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物流倉庫は近年、大型化が進むともに、EC発展や人手不足対策などを理由に住宅地に近いエリアでも建設されるようになった。大型倉庫は日本経済を維持するためのインフラである一方、ひとたび火災を起こせば鎮火までに長時間を要する。火災による損失額は莫大となりやすく、企業にとっては大きなリスクである。消費者にとっても物資が届かなくなれば、日常生活に大きな影響を被る。なぜ倉庫火災は大規模となるのか。また火災によって何が起きるのか。鎮火までに12日間かかったアスクルのケースをひも解きながら、近年大型化が進む倉庫の火災リスクについて考えていこう。
消防隊長も嘆いたアスクル倉庫の大火災
2017年2月、埼玉県三芳町で発生した「ASKUL Logi PARK 首都圏」(以下、アスクル三芳倉庫とする)の火災は消防法改正のきっかけになるなど、大型倉庫における防災対策のマイルストーンとなった。
アスクル三芳倉庫は、幅約240メートル、奥行き約190メートル、延べ床面積は約7万2000平方メートルという巨大倉庫。接車バースのあった1階と3階では、商品がパレットのまま積み上げられていることが多かったのに対して、2階ではアスクルの取り扱う多種多様な商品がラックに並べられていた。消防庁がまとめた「
埼玉県三芳町倉庫火災を踏まえた防火対策および消防活動のあり方に関する検討会報告書」から判ずるに、開放的な1階および3階に対し、2階は複数のコンベヤーとラックが所狭しと設置されている様子だった。
火災は、廃棄されるダンボールが集積される1階の端材室で出火。廃棄ダンボールの回収にあたっていた古紙回収事業者の従業員が運転するフォークリフトのエンジンルーム内にダンボール片が入り込み発火し、床上にあったダンボールに燃え移った。そして、実際に燃え広がったのはラックなどが集積していた2階とされている。1階の端材室で段ボールが急激に燃焼し、2階につながる端材室上部の開口部を通して2階に強い炎が燃え広がったようだ。
炎が50センチメートルほどに燃え上がった際、それに気がついた従業員は着ていた作業着を脱ぎ、炎をたたき消そうと試みた。だが消えなかったため、ほかの従業員らと共に消火器を使用したがそれでも消えず、その後に119番通報を行った。通報は火災報知器の発報から7分後(9時14分)のことであり、最初に炎を確認してからはさらに時間が経っていたと考えられる。
アスクル三芳倉庫では、普段から避難訓練を行っていた。その甲斐あったのだろう、当時倉庫内で働いていた421名の作業員は全員無事に避難できた
(注)。一方で、火災発生時の通報訓練を行っていなかったことが、119番通報の遅れにつながった可能性があると指摘されている。
先陣を切って倉庫内へ進入した消防隊長の手記
(注)からは、当時の厳しく、そして緊迫した様子がうかがえる。
注) |
月間消防2018年7月「救急隊員日記」西消防署 特別救助隊長 池田伸夫氏 |
1階の倉庫内には約4メートルの高さに積まれた段ボールの山が、所狭しと立ち並び、我々の進入を拒むようであった。その状況はまるで段ボールで作られた山岳地へ足を踏み入れるような感覚で、隊員の遭難を連想させた。(中略)
(進入した2階の状況は)どれほどの目測距離であったかわからぬ程、内部は暗黒のような濃霧と熱気で充満し、これ以上の屋内進入は危険であると判断する。(中略)
(放水を行うも)その火炎と熱気はまるで圧力があるかのように、筒先から放水される水が瞬時に蒸発するように感じ、「放水圧力の上昇」を命じた。しかし、むなしくも放水圧力は安定してくれはしなかった。(中略)
活動中、上階から雷鳴のような破裂音が数回鳴り響いた。『もしかすると3階に延焼の可能性があるのでは』刻々と変化する災害環境と自隊活動状況を、指揮隊に報告した。
なお、消防隊が2階に進入したのは9時29分、つまり119番通報からわずか15分後のことであり、延焼スピードがすさまじく速かったことが分かる。
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