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  • 2017/03/17 掲載

ネットフリックス CEO リード・ヘイスティングス氏が語る世界戦略とコンテンツの未来

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動画配信サービスを手掛けるNetflix(ネットフリックス)は、全世界130か国で1億人ものユーザーを抱え、世界中で急成長を遂げている。ローカルでコンテンツを制作し、グローバルで視聴者を集める手法が人気を集め、世界中の視聴者とコンテンツをつなげる役割を果たしてきた。そのコンテンツの品質は非常に高く、ネットフリックスのオリジナル作品「ホワイト・ヘルメット」は第89回アカデミー賞で短編ドキュメンタリー賞を獲得するほどだ。スペイン・バルセロナで行われたモバイルワールドコングレス(MWC)2017では、ネットフリックス CEO リード・ヘイスティングス氏がネットフリックスの世界展開とコンテンツの未来について語った。

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

Mint Labs製品開発部長。1981年栃木県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科修了。日本アイ・ビー・エムにてITコンサルタント及びソフトウェア開発者として勤務した後、ESADE Business SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は、スペイン・バルセロナにある医療系ベンチャー企業の経営管理・製品開発を行うとともに、IT・経営・社会貢献にまたがる課題に係るコンサルティング活動を実施。Twitterアカウントは@takayukisato624。ビジネスモデルや海外での働き方に関するブログ「CTO for good」を運営。

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MWC2017 基調講演で語られたネットフリックスの戦略

ついに「アカデミー賞」を獲ったネットフリックス作品

 ネットフリックスのCEOリード・ヘイスティングス氏の基調講演は華やかなニュースから始まった。

 2月26日に発表された第89回アカデミー賞で、同社が手掛けたオリジナル作品「ホワイト・ヘルメット -シリアの民間防衛隊-」が短編ドキュメンタリー賞を獲得したのだ。

 同作品ではノーベル平和賞にノミネートされた民間ボランティア団体が、空爆の続くシリアで救助活動を行う様子を記録している。

 ネットフリックスのオリジナル作品がアカデミー賞を受賞するのは今回が初めてで、既存の映画制作会社ではなく、劇場公開とストリーミング配信を同時に行ったネットフリックスが映画アカデミーから高い評価を受けたのはまさに快挙だ。

 ネットフリックスはもはや、動画配信サービスだけの会社ではなくなった。

 サービスや作品制作に多大な力を注いでおり、欧州・中南米・アジアなどで世界中でオリジナル作品の制作が行われている。

 それらの作品の一つとして、ドラマ「13の理由」が紹介された。米国の小説を原作にした作品で、若者が自殺した理由を独白する内容だ。自殺という難しいテーマを扱っているため、賛否が分かれる作品ではあるが、若者の命について考える機会にもなっている。

 ヘイスティングス氏は「ソーシャルメディアを通して世界中の人々からフィードバックを得られる現状に興奮を覚えている」という。それは、優れた作品を同時期に世界中で閲覧できるという世界が、ネットフリックスによって実現されている証拠だというのだ。

 コンテンツ業界にとって、海賊版の流通、まん延は長らく悩みの種であった。不正にコピーされた作品によって正規版の売り上げが減少してしまうからだ。しかし、月額10ドル程度で多くの優れた作品が見放題になるネットフリックスによって、状況が改善する可能性がある。

 優れたサービスが提供されていれば、海賊版に手を出す必然性が無くなる。ネットフリックスは、不正なコンテンツ配信を防ぐより合法的で高価な手段にもなる。

過熱する動画配信サービスの競争は「好意的」

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 ネットフリックスのようなインターネット動画配信サービスの登場は、人々の視聴習慣を大きく変えてきた。モバイル機器でもインターネットにさえ接続されていれば、いつでもどこでも映画やドラマを楽しめる。

 そのため、Amazonの「Amazon Prime」、YouTubeの「YouTube Red」、英BBCなどの競合他社が参入し、動画配信サービスの競争は激しさを増している。しかし、ヘイスティングス氏は「消費者によってより良いもの」であるとし、この状況を好意的に捉えている。

「10~20年以内には、あらゆる動画はインターネット上で視聴されるようになる。その一部を占めるのがネットフリックスだ。この業界の最先端に位置していることに興奮を覚えている」(ヘイスティングス氏)

 動画配信を行うネットフリックスにとって、通信環境やモバイル機器の品質はサービスレベルに大きく関わる。

 モバイルでもデスクトップでも映像配信に遅延が発生しないよう、ネットフリックスはネットワークサーバーやインターネット・サービス・プロバイダーの最適化に努めてきた。

 「世界展開を進める中で、YouTubeらの競合と共に、動画視聴環境について学び、改善を行ってきたい」とヘイスティングス氏は語る。

 2016年に発表されたダウンロード機能は、視聴体験をさらに改善するものだった。一部の映画やドラマをモバイル機器にダウンロードし、インターネット接続がない状態でも視聴できるようになったのだ。

 また、多くの通信会社はある一定の通信容量を超えると通信速度に制限をかけるような契約になっているが、少ない通信容量でも良い画質で動画を再生できる技術を開発し、視聴体験の改善に努めているという。

 モバイル機器の画質は年々向上しているため、映画を観覧する環境は向上している。それでも、画面サイズの好みは人によって異なり、高齢者は映画館の大画面を好み、若者はモバイル機器の新たな体験を望むかもしれない。

 ヘイスティングス氏にとっては、どのような画面サイズに対しても柔軟に対応し、内容が面白くストーリーに意味のあるコンテンツを届けることが重要だと語っている。

ネットフリックスの戦略は「ローカルで制作、グローバルで視聴」

 ヘイスティングス氏はネットフリックスの戦略を「ローカルで制作し、グローバルに視聴する」と表現している。事実、日本を含め、世界中の制作会社やテレビ局と提携し、コンテンツを増やして、ネットフリックスの魅力を高めてきた。

 ネットフリックスが流行する以前には「消費者は映画やドラマに定額課金するのか?」とテレビ業界から疑いの目が向けられていた。しかし今、米国では、ケーブルテレビの契約数は変わらないまま、約半数の家庭がネットフリックスと契約するようになったという。

 ネットフリックスはこれまでのテレビとは異なる新たなサービスを創造したことになる。「実際、米国のケーブルテレビ放送局コムキャストは、ネットフリックスと提携してテレビ配信を開始し、大きな成功を収めている」(ヘイスティングス氏)。

【次ページ】未来では「娯楽とは何か」という多くの議論がなされる

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