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- 2022/08/03 掲載
インフレの元凶は「物流費」なのか? 値上げできた運送会社が“たった5%”の深刻事情
連載:「日本の物流現場から」
「物流費」高騰の実態は? 値上げした運送会社はたったの5%
世間の人々の中には、「これだけ物流費高騰って言っているんだから、運送会社は儲かっているんでしょ」と思われている人もいるだろう。他誌の記事ではあるが、上場物流企業の決算に関する記事を見て、そのように言ってきた人も実際にいた。物流26社の決算が好調!61%も増収した「大穴」企業の正体と意外な理由――こう銘打った記事では、2022年3月期の業績において、上場物流企業26社中25社が増収と伝える反面、来期の業績見通しについては、7社が減収見込み、8社が営業利益での減益を見込んでいると報じている。
では、日本国内を流通する貨物の91.8%(重量ベース)を担うトラック輸送はどうだろうか。物流費高騰が叫ばれる今、トラック輸送の運賃は軒並み値上げされているはずである。
しかし東京都トラック協会が2022年1月31日に行った「運賃動向に関するアンケート調査」によれば、過去半年以内に運賃を値上げした運送会社は4.9%にとどまった。89.5%が「特に変化はない」、3.1%が「値下げにあった」と答えている(図1)。
同調査は半年に1回行われているが、値上げした運送会社は前回調査が4.2%、前々回調査は13.3%とずっと低調だ。
この調査はあくまで東京都の運送会社を対象としたものであるが、全国的にみても、実際に運賃を値上げできた会社は一部にとどまると考えられる。より現状を把握するため、本稿執筆にあたり、複数の運送会社に話を聞いた。
その結果、「値上げ要請は行ったが、まるで相手にしてもらえない」といった嘆きも聞かれた一方で、運賃値上げを荷主に承諾してもらった運送会社もいた。だが、希望レベルの運賃値上げができた運送会社はゼロだった。
「値上げに承諾はしてもらったが、希望運賃からは大幅に値切られた」「次の四半期(7月)から値上げの口約束はもらったが、実際には値切られると思う」
前出の東京都トラック協会のアンケート調査においても、88.3%の運送会社が「現行の収受運賃は、希望する運賃料金よりも低い」と答えている。
「燃料費」高騰…でも“7割強”がサーチャージ導入の経験なし
現在の物価上昇は、ウクライナ情勢なども関係した原油高による部分が大きい。それゆえに、運賃とは別に燃料代の市場価格上昇(もしくは下落)分を変動価格とする燃料サーチャージにも注目が集まっている。トラック業界の燃料サーチャージは2008年に国土交通省により制度化されているが、全日本トラック協会は昨今の原油高などを受けて燃料サーチャージの収受に向けたパンフレットを作製、荷主企業に送付するなど取り組みを進めている(図2)。
そのパンフレットでは燃料サーチャージの計算例を記載。軽油の基準価格を100円/リットルとし、軽油価格が100円/リットルを超えた場合のみ、燃料サーチャージが発動するという、運送会社側に都合の良いものとなっている。
実際、ある運送会社役員は、運賃値上げ要請を行ったとき、荷主側から「燃料サーチャージだったら受け入れやすいんだけど」と言われたという。だが、燃料サーチャージを実際に導入できている運送会社は、まだ少ない。
前出の(東京都トラック協会の)アンケート調査によれば、燃料サーチャージを導入できている運送会社は13.6%にとどまる。「導入していたが今はしていない」の14.2%を除き、7割強の運送会社が燃料サーチャージを導入したことがないと答えている。
ある運送会社の営業所長は、数年前、燃料サーチャージ導入を荷主に打診したことがあったが、「物流費が変動費になるのは困る」と断られたそうだ。別の運送会社役員は、一度は燃料サーチャージ導入を検討したものの、現状運賃のうち何割を燃料サーチャージにすべきか計算できず、断念したという。
同様の理由で、燃料サーチャージ導入を諦めている、もしくは尻込みしている運送会社は少なくない。あくまで筆者の肌感覚ではあるが、しっかりと原価計算を行い、運賃を算出している運送会社は限られている。大半の運送会社は、「○市から△市、4トントラックチャーターであれば、3万5,000円かな」といった相場観によって運賃を設定している。
相場観という、あくまで担当者の主観からスタートした運賃に対し、「さて、燃料サーチャージはいくらですか」と言われても困ってしまうのだ。
このように、上場物流企業が軒並み好決算である一方、中小トラック運送会社は運賃も上げられず、燃料サーチャージも収受できていないのが真実だ。こうした状況に、「大手が利益を独り占めしている」とか「運送業界の多重下請け構造が問題だ」という人もいる。この考え方は全否定できないものの、こと運賃の値上げに関しては、もっと別の観点で論じる必要があると考えている。
【次ページ】値上げできない中小運送会社と「儲ける大手企業」は何が違う?
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