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  • 2022/06/03 掲載

物流の全体最適とは? アリババ「菜鳥」の事例とフィジカルインターネット

SICシステムモビリティ分科会

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コロナ禍で課題がより浮き彫りになっているのが私たちの生活を支える「物流」だ。これまでもドライバー不足が問題になっていたが、生鮮食料品や食事までオンラインでの買い物需要が爆発的に拡大し、現場は限界に近づいている。国内の中小の物流事業者は海外の巨大ロジスティクス企業による物流の効率化のしわ寄せを一手に引き受けているという状態だ。システムイノベーションセンター(SIC)のシステムモビリティ分科会が物流の全体最適として目指すべき形を探った。

物流産業を取り巻く社会的な要請

 システムモビリティ分科会は西成活裕氏(東京大学)が主査となり、KDDI、SOMPOシステムズ、トヨタ、野村総合研究所、JR東日本、三井不動産、三菱重工業、テクノバをメンバーとして2019年11月にスタートしている。

 分科会の特的としては、これまで議論があまり行われてこなかった物流の全体最適をテーマに国内外の調査を実施し、社会の基盤、インフラとしてどう整備していくべきか、物流の全体最適化に向けた提言にまとめること。

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図1:システムモビリティ分科会は2019年から講演会+検討会を中心に活動

 日本における物流の課題という議論には、物流産業に対する社会的な要請と巨大ロジスティクス企業の存在を無視して進めることはできない。

 まず、社会的な要請という観点でポイントになるのは、物流におけるCO2の排出の削減、ドライバー不足という問題だ。これは経済産業省の物流MaaS勉強会取りまとめでも挙がられているが、その他多くの調査研究でも指摘されている点だ。

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図2:「物流分野におけるモビリティサービス(物流MaaS)勉強会取りまとめ」による物流業界の現状と課題

 分科会が着眼点の1つと捉えたのは、ドライバーをはじめとする人手不足の部分で見えてくる課題だ。その中でも、一人のドライバーが拘束される時間の長さが大きな問題になってくる。主に、荷役の部分も運転手がやらなければならない実態がある。拘束時間と売上げは連動しないため、拘束時間が長くなればそれだけ収益が下がり、ドライバーの所得も下がっていく。この部分で効率化できれば企業の収益も改善され、ドライバーの収益も上がっていくはずだ、とする。

 無視できないのが巨大ロジスティック企業の存在だが、次にアマゾンについて、彼らが物流の効率化のために何をやっているのか。そして、日本の物流事業者との関係をみていこう。

アマゾンと日本の物流事業者

 大きな問題提議として出てきているのがアマゾンの存在だ。図3はアマゾンが物流の効率化のために実施していることを一覧表にしたもの。

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図3:アマゾンの取り組みは非常に網羅的で穴がない

 取扱商品の確保、倉庫の高度化、物流事業者の確保、荷姿の標準化、配達だけでなく、情報システムを活用し予測出荷を行う、というように網羅的な取り組みがされている。その設備投資の財源として、AWSで収益を上げて、その成果をロジスティックスに投じるという仕組みだ。

 しかし、日本の物流事業者としては、アマゾンの荷物を運ぶことはビジネス的に厳しいという事実がある。これはすでに色々なところで言われていることだが、分科会の調査においても、アマゾンから撤退した佐川急便とヤマト運輸の利益率の推移から次のような考察が明らかにされている。

 図4の左の棒グラブから、アマゾンから撤退したころで佐川の利益率が拡大し、ヤマトを追い抜いていることがわかる。一方、ヤマトは売上高は拡大するものの利益率は減少している。周知のように、ヤマトも取り扱う量を減らしている状況だ。そうした中、アマゾンの配送においてデイリープロバイダーの役割が相対的に大きくなってきている。このデイリープロバイダーはアマゾンが取りまとめを行っている中小の物流事業者で、ここに荷物の量を増やしているということになる。

 つまり、アマゾン側は比較的発言力の小さい中小に配送を依存し、低い利益率のまま配送を依頼し続けているという状況にあると言える。最近ではAmazon Flexという、個人がアマゾンと直接契約し、荷物を運ぶという仕組みも始まっている。アマゾンは交渉力の小さな物流業者へのウェイトをますます大きくしてきている。

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図4:アマゾンの配送の中でウェイトを増す交渉力の小さな物流業者

 このアマゾンの日本における状況を踏まえ、次に注目したいのがアリババグループのロジスティックス企業である「菜鳥」だ。

独身の日の大量配送をさばく、アリババ・菜鳥のロジスティクス

 菜鳥はアリババグループの物流テック企業で、菜鳥自身がトラックおよびドライバーを抱えて荷物を運ぶわけではなく、物流企業に配車を手配するというロジスティックの部分を一手に引き受けている。中国の「11/11(独身の日)」の大量の物流(日本の1年分のECの取引を1日だけで売り上げると言われる)を円滑にさばく仕組みは菜鳥をベースにできあがっていると言われる。

 ポイントは大きく3つ。まず1つは、「菜鳥駅站」というアリババの商品を受け取ることができる拠点を各地の企業や学校など利便性の高い場所に整備し、そこで配送物を受け取ることができるようにしている。その数5万カ所以上。保管することもできるので、ムダに再配達を重ねなくて済む。

 次に、物流企業の23万台の輸送車両を制御するのが「CSN(China Smart Logistic Network)」。CSNはパートナーの物流企業と共同開発したスマート物流プラットフォームで、同時に、物流企業ごとに異なっていたデータの標準化、デジタル入力を推進したとされる。CSNによりサプライチェーンの可視化やデータ分析を行い、意思決定の支援をするという流れになっている。最後は、アリババが自らが構築している住所のデータベースだ。住宅建設が急速に進み、その結果住所が頻繁に更新され、国の住所データベースと合わないという状況が起きているからだ。

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図5:アリババグループの物流テック企業「菜鳥」

 この菜鳥の取り組みは、現状、中国の中で配送について行われていることだが、日本との関わりで言えば、日本製品の中国市場への輸入という部分ではすでに始まっている。日本の輸送コストが中国から見ると高いことから、日本通運やSGホールディンググループが菜鳥と連携をし輸送コストを下げる取り組みを始めている。

 当然、中国製品を日本市場に輸出するところも視野には入っているだろう。菜鳥がそのロジスティックスの仕組みを日本に持ち込むことにより、アマゾンの場合のように日本の物流事業者が安価なコストで買い叩かれるというようなことが起きないとも限らない。

【次ページ】国内における先進事例:同一サプライチェーンにおける共同配送
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