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物流は重要な社会インフラであり、物流が機能しなければ経済は成り立ちません。最近では人手不足をはじめとした2024年問題などから、物が届かなくなる未来も指摘されています。しかし災害の多い日本においては、地震や大雨、新型コロナのような感染症など、物流機能を止める脅威が多く存在しています。こうした有事の際でも、医薬品や食料など必要物資を届けなくてはなりません。そこで今回は、物流面のBCP策定に重要なポイントなどについて解説します。
物流BCPは荷主のため? それとも物流企業?
BCPというと、地震による被害や、洪水・台風による水害への備えがありますが、最近では新型コロナのような感染症対策を行う企業も増えています。対して物流面のBCPでは、こうした有事が発生した際に、必要な場所へ必要なものを届ける行為を止めないための仕組みを構築します。
そもそもなぜ、物流BCPが必要なのでしょうか。そして物流BCPは誰のためのものなのでしょうか。
物流BCPに関わる人は、物流業務を担う物流企業と、物流を駆使して自社製品の保管・配送を委託する荷主企業の2者に分かれます。物流BCPにおけるこの2者の使命について、考察していきます。
・荷主:物流BCPに「必須の考え」
まず、物流で自社製品を流通させる荷主企業の場合です。良い製品だとしても、使用者や消費者の元に届かなければ、その価値は発揮しません。たとえば、病院で使用される医療機器は、医師の手にわたり、患者の治療や診察に使うことで、価値が発揮されるということです。
荷主企業は自社の製品に対して、欠品や遅滞などがあってはいけないという使命感を持っています。当然、お客さまに迷惑をかけてはいけないということが1番ですが、物流BCPの観点からすると、お届けに関する優先度を考えなければなりません。
事例として、洋菓子メーカーA社のケースで説明します。有事が発生して製品の出荷が困難となった場合、無理して出荷することはせず、配送体制が安定するまでの一定期間、出荷を停止するという方針を打ち出しています。
極端な言い方をすると、たとえば地震が起きたときに洋菓子が緊急性を要する製品かどうかという視点です。有事が起きた際の優先度の高い製品は日用品や医療関係品、食料品などでしょう。洋菓子であれば、有事が起きた際に、そもそも出荷先である百貨店などが通常通り営業しているかどうかさえわかりません。
これは、他社の製品を優先し、自社は体制が安定した後、出荷を再開するという考えで、物流業務を担う物流企業の視点に立った考えでもあります。出荷・配送を担うには物流企業の従業員が出社し、業務の対応をしなければなりません。そのような危険な状況に対して、どこまで物流に求めるか、ということです。
・物流企業:矛盾だけど超重要な「安全と供給の両立」
では、物流企業側のBCP対策はどうでしょうか。物流企業B社の事例で見てみます。東海地区にある物流センターでは、震度5以上の揺れが発生した際、最低1日は物流センターの業務を完全に停止し、安全が確認できてから再稼働するという方針を立てています。
これは、物流企業だけの都合で決められることではなく、荷主企業と協議の上で決定されるものです。当然、何も問題がなければすぐに稼働はしますが、震度5以上の地震が発生すれば、揺れた時間の長さにもよりますが、少なからず影響が出るでしょう。
幸いにも物流センター自体に問題が生じなくても、周辺道路の液状化、公共交通機関の運行中止によって、従業員が出勤できない可能性もあります。有事が起きてから対応を決めるのではなく、事前に対応を取り決めておくことで、危険な状態で物流センターを稼働させたり、なんとかして従業員を出勤させたりすることを防ぐことができます。
物流BCPは、市場への供給を止めないことと、従業員の安全を確保して稼働を止める、という相反する内容ではありますが、この2つが重要です。まずは物流企業と荷主企業で、有事の対応をどのように考えるか、事前に協議して取り決めておくことが必要です。
また一度決めて終わりではなく、定期的に取り決めた内容を読み合わせて、共通認識を持たせると良いでしょう。そして、実際に協議した内容を、行動に移す人への情報共有も大切です。有事の際にしっかり行動できるよう、教育・訓練を行うことが物流BCP定着の第一歩です。
ここからは、より詳しい物流BCPについて、水害と感染症蔓延という2つの事象発生を例に挙げながら解説します。
【次ページ】水害と感染症にどう備えるべきか?
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