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- 2013/12/27 掲載
【IT×ブランド戦略(18)】ジブリの次世代監督に突きつけられたのは「100億の壁」
偉大な業績が創業者の「作家性」に依存するというジレンマ
同じ「アニメーション」ジャンルの「劇場版ポケットモンスター」に着目する。「ポケモン」シリーズはスタジオジブリの影に隠れてあまり目立ってこなかったが、常にランキング2位につけていて、度々40~50億円の興行収入をたたき出しているのであった。
これに比べて、ジブリ作品は乱高下が激しい。
興行成績の乱高下は、「毎回毎回、期待通りのものを、いつものクオリティでお届けしよう」ではなく、「世間をあっと言わせよう」「期待を超える感動を」という意欲的なスタンスであるということからきているのではないだろうか。つまり「みんなが納得する予定調和的な作品」ではなく「賛否両論を巻き起こし、議論を呼ぶ作品」を生み出すことを指向しているのだ。
新作が発表されるたびに「今回のジブリ作品を観て、私はこう感じた」というテーマのブログエントリが我も我もと発表されるのが、その傍証である。(ポケモン映画でその手の評論をあまり見たことはない)。
監督やプロデューサー自身が「ナウシカ2は作らない」「トトロ2は作らない」と公言してきたのは有名な話で、スタジオジブリはきっと、「ポケモン」的な、必ず手堅く当たるような作品作りを行う気はさらさらない(やればきっと当たるのに、というのは無責任な外野の単純な発想だが、ヒット作の関連作品がビジネス的に手堅いのは様々な作品が立証済みだ、とは言えるだろう)。
それは取りも直さず、映画という商品を通して、作家性を世に問うということである。
作家性を世に問うということは、「人々は何を思い、生きているのか。何を観たいのか。そこで表現者として、何を発信するのか。」という「そもそも論」が問われる世界だ。
吉本隆明は著書「マス・イメージ論」のなかで、「カルチャーとサブカルチャーの領域のさまざまな制作品を、それぞれの個性ある作者の想像力の表出としてより、「現在」という巨きな作者のマス・イメージが産みだしたものだとみたら、「現在」という作者ははたして何者なのか、その産み出した制作品は何を語っているのか。」と書いた。
映画産業において、作品の作家性を問い、かつ、トップクラスの興行成績を狙うということは、まさしく吉本隆明が語っていたような、時代の空気を感じて、時代そのものと共鳴し、人々に問いかける感性が必要とされるのではないだろうか。
小説や絵画作品のような表現物であれば、制作自体は基本的に自分一人が最大の当事者として進められるものだが、高品質なアニメーション作品を作り上げるためには、感性だけではなくて、ディレクション能力、プロジェクトマネジメント、組織マネジメント能力も問われる。
これを考えると、宮崎監督が成し遂げてきた仕事の途方もない難易度にあらためて気付かされる。その創作力の根源は、ロジックやマーケティングリサーチでは到達しがたい感性的なものであり、そう簡単に人に理解できるものではない。
それにもかかわらず、同時に「企業運営」という極めて現実的な能力によって制作を進行させていかなければならない。
これらは全く逆の能力なように思えるが、それを両立させてきたからこそ数々の名作が生まれた、ということだ。
話はそこにとどまらない。作品の創造能力と業務遂行能力が高いことと、作品が売れるかどうかということは、基本的には違う次元の話だ。
企業として、作家性を全面に打ち出してヒットを狙おうということは、これは本質的にはギャンブルに近い商売であり、結果論として大きなセールスを実現したからジブリはこれまで称賛されてきたものの、これは結果論だ。同じことにチャレンジして、まったく違う結果につながった人々は無数に存在するし、ジブリ自身、そのような運命をたどった可能性はゼロではない。
当たるかどうかは、本来、やってみないとわからない世界だ。しかも、1回だけたまたま当たるということと、「周囲の期待を背負って、何度も何度も当てる」というのは全くレベルが違う。
【次ページ】宮崎駿の後継者問題を考える
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