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- 2015/03/09 掲載
老舗のお米屋がなぜギフト業界へ? 八代目儀兵衛 橋本隆志氏に聞くビジネス転換の背景
多くのお米を食べていながらお米に関する知識が浸透しない現状
──橋本さんは、近年の米市場をどのように見ていらっしゃいますか?
橋本 隆志氏(以下、橋本氏)■お米を食べる機会がすごく減っていると感じています。食が多様化して、お米を食べなくても生活できるようになってきたんだと思います。その結果、米余りの状態が続き、米価が下がって農家の手取りも減っています。
──お米の価格は下がってきているのですか?
橋本氏■安いお米と高いお米の二極化が進んでいる状況ですね。ただ、「安くなったからお米を食べよう」という話にはならないので、私たちはこだわりのあるお米に特化していこうとしています。
──高級路線で、こだわりを持ったお米を提供していく路線に絞っていくと。
橋本氏■そうです。こだわりを持ってお米作りをしている人を支援するコンテストを行なったり、コネクションを強めながらマーケットシェアを確保していきたいと思っています。そうすることで、農家の方々も我々もWin-Winになっていけるようなビジネスにしていきたいですね。
──良いお米を作っている農家とのコネクションづくりから取り組んでいるんですね。
橋本氏■農産物は誰が作って誰が売っているのかわかりにくい商品です。だから産地だけで判断されてしまい、偽装表示などの問題が起こりやすいという現状があります。日本人はこれだけ多くのお米を食べているにもかかわらず、お米に関する知識に疎いという事実が、その背景にはあります。だから逆に、きちんとした情報を開示していけばそのお米を信用してもらえます。
──お米の市場動向といえば、TPP参加の是非も大きな関心事ではありませんか?
橋本氏■よく聞かれる話題ですね。でも、八代目儀兵衛としてはどちらでもいいと思っています。TPPに参加したからといって日本のお米がピンチになるとは思っていませんし。確かに、生産コストを下げる競争では外国産のお米に勝てないでしょうし、低価格が売りの飲食店のお米はそちらに流れるかもしれません。でも、日本のお米にしか出せない味が失われる訳ではありません。過去に牛肉の輸入も自由化された経緯がありますが、それによって国産牛肉が消えた訳ではなく、むしろ和牛は海外でも評価され始めています。
──では日本のお米も和牛のように海外で評価を得られる可能性があると?
橋本氏■残念ながら、それは難しいでしょうね。日本食がブームになっているとは言いますが、使われるのは現地のお米です。水の質も違うし、炊飯文化のない地域もあります。そこに日本のお米だけを持ち込んでも、評価は得られないでしょう。食文化というのは押しつけるようなものではありませんから。
ただ、日本の品種を使った現地での生産クオリティは高まってきています。そのお米と、正しくおいしい炊飯を知ってもらうことができれば、将来的には本物の日本のお米を食べに行きたいと思ってくれる可能性があると考えています。
既存の視点を根本から見直して生まれたブランドの価値
──きちんとした情報を開示していけば消費者は理解してくれるというお話でしたが、そこで最も重要なのは、やはり誰が作ったお米かという情報なのでしょうか。 橋本氏■誰がどこで作ったお米なのかという情報は、確かに重要です。でも、ただそれを伝えればいいだけとも考えていません。消費者が情報を求めるのは、安全でおいしいお米を食べたいからです。その安全性とおいしさを、八代目儀兵衛が見極めて、品質の高いお米だけを提供します。産地を軸にする従来の評価とは違い、食味を考え、その年、その季節で一番適したブレンドをしています。──誰がどこで生産したかという軸ではなく、八代目儀兵衛が目利きをしたお米というところに、価値が感じてもらうということですね。そうした先見性は、どこから得られるのでしょう?
橋本氏■私の場合は、1つのことにこだわる探究心が源泉ですね。お米は、日本人が知っているようで実は知らないことが多い食材です。年によっても季節によっても味が変わるのに、それをきちんと発信してこなかったため、正しい情報が伝わっていません。だったら少しでも、そういった知恵も含めて、お米をもっと世の中に知ってもらいたい。それを知ってもらえる情報コンテンツを含めて発信して行くことで、自分たちのブランドを築いていけると考えています。
──そこがブレないから、八代目儀兵衛のブランドがここまで受け入れられたんですね。ブランドを築く上で、お米ギフトの成功は非常に大きかったのではないかと思います。日常的に自宅で食べるために買うお米を、人に贈るギフトとして提供するという斬新さが受けていますが、何がきっかけでこのような商品が生まれたのでしょうか。
橋本氏■きっかけは本当に単純なことでした。うちのお客さんの中に、自宅用のお米とは別に離れて暮らすお子さん用にお米を買って行かれる方がいらしたんです。「スーパーで買うお米がおいしくなくて、実家で食べていたのと同じお米を食べたい」とお子さんがおっしゃったそうです。
──そういう話を聞いて、自分で食べるのではなく人に贈るためにお米を買うというニーズがあることに気づいたと。
橋本氏■そうです。お米を食べなくなってきた今だからこそ、お米がギフトとして成り立つのではないかという逆転の発想がそこから生まれました。そのアイディアをもとに仲間と話し合っているうちに、京都ならではの文化として風呂敷で包むことや、家庭で1回に炊飯する2合や3合という少量で提供するというアイディアが出てきて、今の商品ができあがりました。
【次ページ】 お米、ギフト、ネット、飲食業と勉強を重ねた10年の歩み
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