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  • 2013/01/30 掲載

【IT×ブランド戦略(7)】ブランドをめぐる「美味しんぼ的葛藤」とは?

「どうして売れるルイ・ヴィトン」の著者が解説

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本連載の第1回と第2回では、「ブランド」という概念が商品・サービスにかぎらず様々な現象に適用できることを指摘した。次に第3回以降、その概念の特質を浮き彫りにするため、商品の販売/購入にフォーカスしてブランドの果たす機能についての解説をしてきた。そしていよいよ、この第7回以降、様々なブランドに関するケーススタディを通してブランド作りのヒントを見出していくことにしたい。

ブランドを考える上での3つの要点

連載一覧
 まずは、これまで論じてきたブランドの特徴について、要点をまとめておきたい。

(1)意思決定の結果を先取りさせることが、ブランドの持つ本質的な力である

 ルイ・ヴィトンやAPPLEなどの好調な業績に関する報道を見聞きして、誰しも一度はこのように考えたことがあるだろう。「世の中にあまたの企業や商品があるなかで、なぜ一部のブランドに限って、価格競争にさらされずに販売を行うことが出来るのか」と。これは、ブランドに関するもっとも素朴な疑問のひとつだ。そして、それに対する回答はこうだ。「ブランド消費では、購入者は、それを購入したことによって得られることについてのイメージをあらかじめ得ることができるためである」。実はこの特質がブランドをブランドたらしめているのであり、これこそがブランドに関する本質的なポイントだ。

 言ってしまえば当たり前の話に見えるが、補足しておくならば、「意思決定の結果を先取りさせる」という力は、商品の販売・購入にとどまらず、あらゆる企業活動に影響を与えることに着目することが肝心である。ということで、第二の要点は次の通りだ。

(2)ブランドは、それに関わる人々のコミュニティを形成する

 ブランドイメージが顧客だけでなく、それを提供する企業の経営者や従業員にも共有されることで、ブランドはさらなる利益を企業にもたらす。例えば業務における意思決定の基準が非言語的、非マニュアル的に、暗黙のうちに共有されるため、スタッフ教育コストや顧客対応業務コスト等の抑制につながる、といった目に見えない領域でも力を発揮する。これは価格競争力とは違う軸でのブランドの力だ。価値観やオペレーションスタイルが暗黙のうちに共有され、企業活動が洗練された結果、まれなケースで飛び抜けた顧客満足を生み出すこともでてくる。時にそれが良い形で提供者にフィードバックされ、ときに伝説的なエピソードを生み出し、それが多くの人に語り継がれる、ということも生まれる。ブランドは、このような好循環のなかで力を強めていく。

 このように、様々な立場の人々がブランドイメージを共有し、共同してブランドを支えているわけだが、これをブランドに関わる人々のコミュニティであると見ることができる。もちろんコミュニティと行っても、ただ単にそのユーザーの同好会的なファンコミュニティというわけではない。その商品やサービスを提供する企業や株主等、様々な利害関係者が各々の立場でブランドに寄与する新たな共同体なのである。

(3)ブランドは究極的には、それに関わることそのものを効用として提供する

 売主とお客という関係を超えて、様々な立場の関係者の支持を得るということは、表層的な付加価値ではなく、その社会における歴史的、文化的、経済的背景を踏まえて社会に対する根源的な価値を持つビジョンを提示して初めて可能になる。人がなぜ旧式の携帯電話からAPPLEのiPhoneに乗り換えるのか、それは単なる機能比較の結果ではなく、「そこに未来を感じるから」なのである、といったように。

 このようなブランドが生み出す商品は、単なる製品の性能やサービスの効能をコストと天秤にかけるのとは違う次元で価値提供を行うため、「そのブランドに関わること自体が効用となる」という特別な状態をもたらす。

 「世の中にあまたの企業や商品があるなかで、なぜ一部のブランドに限って、価格競争にさらされずに販売を行うことが出来るのか」と問われるほどのブランドは大抵の場合、この水準に至った事例である。

 以上が、これまでの論を短くまとめた要約であり、このブランド論の骨格だ。

 ブランドは人間のあらゆる組織的な営みに宿るが、特に商業活動において、個々の商品・サービスを通した販売を支えたとき、莫大なる収益を生み出す。特に、売上や価格は数字で見えるものであるため、これに関する論が最も一般的であり、ブランド戦略は販売・プロモーション戦略の一部であるとする「狭義のブランド論」が盛んである。

 しかし第2回で指摘した通り(今回でも度々指摘している通り)、採用、IR、プロモーション、業務オペレーション等、あらゆる活動でブランドは同様の働きをしており、これらを総体として捉えなければその実態を見誤ることになる。そして本論の問題意識はそのようなブランドが意図して作り出せるものなのか、また作り出せるとしたらそのための工学的で、再現可能な手法を定式化できるのか、というところにある。

 当然そこに、昨今のインターネットメディア、ICTを用いた業務遂行のための支援体制は密接に関わる部分である。が、いきなりそこに到達するにはまだ武器が足りない。そこでしばらく、各テーマに沿って現在力を持っているブランドの諸相をケーススタディすることで、理論構築のための要素を発見していくことにしたい。
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