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  • 2012/08/28 掲載

【IT×ブランド戦略(2)】現代日本における「ブランド」の混乱と凋落

「どうして売れるルイ・ヴィトン」の著者が解説

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ブランドという言葉は、その現象があまりにも一般化しているため、かつて持っていた輝きは失われ、かげりが見え始めている。少なくとも、ブランド品という言葉が元々持っていた、「限られた人だけのための特別なもの」というニュアンスは随分薄まっている。いわゆる高級ブランドの商品を提供する企業が自らを規定する言葉としてハイブランド、ラグジュアリーブランド、リアルブランドなど、様々な「表現のし直し」をしているのも、その傾向を示す一端と言っていいだろう。今回は、「ブランド」という言葉の隆盛から今日にいたるまでの時系列的な流れを追い、日本におけるその言葉の有り様の変遷をたどる。

現代日本におけるブランドの歴史

連載一覧
 今日のような形で、日本人が高級ブランド品と呼ばれるアイテムを手にすることができるようになり始めたのは、当たり前だが、明治維新よりも後のことだ。「ブランド品」とは、あくまで特別な人だけが手にすることができるものであり、かつ、一般庶民は特別なシーンにだけ目に触れることのできる、憧れのものというキラキラしたニュアンスがもともとはあって、「舶来品」というジャンルとほぼイコールだった。それはあたかも、鎖国を解いて開明的な諸外国との交流が始まったがゆえに手に入った、言わば「ポスト鎖国」感のある、率直な明るい雰囲気を感じる言葉だった。

 もちろん、江戸時代とて鎖国していたとは言いながらも、海外との貿易や交易は盛んに行われていて、国際貿易の窓口であった長崎を経由し、将軍や大名が、象やラクダなどの珍獣を輸入した話が残っている。海外から持ち込まれた時計や望遠鏡の類が大名のお気に入りだった、という逸話も珍しくはない。

 しかしそのレベルの話はさすがに、現代の「ブランド品」という言葉が対象とするものからは大きく外れる。「ブランド品」という言葉には、「舶来の品」という形容詞で高級品や贅沢品が流通し始めた頃にその原型があると言えるだろう。

 ちなみに日本を代表する万年筆メーカー、セーラー万年筆の由来は海軍だということをご存知だろうか。創業者の阪田久五郎は、海軍の技師からイギリス留学のお土産として当時最先端の万年筆を贈られたのがきっかけで、舶来への憧れの心が刺激され、なんと製造技術がゼロの状態から研究を重ね、ついには万年筆メーカーを創業したのである。恐るべし、舶来パワーである。

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明治維新の元勲がルイ・ヴィトンのバッグを愛用した、という逸話が残っている
(Photo by iStock)
 明治維新直後に諸外国との交流が開放されたとはいえ、舶来ものは一般庶民とは無縁の時代が長かった。明治維新の元勲がルイ・ヴィトンのバッグを愛用した、というような逸話は残っているが、日清戦争、日露戦争を経て第二次世界大戦をくぐり抜け、戦後復興期に至るまでの間にはやはり、一部の限られた人々のものだったのだろう。

 2012年7月12日の内田樹氏のブログから引用すると、60年代当時における高級ブランドの様子をかいま見ることができる。

“伊丹十三は、『ヨーロッパ退屈日記』を20代の後半で書いて、鮮烈な、劇的なデビューを飾った人です。登場のときにすでに完成した文体を持っていた。かつ、そこで扱われたトピックは、“アル・デンテ”とか“エルメス”とか“ヴィトン”とか“ロータス・エラン”とか“ジャギュア”とかというような話でした。それらの単語を僕たちはどれも伊丹十三の本ではじめて知ったのです。このトピックの選択は、1960年代のリアルタイムの日本人の消費生活水準から考えると、信じられないようなハイレベルの、ハイクオリティーの商品についてのものでした。“

 『ヨーロッパ退屈日記』が出版されたのは、1965年のことである。その当時は海外渡航という特別な経験をした人々のみがアクセスできるものであり、一般的な人の日常風景とは無縁のものだった。

 今日的な意味で、「誰でも手に取れる」ようになったのは、高度成長を経て超円高を記録し、バブル経済に突入した頃ではないだろうか。ちなみに、ルイ・ヴィトンを日本の百貨店がルイ・ヴィトンを取り扱い始めたのは1978年。直営店が登場したのは1981年のことである。東京に3店、大阪に3店の6店舗がオープンした。

 実に明治維新から110年後のことであった。それがなんと、ここからたった30年の間に、ブランド品の希少性は恐ろしい勢いで失われたのである。
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