込まれ、財政再建団体に陥る可能性も出てきた。

 2007年に就任した酒井隆明市長は市民参加で財政再建に着手する計画を立て、実行に移す。670人いた市職員を450人に削減、給与を10%カットした。市長の給与は20%削減、各種補助金カットにも取り組んだ。

 地域の公民館16館を閉鎖したほか、小学校19校を14校に。市民センターの図書コーナーは職員の代わりに市民のボランティアが運営、冷暖房費のかからない春と秋だけに開館する公共施設も登場した。経費節約で借金を返済しながら、施設の閉鎖を最小限に抑えようとしたからだ。

 こうした努力が実り、市の借金はピーク時の半分の642億円まで減った。その結果、2019年度に財政が黒字転換する見込みとなり、ようやく必要な事業に予算を回せるようになってきたという。

 市の財政状況を点検する篠山再生計画推進委員会は「財政破綻回避のため歳出削減に重点を置いた再生計画を見直すべきだ」との意見を酒井市長に提出した。篠山市行政経営課は「市民に無理をお願いしながらやっとここまで来れた。財政破綻だけは何とか避けたかった」と振り返る。

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合併バブルの施設建設ラッシュで多額の借金を抱え、後始末に今も苦労を続ける篠山市役所=兵庫県篠山市北新町
(写真:筆者撮影)


全国の市町村が約1,700に半減

 平成の大合併は1999年から10年余りの間、全国で進んだ。総務省は合併特例債の発行や地方交付税の増額をアメに、合併を奨励した。さらに、小泉内閣の三位一体改革で地方交付税の大幅削減が盛り込まれた。全国の自治体に「地財ショック」と呼ばれる衝撃が走る。

 2004年度からの三位一体改革で削減された地方交付税は約5兆円。これが自治体へのムチとなった結果、全国の市町村は約3,200から約1,700に半減した。そのピークが2004年から2006年だった。

 山梨県南アルプス市のようなカタカナ市、岐阜県高山市のように大阪府や香川県を上回る広大な面積の市が登場、13県で村がなくなった。合併の是非を問う住民投票は全国350カ所以上で実施され、本庁舎の所在地や新市名でしこりを残したところも少なくない。

 合併協議が進んでいたころから、過疎地域の人口減少は進んでいた。その後、日本全体が人口減少に入ると、にぎわいの消失が加速する。特に影響が大きかったのが、合併で市役所や町村役場を失った地域だ。

【次ページ】にぎわいが消え、瀬戸田の商店街組合は解散
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