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- 2023/01/25 掲載
再配達で「年2億時間&1,000億円」がムダに…? それでも“タダ”が続くおかしな理由
連載:「日本の物流現場から」
バブル崩壊後の期待の商品「時間指定配送」
「時間を付加価値としてとらえるところから、時間指定配達サービスが商品化された。今年に入っても新規参入組が相次いでおり、新時代の商品として着実に市場を拡大している」。これは1989年8月発行の業界誌「流通設計」の一文である。1980年代末から90年代初頭にかけて、路線便各社は時間指定配送サービスに参入していった。佐川急便は、1985年2月から「TOP便」なる法人向け時間指定配送サービスを展開。時間指定料金は東京近郊で1個2,000円だった。岡山県貨物運送は、1989年4月からハートタイムジャスト便を展開(注)。午前8時までの時間指定が貨物1個10キロまでで2,500円、午前9時までの時間指定で2,000円だった。
西濃運輸は1991年4月から、全国主要都市を対象に翌日午前9時までに配送するカンガルースーパー9と、翌日午前10時までのカンガルースーパー10を開始した(注)。1993年、西濃運輸の担当者は「(時間指定配送は)付加価値も高い分、利益率も高い。だから拡販していきたい」と業界誌のインタビューで答えている。当時はバブル崩壊の景気後退期であったにも関わらず、売上は前年比1桁アップと、担当者らの期待も大きかっただろう。
ほかにも、日本通運のスーパーペリカン便、ヤマト運輸の宅急便タイムサービス、福山通運の8エキスプレス・9エキスプレスなど、多くの路線便事業者が時間指定配送サービスを展開した。
宅配の時間指定を無料化した「ヤマト運輸」の不安
これらの時間指定サービスは、基本的に法人向けの配送サービスであった。個人宅向けの宅配サービスにおいて、時間指定配送サービスを無料化したのがヤマト運輸だ。1997年秋、ヤマト運輸東北支社が個人宅向けの時間指定配送サービスのテスト運用を行った。当時のヤマト運輸担当者は、「翌日配達は他社も追随している。これに代わるものが欲しかった」と答えている(注)。
そしてヤマト運輸は1998年3月から、東京、関東、南東北エリアを対象に宅急便の時間指定お届けサービスを無料で開始。1999年、担当者は「料金を取るならば他社でもできる」と強気の発言をしている。
1998年、ヤマト運輸の宅急便取扱個数は約7億8000万個であり、宅配便2位の日本通運(当時は日本通運もペリカン便という宅配便サービスを展開していた)の約2.1倍、約38%のシェアを握っていた。
もちろん、無料化の理由としてシェア拡大は大きかっただろう。一方で「時間指定の加算料金として100円取ると、利用率は40%減る」という。これは当時ヤマト運輸のセールスドライバーが、個人3000人、法人1500社に対して行ったヒアリングの結果だそうだ(注)。
ヤマト運輸は法人向けの時間指定配送において、当時300円~1,800円の加算料金を得ていた。しかしそのヤマト運輸をしてでも、宅配(個人向け)における時間指定サービスの有料化には不安があったのだろう。結果、佐川急便などの競合他社も宅配の時間指定配送サービスを無料化したのはご存じのとおりである。
それだけではなく、期待の新星だったはずの法人向けサービスにおいても、今や時間指定は無料になってしまった。さらに言えば、混載便配送や、同一荷主による複数カ所配送といったチャーター便など、路線便以外の配送でも時間指定料金を収受できていないケースが多発している。
【次ページ】無料の時間指定、戦犯は本当にヤマト運輸なのか?
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