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- 2016/04/04 掲載
はこだてマリンITの挑戦、デジタル化は漁業が直面する危機を救えるか
海洋環境や水産資源のデータを可視化
その拠点の1つになっているのが「マリンITラボ」だ。和田教授をはじめとする学内の研究員、東京農業大、稚内水産試験場など学外の研究員、さらには地元の漁業者が加わり、ITを活用した近未来型の漁業を模索している。
未来大は調査船がないため、漁業者の協力を得て漁船で海洋環境や水産資源のデータを収集、これを基に研究者がデータを可視化して活用方法を開発、提案する。漁業はもともと、漁業者個人が蓄積したノウハウで漁獲量を競ってきたが、研究者と漁業者がノウハウを共有する仕組みは、国内だけでなく海外でも珍しいという。
マリンITラボはこれまでに水温観測用の「ユビキタスブイ」、「マリンブロードバンド」、「デジタル操業日誌」を形にした。このうち、ユビキタスブイは海水温のほか、海水の流向流速を水深ごとに観測できる。これらを集約して空間データに展開すると、冷水塊がどの場所のどの水深帯にあるのかがひと目で分かる。「海のアメダス」とも呼べる存在だ。
マリンブロードバンドは無線LANシステムを用いた沿岸用のインターネット環境。これにより、漁船上でノートパソコンなどを使い、インターネットが使えるようになった。デジタル操業日誌は、これまで手書きだった操業日誌をタブレット端末でデジタル化した。操業開始時刻、終了時刻、漁獲量の3つを入力するだけで良い。
漁業者はこれらを活用することにより、漁場の海洋環境、資源量などが簡単に把握できる。その結果、水産資源の乱獲を防止し、資源量の回復をもたらした例が北海道内にある。
留萌のナマコ資源量が1.6倍に回復
そこで、地元の新星マリン漁業協同組合留萌地区ナマコ部会、稚内水産試験場は2008年、はこだて未来大の和田教授と協力してナマコの資源データをITで可視化するプロジェクトを始めた。まだマリンITラボのスタート前で、デジタル操業日誌も世に出ていなかったため、紙の操業日誌を配布して漁のデータを収集した。
操業日誌には漁の時間や回数を記録し、10日ごとに回収して集計、データ化、その結果をファクスで漁業者に配布した。さらに、防水性のあるノートパソコンにデータを記録する実証実験も進めた。
しかし、ともに漁業者には不評だった。FAXで届くデータはかすれて読みにくく、ノートパソコンは起動に時間がかかったからだ。このため、和田教授は2011年、起動時間が短いタブレットを利用することにし、独自のアプリケーションを開発して漁業者にタブレットを貸し出した。
このアプリは、タブレットに入力があるたびに、データがアップロードされる仕組みだ。ナマコ漁に出漁している新星マリン漁協留萌地区16隻の漁船のデータが自動集計され、漁場として使いすぎた海域がタブレット上に赤く表示されるほか、仲間の漁船がどの海域で漁をしたかも漁船上からひと目で分かる。
その結果、漁業者が獲りすぎないよう意識し始め、ナマコの資源量が1.6倍に回復した。和田教授は「レントゲン写真を見せるように資源状態を提示でき、漁業者からもう少し(獲っても)大丈夫だろう、という意識を取り払うことができた」と振り返る。
【次ページ】全国展開に高まる期待、ITは漁業を救えるか
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