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京町家の保全条例を制定した京都市が今後10年間の方針をまとめた「京町家保存・継承推進計画」を策定した。改修や修繕に助成金を出し、売却に不動産流通市場を活用することで京町家を可能な限り保存しようとする内容だが、市内最古級の京町家が解体されたほか、市指定文化財の京町家を許可なく解体しようとする業者が出るなど、京町家の危機は深刻さを増している。立命館大政策科学部の吉田友彦教授(都市計画)は「市の指定から漏れている京町家を文化財にするなど行政が可能な施策をこれまで以上に進める必要がある」と指摘する。
市内最古級の川井家住宅、今は広い空き地に
京都らしい街並みが続く中京区西ノ京地区で妙心寺通に面した一角に広い空き地がある。室町時代の1467年に建てられたという伝えが残り、市内最古級といわれる京町家の川井家住宅があった場所だ。
川井家住宅はもともと京都近郊の農村家屋として建てられ、江戸時代中期の正徳年間(1711~16年)に中世の部材を残して改造されたとされる。市内は太平洋戦争の戦災被害が少なかったが、江戸時代の大火や幕末の戊辰戦争でそれ以前の京町家の多くが焼失した。現存する京町家のうち、江戸時代以前のものは2%ほどしかないという。
川井家住宅は市の京町家保全条例が義務化される前に開発計画が動きだしたため、条例の適用外となったが、重要文化財級と評価する専門家がいるほど貴重な建物だ。
しかし、建物と土地は元所有者から2018年春、マンションを計画する業者に売却され、8月末に取り壊された。近くで商店を営む女性は「やはりマンションになると聞いた。市が買い取ればいいのに」と首をひねっていた。
市は建物の貴重さを考慮して例外的に不動産活用のマッチング制度を試行し、住宅や宿泊施設として購入する人を探すとともに、業者と話し合いを続けた。しかし、転売先が見つからず、業者との話し合いもまとまらなかった。
市の中心部はマンションやオフィス建築の適地が少ないうえ、訪日外国人観光客の増加でホテルなど宿泊施設の建設ラッシュが起きている。このため、土地バブル状態になり、国内外の業者がまとまった敷地を持つ京町家に狙いを定めている。
市内の京町家は年間1.7%ずつ消失
京町家は京都の伝統的な木造家屋で、2階建てが一般的。奥行きが20メートルほどなのに対し、間口が4~6メートル程度しかなく、「ウナギの寝床」と呼ばれている。格子窓や坪庭、細長い土間などを備えるのが特徴。寺社とともに京都らしい景観を構成している。
しかし、その数は減少の一途をたどっている。市が2008~09年度に実施した調査では、市内に4万7,735軒の京町家が確認できたが、2016年の調査では4万146件に減少していた。年間に1.7%ずつ失われた計算だ。
危機感を抱いた市は2017年、京町家の保全条例を制定した。市が維持管理や修繕、改修を支援する一方、所有者に解体時の届け出義務を定めた内容で、違反者に罰則を設けた。
京町家保存・継承推進計画はこの条例に基づき、策定された。期間は2027年度までの10年間で、市内全域にある京町家が対象。改修に対する新たな助成制度を設けるとともに、所有者に京町家の活用を希望する業者らを紹介するマッチング制度で売却を支援するほか、京町家と認められる新築住宅の建築、保全に向けたまちづくり活動支援を盛り込んでいる。
京都市まち再生・創造推進室は「計画に基づいて市内に存在する約4万軒の京町家を可能な限り保全していきたい」と力を込める。
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