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逮捕後もルノー会長に残留していたカルロス・ゴーン氏が会長職からの退任を決めたことで、ルノーと日産の協議が本格化することになった。日産はこれまでかたくなに株主総会の開催要求を退けてきたが、ゴーン氏が退任したことで、一転して総会の開催要求に応じることになった。日産の態度急変は、同社経営陣にとって、統合に舵を切ったゴーン氏の排除と現状維持が最優先事項だったことを如実に示しているが、これは今後のルノーとの交渉において不利な材料となるだろう。
日産は株主総会の開催をかたくなに拒否してきた
フランスの自動車大手ルノーは2019年1月24日、会長兼最高経営責任者(CEO)のカルロス・ゴーン氏が退任し、後任会長にタイヤ大手ミシュランCEOのジャンドミニク・スナール氏が就任する新体制を発表した。CEOには、同社のCOO(最高執行責任者)を務めていたティエリー・ボロレ氏が昇格する。
これまで日産は、ルノーが再三にわたって要求してきた株主総会の開催を拒否してきたが、ゴーン氏の退任が決まると、一転して総会の開催に応じた。
ルノーの新体制発表を受けて会見に臨んだ日産の西川 廣人社長は、ルノーとの経営統合について「今はその議論をすべきではない」「今現在必要かというと必要ではない」と述べ、経営統合の議論を望んでいないことを明らかにした。
日産が株主総会の開催を拒んでいることについては、さまざまな臆測が飛び交っていたが、今回の動きで日産経営陣が現状維持を強く望んでいることがはっきりした。
だが、日産側のこうした消極的スタンスが明確になってしまったことは、今後のルノーとの交渉において不利に働く可能性がある。
日産は、ゴーン全会長の逮捕を受けて2018年12月17日に取締役会を開催。後任の会長を選出する予定だったが、結局、会長の選出は見送った。
取締役会で行われた議論の詳細は不明だが、ルノー側はルノーが派遣した取締役の会長就任を希望した可能性が高く、一方、日産側は西川社長の会長就任を望んでいたと思われる。両社の利害を調整できず、会長の選出に至らなかったと考えられる。
一方、ルノーは会長人事が難航していることを受けて、株式総会の開催を再三にわたって日産側に要求してきたが、日産はこれを拒否。経営トップが決まらず、株主総会も開催できないという、一種の異常事態が続いてきた。
すみやかに総会を開催するのがスジだが…
ゴーン氏にかけられている容疑の是非はともかく、逮捕され、長期にわたって身柄が拘束されている以上、ゴーン氏が日常的な業務を遂行できないのは明らかである。ルノーもこうした状況を受けてゴーン氏を事実上、退任させる形となった。
だが、日産は逮捕された直後、2018年11月22日に開催された取締役会で早くもゴーン氏の会長解任を決議している。つまり日産は身柄拘束の期間も分からない段階から、「推定有罪」で動いたということになる。
ゴーン氏は有価証券報告書の虚偽記載で逮捕されており、その後、保釈請求が認められたことから、検察は引き続き身柄を拘束するため、今度は特別背任容疑で再逮捕している。いずれもゴーン氏のプライベートな犯罪ではなく、会社の不正行為と密接に関連したものであり、もしゴーン氏が推定有罪だというならば、現経営陣も直接的な利害関係者ということになる。
コーポレートガバナンスの本質的な考え方に従えば、社外役員以外の現経営陣は、後任人事や経営体制を含め、「今後の展開について直接、関与すべきではない」という結論にならざるを得ない。社外役員が中心となり、暫定的な執行体制や後任会長人事についてすみやかに動くというのが常識的な判断ということになるだろう。
ところが日産の社外役員は、あまり積極的に動いておらず、外部の有識者を招いて、ガバナンスの問題点を議論している状況だった。もしゴーン氏が会社を私物化して不正を働いていたのだとすると、ゴーン氏以外の経営陣が関係していないはずはなく(刑事事件に問えるのかという話とは別にして)、それをチェックできなかった社外役員も大きな責任を負っているはずだ。
ガバナンスに問題があったと自ら認めている以上、その現経営陣が招聘(しょうへい)した外部の有識者の報告書は十分な説得力を持たない。社外役員も含めて当事者能力を欠いている状況であり、そうだとするならば、株主総会を速やかに開催して、最終的な意思決定権者である株主の意向を仰ぐというのは、常識的な結論に思える。
【次ページ】100年に1度のパラダイム・シフトを迎える自動車業界、しかし日産の経営陣から気概は見えず
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