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  • 2013/02/27 掲載

【IT×ブランド戦略(8)】“アンパンマン”ブランドに死角はあるか

「どうして売れるルイ・ヴィトン」の著者が解説

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ブランドはそれを形成するコミュニティを持つ。そしてそれは、最もコアな享受者を中心とする「中心部」、認知はしているもののその価値に対する「美味しんぼ的葛藤」を抱える「外縁部」、まったく認知の外にある「外部」という3つの部分によって構成される(これらは受容者側、提供者側の双方に生じる)。前回は、この見方を作業仮説として様々なブランドを比較、考察することができるということを主張したわけだが、この分析モデルがどれだけ有効なのか、実際にケーススタディを通じて検証していく。

ブランドコミュニティの中心部、辺縁部、外部

連載一覧
 我がブランド論のケーススタディとして、第一に取り上げたいものがある。

 アンパンマンである。

 アンパンマンとは、子供たちに絶大な人気を誇る国民的キャラクターの一つだ。もとは絵本の形で発表された作品だが、今日では「それいけ!アンパンマン」のタイトルでテレビアニメ化された作品が最もよく知られている。アニメーション映画化、漫画化をはじめ、ゲームなど様々なメディアで作品が展開されている。

 ビジネスモデルとしてはとてもシンプルだ。原作者と版権管理会社のコントロールのもと、中核となるアニメーション作品を、テレビを通じて放送する。これがブランド世界の発信地となるわけだが、これによって人気を得たキャラクターをおもちゃや雑貨、ゲームソフトなどの商品に展開、販売することで収益をあげるという形だ。

 よって、アニメ作品の放映に付随する広告収入及びキャラクターの使用料をロイヤリティとして徴収する版権収入がその主な収入源となる。ゆえに、新たな作品を制作するにあたってのクオリティコントロールと、キャラクターを商品化したり、広告の中で使用するにあたっての版権管理がその業務のなかで最も重要なことになる。

 なぜケーススタディの第一弾としてアンパンマンなのかというと、そのブランドコミュニティの受容者側を観察すると、明確な中心部となだらかな周縁部、はっきりした外部によって構成されている、極めて理想的な形になっているからだ。本論の作業仮説の有効性を探るにあたっていきなり例外的な事例から行くのではなく、順当なものから攻めようということである。

 そのコミュニティの中心にいるのは、ほぼ全ての日本人幼児だ。アンパンマンは、生後1歳から3歳頃までの子供たちに対して圧倒的な知名度と支持を得ている。そして、純粋な作品に対するスタンスで言うとこの年齢層を上回った瞬間、彼らは全くといっていいほど関心を失う。このため、4歳以上の人々のほぼすべてがそのコミュニティの「外部」に位置する。

 辺縁部にいるのはその両親及び祖父母、親類である。アンパンマンビジネスにとって重要なのはむしろこちらの人々だ。もちろん中心部にいる子供たちからの支持があって初めて成り立つとはいえ、実際にお財布からお金を出して経済的な循環を起こしてくれるのは彼らだからだ。

画像
受容者側コミュニティの形成状況


 アンパンマンブランドが抱えるリスクとは、この辺縁部にいる人々の離反だ。彼らの主観的には、アンパンマンという作品世界に対して深い敬意をもってそこから学ぶというスタンスは薄い。あくまで子供が楽しんでくれる姿を見られることが効用である。「深い敬意と親愛」をもつ層が形成されているわけではなく、言わば「穏やかな好意」ぐらいの感じだ。そのため「教育上、本当にこの主義主張は不適切ではないか」などと感じてしまったが最後、そこに割かれてきた時間的、金銭的リソースはあっという間に他のコンテンツに流れていくだろう。この人々の美味しんぼ的葛藤が深くなることは、このビジネスにとって最悪な事態だと言っていい。

 これはあながちあり得ないことではなくて、むしろ子供に広く流行するものの多くが大人にとっては害悪に見えるものである。いまでこそ安心なコンテンツとして見られている「クレヨンしんちゃん」も、登場したときは「正しい礼儀作法が身につかない」といったクレームが多数寄せられた。テレビ番組が娯楽の中心だったころは、フジテレビのゴールデンタイムバラエティ番組が「PTAが子供に見せたくない番組」のトップになって初めてエッジの立ったクリエイティブな制作をしていることが逆説的に証明される、などとするような態度が物議をかもしたこともあった。(最近はテレビ番組に対する関心そのものが失われつつあるのでこうした論議そのものを目にすることも少なくなった。)

 アンパンマンブランドにとっては幸いなことに、今のところ大人が反旗を翻すような動きは起きていないようである。対象年齢が低いとはいえ、この状況を作り出したことは非常に大きい。もっとも大人の側が、自分たちも昔はそこを通過してきた、という経験が後ろ盾になっていることも見逃せない。超長期的なブランド運営を行なってきたことの副次的な効果と言えるだろう。
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