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米トランプ政権が、自動車や自動車部品に対する追加関税措置について検討を開始した。日本の自動車メーカーは現地生産化を進めてきたが、依然として米国への輸出は多い。もし追加関税が発動されれば、日本メーカーにとって大打撃となる。
ターゲットはズバリ、日本
トランプ大統領は5月23日、ロス商務長官に対して、通商拡大法232条に基づく調査を指示した。同条項は、安全保障を理由に輸入制限を課すためのもので、今年の3月に鉄鋼とアルミに対する追加関税がすでに実施されている。鉄鋼とアルミについては主に中国を標的としたものだが、今回、検討を開始した自動車と自動車部品の主なターゲットは日本とドイツである。
もっとも、この条項は、実際に発動するまでにしばらく時間がかかる。鉄鋼とアルミについて検討を開始したのは2017年4月のことで、調査が終了し、実際に発動に至るまで1年以上を要している。自動車の発動が実施されるにしても、来年以降になるのは確実で、その間に政治的状況が大きく変わる可能性もある。
鉄鋼とアルミについては米国経済への影響がそれほど大きくないので、あまり問題視されなかったが、自動車の場合にはそうはいかない。米国で自動車販売店(ディーラー)といえば、地域における一大産業である。米国の自動車メーカーを保護すべきという声がある一方、日本車やドイツ車の販売店にマイナスの影響が及ぶことになると、別の政治的な動きにつながる可能性もある。
さらにいえば、トランプ政権は日本との自由貿易協定(FTA)の締結を望んでいるともいわれる。通商拡大法232条の撤回と引き換えに、有利な条件を引き出す腹づもりかもしれない。そうなった場合、あくまでも輸入制限は交渉材料に過ぎず、実質的に発動されない可能性も残されている。
しかしながら、これは米国の国内政治であり、日本側にはコントロールできない部分が多い。少なくとも、民間サイドにおいては、輸入制限が発動されることを前提にシナリオを組み立てておく必要があるだろう。
中国市場も考慮しなければ、最終的な影響は分からない
では、実際に輸入制限が発動された場合、日本側はどのような影響を受けるのだろうか。ポイントは2つある。1つは、日本から米国の輸出にどの程度のマイナスとなるのか、もう1つはドイツ勢など、同じく輸入制限の対象となるメーカーとの相対的な関係である。
自動車市場は成熟期に入っており、上位メーカーによる寡占が進んでいる。EV化の流れも加速しており、コスト削減がこれまで以上に求められている。つまりグローバルなシェア拡大がより重要な経営ファクターとなっているのだ。
現在、グローバル販売台数でトップに立っているのは独VW(フォルクスワーゲン)で、2017年は1070万台を販売した。2位はルノー・日産連合、3位はトヨタ、4位はGM(ゼネラル・モーターズ)となっているが、上位4社の販売台数に大きな差はない。
もし日本とドイツを比較して、日本の方が影響が大きかった場合、中国など新市場で優位に立たない限り、ドイツ勢とのシェア争いで不利になってしまう。具体的に言えば、トヨタとフォルクスワーゲンの差が大きくなってしまう可能性があるのだ。
今回、米国は関税引き上げによって輸入を制限しようとしているが、一方で中国は米国に譲歩し、自動車に対する関税を25%から15%に引き下げると発表した。つまり、各国の自動車メーカーにとって今回の米中交渉は「米国への輸出」が難しくなり「中国への輸出」が簡単になるということを意味している。最終的に誰が得をして、誰が損をするのかを知るためには、中国との取引状況についても考慮する必要がある。
【次ページ】ドイツと比較しても日本が圧倒的に不利、中国市場での出遅れも響く
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