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昨今の物流業界は顧客ニーズの多様化により、かつてよりも難しい事業運営に迫られている。これに加え、深刻化する人材不足から大幅な効率化も求められている。こうした状況の中で、運送会社からのニーズが急激に高まっているのが配車システムだ。「配車」業務は、その精度や質のちょっとした差で業績を大きく左右する。運送ビジネスの大黒柱的な存在であり、6万社以上がひしめく運送業界を勝ち抜くために重要な役割を担っていると言えよう。本稿では、この配車システムについて注目ベンダーや市場動向を紹介しつつ、配車システムの差別化について考える。
配車システムとは? なぜ今ごろ活況なのか
運送会社では、荷主から依頼を受け、日々何台ものトラックを運行している。そのスケジュールを計画立案するのが配車業務である。その組み合わせは、天文学的な数になる。
たとえば、30台のトラックを所有し、1台あたり5件の配送を行う運送会社の場合、輸送ルートの組み合わせは、計算上、約710億通りとなる。さらに労務コンプライアンス上で必要な休憩時間やドライバーの勤務シフト、貨物とトラックの積み合わせなどを勘案しなければならない。
このような事情により、配車計画の立案は熟練担当者の勘と経験に頼ってきた。それゆえに、配車業務は属人化しやすく、また優秀な配車担当者を新たに育成、もしくは採用することも人材不足の中で難しい。このことから昨今では、配車システムによる省人化ニーズが高まっている。
物流業界の属人化や人材不足といった問題は今になって始まったことではない。ではなぜ今になって配車システムが活況を迎えているのか。
そもそも配車システムそのものは、1990年ころから登場している。だが、当時は価格も高く、また開発難易度も高いことから、ユーザー、ベンダーとも限られており、マーケットの規模も小さかった。
状況が変わってきたのは、十数年前だ。グーグルが、GoogleMapsとともに移動経路を最適化するAPIの提供を開始した。このAPIを利用すれば、ルート算出エンジンを自社開発する必要がない。これで配車システム開発のハードルが下がり、配車システムベンダーとして名乗りを上げるベンダーが急に増えた。
以前から配車システムを提供していた老舗配車システムベンダーに加え、大手システム開発会社、スタートアップ、あるいは運送会社が自社開発したものまで、新たな配車システムが次々と市場参入したのだ。
同時に、それまで数百万円から1,000万円以上していた配車システムの低価格化も進んだ。これにより、これまで導入に二の足を踏んでいた中小運送会社でも配車システム導入を検討する動きが拡大。さらにユニークな個性を備えた新たな配車システムが市場に投入されるという相乗効果によって、配車システムのマーケットが活性化した。
大注目のベンダー3社を徹底比較
具体的に配車システム市場に参入しているベンダー3社を見てみよう。
・ゼンリン
住宅地図で知られるゼンリンが、2020年にサービスを開始したのが「ZENRIN ロジスティクスサービス」だ。
ゼンリン IoTソリューション営業部 部長 永江裕之氏は「当社の住宅地図は、宅配運送会社を中心に、何十年も前からご利用いただいてきました」と語る。たしかに、(30年前のことになるが)筆者がドライバーだったころ、ゼンリンの住宅地図は会社に常備されていて、よくお世話になったものだ
「ZENRIN ロジスティクスサービス」は、配車システムとしては後発である。だが、足で集めた情報が逐一反映されていく住宅地図という絶対的なキラーコンテンツは、ECの活況などにも後押しされ、むしろ以前よりもの価値が上がっている。住宅地図で得た信頼と実績、そして住宅地図のデジタル化を武器に頭角を現し始めているのだ。
・パスコ
パスコは、地図製作からシステム開発まで手掛け、約20年前からサービスを展開する、配車システムの老舗である。サプライチェーン全体の輸送計画を最適化する「LogiSTAR Geospatial LINKS(ロジスター ジオスペーシャル リンクス)」をリリースしている。
「地場の配車計画立案を中心に最適化を実現する従来の配車システムでは部分最適化しかできないことがあります。物流危機が叫ばれる今、求められるのはサプライチェーンの全体最適を実現することです」と、パスコ システム事業部 営業統括部長 井手修平氏は開発理由を語る。
サプライチェーン全体を最適化するという発想は従来の配車システムにはなかったが、極めて正統な進化であろう。
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