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総務省は2016年度「ICTまち・ひと・しごと創生推進事業」で、島根県海士町など10自治体と1団体が提案した11事業を採択した。他の地域で実施されたICT活用の成功例を横展開し、地域の課題を解決しようとするものだが、公立はこだて未来大システム情報科学部の和田雅昭教授(水産科学)は「それぞれの地域事情に合わせ、成功例の作り替えが必要」と指摘する。街づくりや地域活性化事業ではこれまで、他地域の成功例を真似て失敗するケースが相次いでいる。安易な模倣で終わらせたのでは同じ轍を踏むことになる。
他地域の成功例を採り入れる全国11事業を採択
2015年末に閣議決定された政府の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の改訂版で、ICTを活用した技術革新や新産業創出を行政、医療、農業など幅広い分野で推進すると規定されたのを受け、総務省が2016度からこの事業をスタートさせた。
総務省は、2012年度から全国27カ所で実施してきたICT街づくり推進事業の成功例や、地域情報化大賞に選ばれた事例などを導入する自治体や民間事業者を公募。応募があった25事業から学識経験者ら外部委員の審査を経て11事業を採択した。
採択された2016年度ICTまち・ひと・しごと創生推進事業 |
提案自治体、団体 | 事業名 |
岩手県大船渡市 | 野生鳥獣被害地域ICT基盤構築事業 |
香川県土庄町 | クラウドを活用した有害鳥獣捕獲罠監視通報システム |
佐賀県佐賀市 | 広域鳥獣クラウド・プロジェクト事業 |
長崎県対馬市 | 獣害から獣財プロジェクト~イノシシ、シカで島おこし |
愛媛県西予市 | 森林ICTプラットフォームを活用した地域活性化事業 |
福島県会津若松市 | ICTを活用した母子健康支援プロジェクト |
岩手県葛巻町 | くずまき見守り&スマートライフプラットフォーム推進事業 |
高知県南国市 | マイナンバーカード活用による電子お薬手帳「南国市健康ポータル」 |
秋田県由利本荘市 | ICTを活用した住民参加による広域周遊促進事業 |
島根県海士町 | ICT活用による「隠岐海士のいわがき春香」高品質養殖マリンクラウド |
全日本漁港建設協会 | 長崎県沿岸域まち・ひと・しごと創生(防災安全)推進事業 |
出典:総務省報道発表資料 |
採択された自治体、団体は、本年度中に事業をスタートさせる。総務省情報通信政策課は「成功例を横展開することで全国に共通した地域課題を解決したい」と力を込める。
基幹システムに成功例を導入することで、開発費や開発期間の削減が可能になり、ICT導入の敷居を下げられるのは、自治体にとって大きなメリットだ。地域の事情に合わせて細部を調整することで、その地域の情報サービス業も活性化できる。
土庄町など4市町は鳥獣被害対策システムを導入
岩手県大船渡市、香川県土庄町、佐賀県佐賀市、長崎県対馬市の4市町が導入を目指すのは、長野県塩尻市が実用化したセンサーを使った鳥獣被害対策だ。シカやイノシシによる農作物、森林の食害は全国で急増し、中山間地域を抱える自治体の多くが対策に頭を悩ませている。
塩尻市は2012、13の両年度、北小野地区の水田周辺に獣感知センサーや罠捕獲センサーを設置した。獣を感知すると、サイレン音やフラッシュ光で追い払うとともに、検知情報が地図付きのメールで農家や猟友会の人たちに通知される。罠が作動した場合もメールが配信される仕組みだ。
北小野地区にある水田約27ヘクタールは長くイノシシに荒らされてきたが、2年間で6頭を捕獲したほか、追い払いが効果を上げて被害面積がゼロになり、稲作収入が7倍近くに増えた。
香川県小豆島の土庄町はシカの食害が減少傾向にあるのに対し、2011年ごろからイノシシの被害が増加し、2015年度に471万円の農作物被害が出ている。土庄町農林水産課は「町民にイノシシ対策のノウハウがなく、対応に苦慮している。塩尻市の事例を使い、農作物被害を解消したい」と意気込んでいる。
【次ページ】海士町は海洋環境を可視化し、イワガキ養殖に活用
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