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  • 2016/09/01 掲載

農業とIT融合の「アグテック」始動! ヤマハは無人ヘリ(UMS)でワイン作りを変える

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ヤマハ発動機と言えば、誰もが思い浮かぶのがバイク(二輪車)やボートだが、無人ヘリコプターや農業機械を通じて「アグリビジネス」にも関わっている。その販売のメインステージは世界有数の農業大国アメリカ。全米最大のワイン産地はカリフォルニア州だが、今年、ヤマハ製の無人ヘリ(UMS)が州政府から飛行許可を受けてブドウ園の農薬散布用に使われ始めた。ブドウ栽培のコストダウンに貢献して、ワインの世界市場でカリフォルニア産ワインの競争力を高めるのに、一役買いそうだ。UMSは今後の成長が期待される農業+テクノロジー「アグテック(AgTech)」の一分野でもある。
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カリフォルニア州ナパ・バレーでの無人ヘリによる農薬散布
(写真:ヤマハ提供)



アグリ事業で重要なUMS(無人ヘリコプター)

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 シャープに代わって日経平均225種銘柄に採用されたヤマハ発動機の2016年1~6月期決算によると、売上高は6.1%減、営業利益は10.9%減、経常利益は25.7%減と非常に厳しいものだった。しかし、2018年度を最終年度とする中期経営計画で「既存事業の稼ぐ力を高める」と強調し、今期の事業戦略でも主要事業での「稼ぐ力」を高めることにポイントを置いている。「稼ぐ力」がつけば、円高の逆風が吹いても打たれ強く、利益を確保できる。

 その「稼ぐ力」の原動力の一つに商品競争力の強化がある。それを支えるのは商品開発力を確保し、将来の成長につながる技術革新を生み出す研究開発投資。中期経営計画総額で1300億円、2016年度単年度で400億円という成長投資額は下方修正しない方針だ。

 その成長戦略の重要なカテゴリーの一つに、アメリカのアグリビジネスにコミットする「アグリ事業」がある。

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6人乗りのROV
(写真:ヤマハ提供)

 8月4日、ヤマハ発動機はヤンマーと、アメリカでのROV(レクリエーション・オフハイウェイ・ビークル)事業に関する業務提携で合意したと発表した。アメリカ全体で農家向け販売網を持つヤンマーに3人乗りや6人乗りの農作業用ROVをOEM供給し、2017年1月から発売する予定。2020年までに全米で5000台の販売が目標である。これは広大な農場での移動手段として活躍する。

 もう一つ、アメリカのアグリ事業で重要な製品がUMS(無人ヘリコプター)である。今年、カリフォルニア州政府から飛行許可を取得し、世界的に有名な「ナパ・バレー」など同州のワイン産地で農薬散布用に売り込みをかけている。人手の散布作業に比べて約10分の1になるコスト削減効果、高効率ソリューションがセールスポイント。引き合いは好調で、柳弘之社長は決算説明会の場で「カリフォルニアワインのほとんどに当社のUMSが関与する日は近い」と、大きな期待を口にしている。

 UMSの事業テーマは「グローバルな成長への挑戦」。無人ヘリはカリフォルニア州のワイン産地に続き、タイ、EUなど世界のアグリビジネス市場を積極的に開拓し、2018年までに機体販売台数国内280台、海外150台、売上高100億円が、中期経営計画の数値目標である。

アメリカは世界一の「アグリビジネス大国」

 「アグリビジネス」という言葉の意味は、昔ながらの「農業経済」と決してイコールではない。定義するとすれば、国内消費分以上の量の農産物を生産し、それを国際商品として輸出して外貨を稼いでいるなら、それはアグリビジネスと呼べる。

 FAO(国連食糧農業機関)が調査した2014年の世界の国別の農業生産額(米ドル換算)のランキングを見ると、1位は中国の9,792億ドル、2位はインドの3,218億ドル、3位はアメリカの2,154億ドル、4位はインドネシアの1,188億ドルで、以下、ナイジェリア、ブラジル、ロシア、パキスタン、トルコの順で、日本は10位で789億ドルだった。

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世界の国別の農業生産額

 しかし、これはその国の「農業経済」の規模ではあるが「アグリビジネス」の規模ではない。というのは、10位以内の国はトルコ以外はすべて1億人を超える人口を抱え、インド、インドネシア、ナイジェリア、パキスタンなどは農業生産の大部分が国内消費に回っているからである。まともな政権なら国民を飢えさせないために、必ずそうする。

 一方、各国の貿易統計を集計した2015年の世界の農産物・加工品の国別の輸出額(米ドル換算)のランキングを見ると、1位はアメリカの1,330億ドル、2位はオランダの880億ドル、3位はドイツの720億ドル、4位はブラジルの709億ドルで、以下、フランス、中国、カナダ、スペイン、イタリア、ベルギーの順で、日本は46位で61.5億ドルだった。

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世界の農産物・加工品の国別の輸出額

 これが、農業で外貨を稼いでいる「アグリビジネス大国」のランキングと言ってもいいだろう。農業生産額とは顔ぶれがガラリと変わり、補助金政策で農業振興を図っている欧州連合(EU)の諸国が10位以内に6ヵ国も入っている。日本は10位から46位へ、順位がかなり下がってしまう。

 それらアグリビジネス上位国が「どんな産品で最も外貨を稼いでいるか」を見ると、実にバラエティに富んでいる。アメリカは大豆、トウモロコシ、小麦の「穀物」が最上位を占める。オランダは「花」、ドイツは「チーズ」、ブラジルは大豆と、サトウキビから作る「粗糖」、フランスとスペインとイタリアは「ワイン」、カナダは「菜種」「菜種油」、ベルギーは「チョコレート」となっている。中国や日本は加工食品(調製食料品)が多く、これといって特徴的な輸出品はない。

 輸出規模で言えばアメリカは世界一のアグリビジネス大国で、その輸出額は2位のオランダの1.5倍、日本の21.6倍もある。毎月第1金曜日に世界の金融マーケットが注目するアメリカの雇用統計では「非農業部門雇用者数」とあるので、日本ではアメリカの農業は「経済統計的に無視してもかまわない産業」のように思われている節があるが、実際は重要な巨大産業である。

 そのアメリカは主に穀物を日本をはじめ世界じゅうに輸出しているが、大豆もトウモロコシも小麦も市況商品で価格が安定しない上に、一般的に利幅が薄く付加価値が低い。輸出額第2位のオランダが付加価値の高い「花」の輸出で稼ぎ、「スマートアグリ」と呼ばれているのとは対照的だ。

 それでも、アメリカは連邦政府の農務省も商務省も高付加価値の農産物・加工品の輸出を拡大しようと積極的かつ戦略的に動いており、「スマートアグリ」の中でも特に有望と期待を寄せているのが「ワイン」である。

【次ページ】農業+テクノロジー「アグテック」市場の規模と内訳は?
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