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  • 2015/01/20 掲載

ルイ・ヴィトンに学ぶブランドの本質 将棋のプロ棋士は「知性」のアイコンとなれるか

【IT×ブランド戦略(31)】

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現代社会においては、ブランドの「階級」や「出自」は全く無関係にあらゆるものが並立しており、「希少性」すらも問われることはない。それこそが、「高級なもの、高尚なものが、大衆に媚びるのではなく、その本質を追求した結果として大量販売につながった」というルイ・ヴィトンの事例が意味するところである。将棋界、および将棋のプロ棋士が今後の社会からいかにして尊敬を獲得していくか、そのためには、まさしくこの現代社会の特徴を最大限に活用する必要がある。

ルイ・ヴィトンはなぜ一般市民にも浸透したのか

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ルイ・ヴィトンから将棋のプロ棋士が学ぶブランド形成の本質とは?
 ルイ・ヴィトンは、高級ブランドであるにも関わらず、一般的な人にも浸透している。ヨーロッパ社会が元来、極めて強い階級社会であり、現代においてもそれが色濃く残っているということは有名な話だが、ルイ・ヴィトンやエルメスを始めとするハイブランドと呼ばれるブランドは、まさしく上流階級向けのものであった。

 しかし、本連載で考察してきたブランドの条件とは、「階級の上下」ではなかった。そして、単純な意味での「高級さ」でもない。明治維新からこのかた、初めのうちは「ブランド」とはすなわち「舶来の高級品」を意味していたわけだが、社会の工業化が進み、都市化が進み、高度情報化社会と呼ばれるような情況が到来するなかで、その有り様はまったく違うものに変容していたのである。

 ブランドが成立するために、その品質がどのようなあり方を求められるのか。それは単純な質の高さというよりも、「期待する品質を含む様々なアウトプットの安定性、一貫性」である。例えば、焼き肉で有名な叙々苑は千円で美味しい牛丼をランチで出しているが、そこにブランドが宿る、ということは起きていない。一方で、一杯数百円の吉野家には明確にブランドが成立している。

 ブランドが成立するための必須条件とは、特定の価値観を共有するブランドコミュニティである。ブランドは、この社会に必要な価値、その旗印を掲げ、プロダクトを通じてそれを実現し、そこに共感する人々が集合することによって生まれる。人々の集合とは、いち消費者としてそれを購入するだけでなくて、生産プロセスを支援したり、そこに集って働いたり、宣伝に協力したり、様々な関わりを持つ人々のことである。

 生まれた頃のブランドの価値は、「希少性」や「ファッション性」あるいは「先端性」と区別が付きづらい。

 新たなブランドが特定の価値を掲げて新たな取り組みを始めるということは、その社会の先端的、先鋭的な問題意識の発露であることは必然である。最初に集う人が「少数の先覚者」であるということになるのは当たり前の話だし、当然そこには「希少性」が宿る。最近のそうした動きは、たとえそれが生真面目な種類のものであっても、なかなかお洒落な装いをまとうものだが、それが単なるファッションに終わってしまうのか、永続的な活動となるかは、それが社会の大きなニーズ、文脈に関わりを持つかどうかによる。

 ルイ・ヴィトンが高級ブランドであるにも関わらず、一般的な人にも浸透していることは、大きな謎のように見えるが、実はここにこそ、その秘密がある。つまり、「ブランドは『希少性』や『ファッション性』、あるいは『先端性』によって支えられるものであって、それが一般にも浸透してしまったら、その価値の源泉そのものが失われるはずだ」という思い込みによる誤認なのである。

 事実として、ルイ・ヴィトンという存在はいまやどこにでもありふれた存在となっているが、その少し高すぎるようにも思える価格設定に異を唱える人はいない。その理由は、大昔で言えば、西欧社会への憧れや引け目が作用していたこともあったかもしれないが、現在においてはそのものづくりの姿勢やアフターサービスに対する信頼、尊敬の念に支えられている。これは「数ある欧米のハイブランドのなかで、なぜルイ・ヴィトンがここまで突出して日本人に支持されたのか?」の回答でもある。

「プロ棋士」ブランドは、ルイ・ヴィトンの事例に学ぶべし

連載一覧
 現在、私たちの身の回りにはあらゆる種類のブランドが存在している。

 例えば、「ルイ・ヴィトンの財布をリーバイスのジーンズのポッケに突っ込んで、吉野家に立ち寄って牛丼を掻きこみ、家に帰ったらハリウッド映画をソニーの機械で再生して、夜になったらIKEAのベットシーツがかかった無印良品のベッドフレームのうえで寝る」といった生活は特に珍しいものではない。

 これらのブランドの出自を考えていくと、そこには混乱しかない。どうしてフランスの貴族のアイコンと黄金目当ての山師のアイコン、築地の早飯のアイコンがいち個人のなかで同居するのか?もちろん、当人はそのどれにも所属していなくて、普通の会社員や学生だったりする。

 革製品を買うときには「旅」というコンセプトや「信頼のおける品質保証体制」に思いをはせるが、急ぎで昼食を済ませたいときはやっぱり「うまい、やすい、はやい」だよね、という、ものすごくめまぐるしい意識のスイッチ変換が、無意識になされている。ブランドの出自やそれに基づくイメージ、それを象徴するアイコンは、そのスイッチ変換を効率的に行うためのトリガーのような役割を果たしており、だからこそ、これらのような多種多様なブランドの共存が成立している。

 さて、前回からの宿題である、「プロ棋士」というブランドが今後も支持をされるための方法論の話に戻ることができる。迂遠なようであるが、この問題もやはり、ここから出発することによって考えられる必要がある。

【次ページ】将棋のプロ棋士は「勝つための方法論」をストレートに発信せよ
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