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  • 2012/09/25 掲載

【IT×ブランド戦略(3)】企業運営とブランド

「どうして売れるルイ・ヴィトン」の著者が解説

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本連載の問題意識は、「ブランドは作れるか?」という問いに対して工学的なアプローチの可能性を探ることである。前回は、ブランドという言葉そのものが大きな振れ幅で、多様な意味で使用されていることを概観したが、ブランドというひとくくりの言葉で、いきなりあらゆる理論を展開するのはいささか無理のある話だ。そこで今回は、そのパワーの原理について考えるためのステップとして、ブランドが企業活動に及ぼす影響について、その「及ぼし方」を考察したい。

人材領域に影響を及ぼすブランド

連載一覧
 明治維新以来ブランドという言葉は長い間、そのままエルメスやルイ・ヴィトンのことを指し示し、ひいては「舶来品」という言葉とほぼ同義であった。それが1980年頃を境に急変し、たった30年ほどの間に、実に多様な現象に適用されるようになった。

 第一の変化は、高級品に限らない一般消費財に対しても適用されたことだった。そして、消費財メーカーにとって商品開発戦略・販売戦略を考える上での基本的な概念とされるようになった。そこからさらに拡大解釈は進み、「ブランド」はあらゆる企業活動を考える上で欠かせない概念となっている。

 実際のところ、企業にとってのブランド、というものを考えると、その力は商品開発や宣伝、販売に限らず、企業活動のすべての諸相に影響を及ぼしている。

 わかりやすい例をあげるとすると、例えばブランドは、採用活動に影響を及ぼしている。新卒採用に顕著な傾向だが、多くの学生が就職先を探すにあたって、まずブランドとして認識している企業を想起し、より好んでアプローチをするため、消費財メーカーや消費者向けサービス業は、そうでない企業に比べて募集コストが低くすんでいる。例えば東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドや旅行代理店のHISなどは、ちょうど求職者が大学時代に消費者として濃い接点を持つため、就活生達からの注目度が高い状態で募集・広報活動をスタートすることができるのだ。
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明治維新の元勲がルイ・ヴィトンのバッグを愛用した、という逸話が残っている
(Photo by iStock)

 しかも、ただ単に「知名度が高いから安心」という学生がたくさんやってくる、といったレベルではなく、エントリーする学生の多くが商品特性や事業内容への理解を実体験として持っており、それを通じて良いブランドイメージを持っている。これは大きなアドバンテージだ。

 マイナスがあるとすれば、良くも悪くも消費者目線で集まった志望者に、その商品やサービスの提供者へ転換してもらえるか、といったところだろうか。これは微妙な問題である。

 採用活動に限らず、いま現在その企業で働いている働き手にとっても、自分自身や自分の関わっている仕事が良きブランドの一部であると感じられるかどうかで、パフォーマンスは全く変わる。単純な話、AppleやGoogleのような有名企業で働いている、などというとそれだけで誇らしく思えるものだし、無名で力のない企業に属していると感じると、モチベーションは下がる。

 有名企業かどうかという軸はいささか表層的な話だが、深い共感のあるブランドの仕事に携わっていれば、そのブランドが提示する世界観、ビジョンへの貢献のために、「今は給料が少なくても、このブランドの未来のために頑張る」ということは十分に起き得る。

 逆に、新たなブランドが台頭してきた時、それがそのまま逆に振れる分不安定さも抱えているとも言える。以前はmixiというブランドに参画するということは誇りを与えたと思われるが、今はどうだろうか。

 Googleにしても、Facebookの成長とともに、そちらへの人材の流出がメディアに取り上げられることも増えてきた。こうした状況に対して、単純な対応策としては給与水準を高めるような施策があるだろうが、これは単純にコストを増やす話であるし、優秀な人材の心が離れている中で給料を増やすという行為は、それ自体、自社が凋落傾向にあることを自らアナウンスするようなことにもなりかねず、なかなかセンシティブな問題だ。

 企業の人材領域におけるブランドとは、ただ単なる知名度の問題ではなく、そこに参加する期待感や高揚感、使命感を含めた概念だ、と理解するのが正しいように思われる。もちろん知名度や世間的な評価ももちろん重要な一部だが、それだけでは集った人材をいかにつなぎとめ続けることはできない。

 これはそのブランドが何を掲げ、何を推進していくか、その思いに賛同できるかという、ブランドの核心に関わる問題だ。

 ともあれ、このように考えると、人材の確保というテーマにおいては、ブランドイメージは貴重な経営資源だと言える。ただし、経営資源と言うものの、金額換算が難しいという特長を備えている。つまり、そのブランド価値は「金額に換算すると○○円に相当する」という形で、貸借対照表に資産として計上することは極めて難しい。

 そうは言っても、定量的に測定できないものは工学の対象とは成り得ない。人材獲得のためにコストをどれだけ費やしているか、ということを一定基準で割戻して企業間や事業部間で比較する、本来かかるはずのコストを仮定して現在の収支状況と比較対照する、等の妥当な方法論があると思われる。これについては後日、掘り下げて議論したい。
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