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完全自動化、完全無人化が実現できない今の物流ロボットって、中途半端だよね──このような考え方を持つ人は少なくない。大手物流企業の経営者や、有名な物流業界の論客による、同様の主旨の発言を筆者は耳にしてきた。「ロボット=完全自動化・完全無人化」は理想だが、これは正しいのだろうか。産業用ロボット普及の歴史や、実際に物流ロボットを導入している澁澤倉庫の事例なども取り上げつつ、物流企業が目指すべき物流ロボットとの付き合い方について考えていこう。
物流ロボットとは? 代表的な「5つのロボット」
物流は、輸送、保管、荷役、包装、流通加工、そしてこれらの処理を管理・運用する情報処理という6つのプロセスから構成される。物流ロボットとは、6つのプロセスのうち情報処理を除いた輸送、保管、荷役、包装、流通加工のそれぞれで稼働するロボットの総称である。
物流ロボットにはいくつか種類がある。代表的なものを挙げよう。
- 無人搬送ロボット・ドローン:
ラストワンマイルの配送を担う
- 自動製函機・自動包装機:
商品に最適なサイズに箱を加工する。ECなどで普及が進んでいる
- AGV(無人搬送車)・AMR(自律走行搬送ロボット):
ピッキングした商品を搬送する
- GTP(自動棚搬送ロボット):
商品を収める棚そのものを移動させる
- 自動荷役機器:
ピッキングロボットや無人フォークリフトなどが当たる
筆者が3年前に
取材した、丸井の物流子会社ムービングが運用するオートストアは、自動倉庫に分類される。自動倉庫とは、物流倉庫内に専用ラックやベルトソーターなどを組み合わせて専用設備を設けることで、保管スペースへの収納、保管、ピッキング、検品などを自動化する装置のことである。自動倉庫を物流ロボットとは別物とする考え方もあるが、本稿では自動倉庫も広義の物流ロボットとして考えていく。
オートストアでは、オーダーに応じて商品がピッキングされ、作業員の手元まで搬送される。その後、配送用に梱包し、配送ラベルを貼り付けるのは作業員である。つまり無人化は実現していない。
一部のEC事業者やメーカーの物流倉庫では、かなり高度な自動化を実現しているものの、完全無人倉庫は(少なくとも国内では)実現していないのだ。
“安くて手軽な”ロボット登場で市場規模は「10年で倍増」
産業用ロボットは、1960年代末期の黎明期、1970年代の実用化期を経て、1980年を普及元年とし、1985年には3000億円産業に成長
(注)。
2021年の国内メーカーによる総出荷額は約9,600億円に上る。
注) |
日本ロボット工業会(1994年9月)「ロボットの現状と展望」 |
業界団体の統計調査によれば、産業用ロボットの総出荷額は2010年に対し、2020年では1.4倍に拡大した。だが、物流ロボットは2010年からの10年間で2倍に拡大、産業用ロボット全体の成長を大きく上回っている(図1)。
物流ロボットの中でも、特に躍進しているのが、
AGV・AMRなどの
無人搬送ロボットである。
AGVは、「automatic guides vehicle」の頭文字を取ったものであり、磁気テープなどの誘導体に従い、貨物を運ぶ搬送ロボットである。AMRは、「autonomous mobile robot」の頭文字を取ったものであり、AGVとは違い誘導体を必要としない。
共に、様々なバリエーションに富んだロボットが登場している。たとえば、後ほど登場する「t-Sort」(プラスオートメーション提供)のようにみかん箱ほどの大きさのものから、パレットを搬送できるもの、もしくは台車や棚の下に潜り込み搬送するもの、100キロ以上の貨物を搬送できるものまである。
AGVやAMRには、自動倉庫やベルトソーターなどと違い、既存の物流倉庫に対し、後から導入可能な手軽さがある。加えて、数千万円~億円単位の投資を必要とする自動倉庫に対し、無人搬送ロボットは安いもので1台十数万円という低価格なものもあり、導入のハードルは大きく下がっている。
事実、日本ロジスティクスシステム協会と日本物流システム機器協会がまとめた「
2020年度 物流システム機器生産出荷統計」を見ると、無人搬送ロボットが該当する台車系の売上は2017年度から2018年度にかけて急増している。2010年度の売上に対して2020年度は3.2倍にまで拡大し、他のロボットよりも高い伸び率を記録している(図2)。
また、物流ロボットなどを提供するプラスオートメーション(+Automation)やラピュタロボティクスが行っている、ロボットのサブスクリプションビジネスも、無人搬送ロボットが注目を集めている一因であろう。
【次ページ】倉庫の完全自動化が物流企業にとっての最適解と“言えない”ワケ
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