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  • 2013/08/13 掲載

【IT×ブランド戦略(14)】将棋界を支える「創発的ブランドコミュニティ」から何を学べるか

「どうして売れるルイ・ヴィトン」の著者が解説

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四回にわたって、昨今の将棋界、とりわけ「プロ棋士」のブランド価値をテーマに、ブランドコミュニティの成り立ちについて研究してきた。そこで見えてきたのはメディア環境の変化に対応して、新たなコミュニティの獲得していく様だった。そこで今回は、将棋コミュニティの創発的な在り方に特に着目しながらこれまでの内容を総括し、ここから得られる次のテーマを探っていく。

将棋コミュニティは、実は最先端の学問領域?

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  まずはブランドをブランドたらしめている「コミュニティのありかた」について、整理したい。

 第7回で触れた通り、ブランドには人を動かす力があって、その影響を受ける人々とは商品やサービスの受け手に限らない。むしろ提供者サイドである製造者や販売者、そしてその周辺に広がるメディアも含めた広範囲の人々に一定のイメージが共有されることで、ブランドは安定した働きをするものだ。

 商品やサービスが、その受け手の間でどれだけ知名度が高いか、安定したイメージが形成されているか、ということはもちろん重要なポイントであり、「ブランド価値調査」といえばこの手のリサーチが過去たくさん行われてきたが、本論としては、ブランド価値というものをこれだけに限定して語るのは狭すぎる、という意見だ。

 むしろ、提供者サイドの業務効率化効果や人材募集・教育コストの削減効果、あるいは社会からの「期待度」「注目度」に着目した広報の効率性など、事業運営における様々な側面でのブランドの貢献を分析する手法があるべきではないかと考える。

 将棋界はいち事業者が全ての事業を行なっているわけではないが、全体としては擬似的な企業として捉えることができる。中心にプロ棋士(と彼らによって構成される将棋連盟)という「コンテンツ」があり、出版、放送、教育、ゲームといった形でビジネス化される、ということだ。

 実際のところは、様々な企業とファンコミュニティを含めた各々のプレーヤーが複雑なネットワークを形成しているわけだが、プロ棋士というブランドが広く共有されているからこそ、様々な企業やメディア、個人のあいだに「ゆるいつながり」が形成され、強権的なディレクションがなくとも、これらの事業が協調して運営されていると考えられる。

 第8回、第9回ではアンパンマンをケースとして考察を行ったが、あちらではブランド世界が提供サイドの中核企業、すなわち日本テレビを中心として厳密に管理されていることを考えると、比較的自由な形で、様々なプレーヤーによってブランド世界が展開される将棋界とは、好対照をなしている。

 むしろ、前者が「中央集権的」であるのに対して後者は「協調的」あるいは「創発的」であり、将棋界のほうが、最近の事例研究としては流行に近い。こうした視点でもっと研究を掘り下げることについては、大きな可能性が眠っているのではないだろうか。

 ちなみに「創発」とは、生物学や組織論、情報工学など、多岐にわたる分野で使用されている言葉だ。意味合いとしては、システムを構成する個々の要素が、それぞれの目的・役割に応じて局所的に機能した結果、その系全体として見ると何らかの効果や機能が実現される、といったようなニュアンスで使用されることが多い。(例えば脳は、一つひとつの神経細胞は比較的単純な振る舞いをしているにも関わらず、全体として複雑な意識を生じる、といったような現象を指して使われる。)

 ブランド研究においても、「創発型ブランドコミュニティの最前線」なんてタイトルにすれば新味もあり、いかにも流行を捉えていて売れ線な感じがするが、実際の所、「中央集権型」「創発型」のどちらが優れているかということは、これはそう簡単に結論付けるのは難しいように思える。いずれテーマとして取り上げたい。

 さて、当面の問題は、この生態系のような様相を呈しているコミュニティ全体が活発に回転し、拡大するためにはなにが必要か、という論点だ。ということで、今回は「ブランドコミュニティが育っていく過程」という観点での考察を行いたい。

 そもそも、コミュニティの「中心部」を形成するのは、直接その世界に魅力を感じ、価値を感じ、ともにブランド世界を作り上げている人々だ。しかしこれは、外部へと広がる動きをもっていなければ単なるサークルでしかない。

 「外部へと広がる動き」とは何かというと、人だかりを見かけると、ちょっと立ち止まりたくなるのが人情だが、この「ちょっと立ち止まりたくなる感じ」がいかに上手に醸し出されるか、というこの点こそが、ブランドの生命線とも言えるのである。

【次ページ】ブランドは人の「意識」のなかに育つ
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