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全社的なマーケティング推進を可能にする組織体制を構築し、さまざまなイノベーションを実現している企業として知られるネスレ日本。「キットカット受験生応援キャンペーン」などを手掛けた石橋 昌文CMOが、企業成長においてマーケティングが果たす役割を語った。
※本記事は2020年10月7日開催「CMO Japan Summit 2020(主催:マーカスエバンズ)」の講演を基に再構成したものです
食の持つ力で、すべての人々の生活の質を高める
1866年にスイスで創業したNestléは、世界187カ国の拠点で約30万人の従業員が働く世界最大規模の食品・飲料企業だ。創業者のアンリ・ネスレ氏が開発した乳児用の乳製食品をビジネスの原点とし、企業統合を進めながら事業のポートフォリオを拡充。グローバルで2000を超えるブランドを抱え、2019年の売り上げ規模は約10兆1600億円となっている。
同グループでは「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高める」ことを存在意義(パーパス)に掲げている。また、同グループの価値観(バリュー)は、自分自身、相手や他者、多様性、未来などへの「敬意」に根差しているという。
2015年には、パーパスを実現するためのアプローチとして「共通価値の創造(CSV:Creating Shared Value)」を提唱。2030年に向けて「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成を支援する、3つの包括的な長期的な目標を設定し、それぞれの領域での取り組みを進めている。
1913年に設立された日本法人のネスレ日本は、「ネスカフェ」や「キットカット」などを中心に幅広く事業を展開。日本独自の取り組みとして、「ネスカフェアンバサダー」の展開、国産コーヒー豆の栽培を目指す産学官連携プロジェクト「沖縄コーヒープロジェクト」の展開、プラスチックごみゼロを目指して主力製品のパッケージの紙化などを推進している。
ネスレ日本 専務執行役員 チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO) マーケティング&コミュニケーションズ本部長 石橋 昌文氏は、「共通価値の創造(CSV)は、ネスレの事業活動そのもの。さまざまな社会課題をビジネスの機会と捉え、自社の事業を通じて社会課題の解決を目指している」と説明する。
ネスレ日本の“マーケティング・ファースト”の組織体制
石橋氏は日本での営業職を経て、英国やスイス本社などでマーケティング事業に携わってきた。2012年にネスレ日本のCMOに就任した。日本マーケティング協会の常任理事も務めている。
ネスレ日本の組織体制の特徴として、石橋氏は「各事業部が、それぞれマーケティング部門と位置付けられている」と説明する。
たとえば、ネスカフェを扱っている飲料事業本部、キットカットを扱うコンフェクショナリー事業本部などは、売り上げと利益目標を達成するためにビジネスプランを作成し、マーケティング活動を実践する役割を担っているという。
それを縦軸として、横軸に各事業部をサポートする「ファンクショナルユニット」を設置。石橋氏は、同社におけるCMOの役割について「縦割りを超えたマトリックス組織として、各事業部を“横ぐし”で支えてマーケティング機能を発揮させることにある」と説明する。
「リノベーション」と「イノベーション」の違い
ネスレ日本では、自社のマーケティングの定義として「顧客の問題解決を通して新たな価値を創造する」(石橋氏)を掲げている。特にマーケティング活動では「製品のイノベーション/リノベーション」「消費者コミュニケーション」の2つを柱としているという。
石橋氏は「顧客課題の解決方法には、リノベーションとイノベーションという2つのやり方がある」と説明。
「マーケティングリサーチによって発見できる“顕在化された問題”を解決するのがリノベーション。顧客自身が認識していなかったり、あきらめている”潜在的な問題”を解決するのが、イノベーションである」(石橋氏)
リノベーションとイノベーションの違いについて、石橋氏は、“室内温度が高い”という問題に対する解決方法の変遷を例に挙げる。「夏の暑さを凌ぐ方法として、うちわなどが利用されていたが、電気が発明されたことで扇風機が誕生した。その後、部屋の温度や湿度を下げるためにエアコンが開発された。こうした流れがイノベーションだ」という。
一方で、扇風機をつけっ放しで寝てしまい風邪を引いた人のためにタイマー機能を付けるなど「実際に使用したことで明らかになった課題を解決する機能を追加することがリノベーションだ」と説明する。
さらに石橋氏は「多種多様な製品が市場にあふれてきたことで、顧客が抱える問題の質が変わってきた。従来型の手法では、顧客の問題解決は図れない時代に変化している」と指摘する。
「製品自体が問題解決を実現してきた20世紀までと比べて、インターネットの登場などでデジタル化が進んだことで、現在は製品を超えたモノ・サービスでなければ、顧客の問題が解決できない時代になっている」(石橋氏)
その上で「あらゆる企業においてデジタル変革(DX)が必要不可欠な存在になっている。しかし、DX自体が目的ではない。DXは問題解決を図るための手段にすぎない」との見解を示した。
さらに、これからの顧客の問題解決のステップとして「自分が関わるビジネスの中で顧客が誰かを定義した上で、時代とともに変化する新しい現実を踏まえて、顧客が抱えている問題を探し出し、その解決策を見つけて実行して新たな価値を創造すること」の重要性を説いた。
【次ページ】石橋CMOが、「キットカット」キャンペーンの大成功で気づいたこと
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