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米株式市場の好調を支えるテクノロジー株の強さが改めて注目を浴びている。トランプ大統領のアマゾンに対する「口撃」、プライバシー問題を巡るIT業界への逆風、そして調整局面に入った米市場の全体的な弱気にもかかわらず、力強く回復して上げ続けている。なぜ米IT大手の株は強いのか。その秘密と、これから陥る可能性のある「リスク」について見ていく。
数十兆円が吹き飛んだ“悪夢の3、4月”
米IT大手にとって、3月と4月には悪いニュースが相次いだ。その先駆けとなったのが、世界最大の交流サイトであるフェイスブックだ。
5月に倒産した英データ分析企業のケンブリッジ・アナリティカが8,700万人分のフェイスブックユーザーのデータを不正に入手し、それを用いて2016年の米大統領選挙でドナルド・トランプ候補陣営のソーシャルメディア戦略を決定的に有利にしたとの疑惑が3月に報道された。
フェイスブックはこうした不正アクセスを防げなかったばかりか、その実態を公表しなかったため、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が米議会で述べ10時間にわたり追及されるなど、失点が相次いだ。
さらに、投票行動に変化を起こせるほどに詳しく正確な個人情報の収集と分析を行う、同社の広告枠販売の仕組み自体がプライバシー侵害に当たるとして、ビジネスモデルにもメディアや政治の検証が入り始めた。
フェイスブック株は2月初旬のピークである193ドルから、3月下旬には152ドルまで急落する。3月19日と20日の2日間のみでも600億ドル(約6兆5567億円)以上の時価総額が吹き飛ぶなど、ここ数年「イケイケ銘柄」であったイメージが崩れてしまった。
そうした中、トランプ米大統領が3月下旬にeコマースの王者アマゾンを狙った「ツイート口撃」を始め、市場を恐怖に陥れた。大統領は「アマゾンは納めるべき州税を支払わず、米郵政公社に不当に安い配達料金を押し付けている」として、連日のようにツイートや口頭でアマゾンを
攻撃した。
これには、上げ調子一本であったさすがのアマゾン株も反応。3月28日だけで時価総額が530億ドル(約5兆7917億円)も失われた。4月2日にトランプ大統領が再び同社をツイート攻撃した際も、5%超下げて、600億ドル(約6兆3500億円)が吹き飛ばされた。
テクノロジー株にとって悪いことは重なるもので、バッテリー式電気自動車(EV)メーカーのテスラが製造したモデルX が3月23日にカリフォルニア州で起こした死亡事故が、半自動運転機能のオートパイロット使用中に起こったことが報じられ、4月2日、テスラ株は252ドルまで急落した。手の届く価格のEVとして投入したモデル3製造の構造的な遅れと相まって、下げが加速したのである。2017年6月23日に付けたピークの383ドルに比べると、その不調が際立つ。
これを受けて、米調査企業のバーティカル・リサーチ・グループは、「テスラ株は2019年末には84ドルまで下落する」との予想を
発表した。
一方、グーグル親会社のアルファベットは、4月23日発表の1~3月期決算では、底堅い広告販売などで利益と売上高がともに市場予想を上回った。ところが、アルファベットが同期に77億ドル(約8,458億円)もの設備投資を行っていたことが明らかになると投資回収に時間がかかるとの懸念から、翌日の株価は5%の下落となり、360億ドル(約3兆9,336億円)の時価総額が失われた。
これにつられてフェイスブック、アマゾン、ネットフリックスも下げて、この4社合計で850億ドル(約9兆2876億円)分の価値が削られた。
このように、3月と4月は米IT大手にとって悪夢の連続であった。ブルームバーグ通信は、「投資家はどんなに決算の数字がよくても、ささいな問題を拡大解釈している」と
評している。
驚異の回復力、英国のGDPを上回る時価総額
だが、こうした逆風の連続にもかかわらず、IT大手の株はその都度、力強い回復を見せている。逆風にも負けない、強いファンダメンタルズを米IT大手は持っているためだ。
たとえばフェイスブック株は、ザッカーバーグCEOが4月10日と11日の米上下院における長時間にわたる公聴会で高評価を得たことから、10日には一時5%強上げ、11日にはさらに1%弱上昇した。この2日目だけでも、「ザッカーバーグCEOは5億ドル(約534億円)の資産を増やした」とメディアにもてはやされた。
ふたを開けてみれば、議会証言の後でフェイスブックの時価総額は240億ドル(約2兆6,224億円)も戻しており、さらに4月25日発表の1~3月期の決算ではケンブリッジ・アナリティカ問題の影響が表れず、最も強気の市場予想をも上回る大幅な増益となった。
これを受けて、フェイスブックを担当するアナリスト45人中、「強い買い推奨(ストロングバイ)」と「買い推奨(バイ)」が41人、「維持(ホールド)」が2人、「売り(セル)」と「強い売り(ストロングセル)」が2人と、同社にとっては心強い分析が出された。
4月26日のフェイスブック株は9.1%高となり、個人情報流出問題に絡む株価下落をすべて取り戻すまで、残り6%上昇すればよい水準に迫っている。
トランプ大統領に攻撃されて下げたアマゾン株も負けてはいない。全世界のアマゾン・プライム会員が1億人を突破する中、4月26日発表の1~3月期決算で売上高と純利益が市場予想を上回った。そこへ、米国におけるプライム会費を2割値上げすると発表し、株価が素直に反応。一時前日比7.9%高の1,638ドルを付けて、上場以来の高値を更新したのだ。
アルファベットも好決算を市場が再消化して、上昇に転じ始めた。マイクロソフトもクラウド事業の好調やクラウド型業務ソフト「オフィス365」への企業需要の拡大などで純利益が市場予想を上回り、前年同期の54億9000万ドルから74億2000万ドルに達するなど、底堅い。株価も堅調だ。
5月1日発表のアップルの1~3月期決算もアナリスト予想を上回って16%増の611億ドル(約6兆7100億円)と、2年ぶりの大幅増収だ。特に、収益の新しい柱であるサービス収入が31%増加したことが、希望を持たせる。「投資の神様」ことウォーレン・バフェット氏がアップル株を買い増したこともあり、テクノロジー株全体に明るい話題を提供している。
こうした中、米AP通信は4月27日付の解説記事で、「アップル、アマゾン、フェイスブック、アルファベット、マイクロソフトの時価総額を合計すると3兆5000億ドル(約382兆4,719億円)となり、2017年の英国の国内総生産(GDP)の2兆6000億ドル(約284兆1220億円)をはるかに上回る」と、米テクノロジー株の無敵の勢いを改めて
指摘している。
【次ページ】テクノロジー株の進撃を阻む、あるリスクとは
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