米市場調査会社のイーマーケター(eMarketer)が9月19日、「米ネット小売大手アマゾンの米国における2018年のデジタル広告収入が従来予想の28億9000万ドルを大幅に上回り、46億1000万ドル(約5200億円)となる見込み」と
祖業であるネット小売、第2の収益の柱に成長したクラウド事業に加え、広告業が第3のビジネスの軸として頭角を現した。現在はアマゾンの決算で「その他の事業」の一部として扱われる広告の売上が2021年には現在の3倍以上の160億ドルになり、クラウド事業売上の150億ドルを
追い抜くと、米調査企業のパイパージャフリーが8月に予測している。いずれは独立した「広告」セグメントとして扱われることが予想される。
イーマーケターによれば、2018年現在アマゾンは米デジタル広告市場で4.1%のシェアを占めるにすぎないが、2年後の2020年には占有率が7%まで急拡大する。注目すべきなのは、この成長がフェイスブックやグーグルと、「その他大勢」のシェアを奪うことで達成されると予想されることだ。つまり、現在の2強がゆっくりとシェアを失う中、デジタル広告は3強時代になっていくということになる。
広告はアマゾンにとって何重ものメリットに
では、なぜアマゾンの広告収入が急成長すると見込まれるのだろうか?それは、消費者がネットで商品を検索する際にまず使うのが、アマゾンのサイトであるからだ。
すでに2016年の時点で
55%のユーザーが、グーグルではなくアマゾンを最初に使って欲しいものを探していた。アマゾンは単なるオンラインのマーケットプレースではなく、世界最大のショッピング検索エンジンなのである。
アマゾンは広告表示に対してスポンサーから支払いを受け、顧客が広告をクリックすれば再び報酬を得られるだけでなく、その商品が購入されればさらに収入を得られる。広告はアマゾンにとって何重にもおいしい商売なのだ。
たとえば検索ユーザーが「洗濯洗剤」と打ち込めば、P&Gが製造販売する「タイド」「ゲイン」のスポンサード広告が、検索結果のトップでもある「タイド」「ゲイン」の隣に表示される(執筆時点)。
あるいは「ドッグフード」を検索すると、ネスレの「ピュリナ」が検索結果として表示される一方、ネスレが出稿する「ピュリナ」の広告が並んで表示され、ユーザーに選んでもらいやすくなるよう工夫されている。
米デジタルマーケティング調査会社ガーナーL2によれば、米食品大手ゼネラルミルズ、米チョコレート最大手のザ・ハーシー・カンパニー、英蘭一般消費財大手ユニリーバなどが、自社商品を販売するアマゾンのサイトに広告を出稿している。
注目すべきなのは、アマゾンで物品を販売しない米自動車保険大手ガイコや米通信大手のAT&T、ベライゾンまでが広告媒体としてのアマゾンのサイトに注目し、アマゾンの持つ購買履歴や購買検索のプロファイリングに基づくターゲティング広告を打っていることだ。
ベライゾンはさらに進んで、同社サービス(光ファイバーネットワーク「ファイオス」)を提供する地域の特定郵便番号世帯へ配達される商品に、ファイオスの広告を同梱(どうこん)するという
手法を試みる。
米調査会社
CIRPによると、アマゾンのプライム会員は米国内だけでも1億人。2018年に米国のeコマース市場のおよそ半分である49.1%、米小売市場全体の5%を支配すると
予想される。「商品検索する最初のサイト」分野でのトップの地位と合わせ、広告出稿先としてのアマゾンは理想的な条件を備えている。
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