0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
フォーチュン500にランキングされた米企業の実に62%がCMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)を設置していた。これに対して日本では、時価総額上位300社のうち、CMOを設置している企業はわずか0.3%に過ぎなかった(2013年経産省調査)。それでも、近年はCMOへの注目度が高まっている。その背景にあるのが、国内市場の成熟化、デジタル化、そしてグローバル化だ。こうした変化の中でのマーケティング、ひいてはCMOの役割とは何か。資生堂ジャパンの音部大輔 執行役員、ネスレ日本の石橋昌文 常務執行役員、マツダの毛籠勝弘 専務執行役員といった著名CMOが集結して、それぞれの取り組みを明かした。
資生堂のCMOは組織を「持続的に」成長させていく
「ワールドマーケティングサミットジャパン 2016」にて『日本におけるCMOの潮流』をテーマに行われたセッションでモデレーターを務めた安藤氏は、まず上記の通り国内環境の変化に触れた後、先進的なマーケティングを展開している日本企業のCMOを紹介した。最初に登壇した資生堂ジャパン 執行役員 チーフ・マーケティング・オフィサーの音部大輔氏は次のように語る。
「CMOの重要なミッションの1つ、あるいは一番始めに取り組まなければならないのは利益あるいは売上目標の達成だ。そのためには、自社の持つ各ブランドが正しい戦略を取っているかを確認することも必要だが、同時にマーケティング組織の成長を担保することが、CMOに特徴的な非常に重要なミッションだと考えている」(音部氏)
それでは「組織が成長する」とはどういうことなのか。
「私は、昨日できなかったことが今日できるようになっているなら、それはマーケティング組織として成長したことだと捉えている。ではどうすれば、昨日できなかったことが今日できるようになるのか。この時に重要な“持続的な成長”の主成分になるのが、知識だと考えている。たとえば5年目のマーケターに対する期待と1年目のマーケターに対する期待はそれぞれ違う。その間にあるのは4年分の経験値の違い、つまりは知識の差だ」(音部氏)
そこでマーケティング部門は、知識を獲得しやすく、また蓄積しやすく、流通しやすい環境を作れば、組織として成長しやすい構造を獲得したことになると考えた。
「たとえば200人のマーケターで構成されるマーケティング組織があり、これを10個のグループに分けたとする。それはブランドごとのチームかもしれないし、機能別のチームかもしれない。いずれにせよこの時の体制は、20人×10チームと表現することができる。しかし200人が有機的な固まり感、もしくは自社への帰属意識を1つ持っていれば、200人×1チームという構造もあると理解できる。20人×10チーム、200人×1チーム、いずれも合計で200人にはなる」(音部氏)
組織の成長が知識によってもたらされると考えれば、知識の流通量をいかに増やすが課題になってくる。そこで20人の各チームで、個々のメンバーが他のメンバーからも学ぶことができる仕組みを作ったとする。イントラネット上で経験を共有する場や、成功事例/失敗事例を共有できるイベントなどだ。
「そうすると1チーム当たりの知識の流通量は20人×20人分で、これが10チームあるので全体としては(20×20)×10=4000となる。一方で200人全員が一体感を維持することができれば、200×200×1=40000だ。知識の流通量という観点からは、実に10倍もの差が出ることになる。こうした環境を作るための取り組みが、CMOにとっての非常に重要な役割の1つだと考えている」(音部氏)
その際のキーワードして音部氏が提示したのが「共通言語」だ。
「ブランドごとのサイロ化、あるいは部門ごとのサイロ化を防ぎ、200×200×1といった組織全体での知識の流通量を増やす仕組みとして、共通言語の確立は非常に重要な作業になる。共通言語とは、たとえば失敗から学んだこと、あるいは成功から抽出したことで、これらは個々人の属人性を排除し、組織全体の共通財産にできるものだ。また広い意味では標準化された業務プロセスも、共通言語の1つになると思う」(音部氏)
共通言語を確立し、知識の流通量を増やしていくことで、その組織は成長していく。
「CMOはマーケティング業務の責任を背負う役割であると同時に、Creating Marketing Organization、即ちマーケティングの組織を作り、成長させていくことも重要な責務だと私は考えている」(音部氏)
ネスレのマーケティングは「顧客の問題を発見すること」
次に登壇したのが、ネスレ日本 チーフ・マーケティング・オフィサー 常務執行役員の石橋昌文氏だ。
同氏が担当するマーケティング&コミュニケーションズ本部には、メディアプラン二ング、エージェンシーマネジメント、インストアコミュニケーションなど様々な機能があり、飲料事業やコンフェクショナリー(=菓子類)事業といった各事業部あるいはグループ企業に対して、横串でマーケティング機能を提供している。
「ネスレグループとしてのマーケティングの主な仕事は、イノベーション/リノベーションと、消費者コミュニケーションの2つが大きな柱だ。縦割りの事業部を超えるマトリックス組織で、マーケティング機能を有効に働かせるのが私の仕事だ。特にマーケティング&コミュニケーションズ本部では、消費者コミュニケーションに関わるところを主にサポートする形になる」
具体的には、各事業部と一緒に各々のコミュニケーションプランを作り、適切なアプローチ方法を、適切なチャネルで展開していく。
「それぞれの事業部は、自分たちのブランドを育てるために日々業務をしている。ではネスレというコーポレートブランドについては誰が担当するのか。それがCMOである私の役割だ。各ブランドの活動とネスレというコーポレートブランドをどのようにうまく関連付けて展開していくのか、あるいはコーポレートとしてのコミュニケーションの打ち出し方をどうするのかなどを考えている」
そして石橋氏は「マーケティングとは“顧客の問題を発見し、その問題を解決すること”だとネスレでは考えている。こうした視点から考えれば、顧客はマーケティング部門だけにいるわけではない」と強調する。
「たとえば人事部門なら、従業員やネスレに入りたいと思っている学生が顧客になる。そうした人たちの課題を見つけ、解決することが人事部門の仕事であり、実際にこの考えの元、社内では過去数年にわたって色んな改革が行われてきた。ネスレではこうしたマーケティング的な思考を全社的に展開していくという形で動いている」
【次ページ】マツダのCMOが特に重要だと考えている2つのこと
関連タグ