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  • 2018/02/05 掲載

「デス・バイ・アマゾン」に反撃の狼煙、プライム会員から不満の声も

連載:米国経済から読み解くビジネス羅針盤

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小売データを独り占めし、クラウドで寡占的地位を築き、スマートスピーカーやAI(人工知能)で「家庭やオフィスの標準OS」の地位を狙うアマゾン。アパレルや金融、さらには医療分野まで参入が進み、世界制覇が目前のように思える。だが、そうした中にも落とし穴が見え始めている。さまざまな業種に入り込んだアマゾンの前に、いよいよ「本気」になった競合他社が立ちふさがる。さらには、アマゾン内部にも綻びが見え始めた。
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アマゾンのロジスティックスへの懸念の声が聞かれる
(出典:amazon


競合を「本気」にさせてしまったアマゾン

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 あらゆる業界で「デス・バイ・アマゾン(アマゾン恐怖銘柄指数)」が意識されるようになって久しい。「デス・バイ・アマゾン」とは、アマゾンのデータ分析や価格競争力による攻撃的なビジネス戦略で、競合である米小売大手メイシーズ、事務用品のステープルズなどの株価が下落してきたことを指す。

 直近では1月30日に、「投資の神様」ことウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイと、米金融大手JPモルガンと共同でヘルスケア企業を設立するサプライズ発表を行い、「デス・バイ・アマゾン」銘柄のドラッグチェーン大手CVSなどの株価が下げた。

 また、2017年6月にアマゾンが高級生鮮スーパーチェーンのホールフーズの買収を発表した際には、アマゾン恐怖銘柄指数が一時、時価総額ベースで320億ドル(約3兆5,000億円)もの下落に見舞われている。

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2012年から2017年2月にかけてのS&P コンポジット1500指数(薄いブルー)とアマゾン恐怖銘柄指数(紺色)の株価パフォーマンスの比較。アマゾンの攻撃性がさらに増した2015年半ば以降、「デス・バイ・アマゾン」の成績が悪化しているのが一目瞭然だ。

 だが、この恐怖銘柄に含まれるウォルマートやクローガーやCVSは、実際には死んではいない。逆に、アマゾンの殴り込みがこれらの競合を本気にさせた面がある。これらのライバルが打ち出す対抗策や参入障壁の「仕掛け」により、アマゾンの進撃が難しくなってきているのだ。

アリババに接近か、クローガーの反撃のシナリオ

 ロイター通信が1月25日に報じたところによると、世界市場でアマゾンと対峙する中国小売の王者アリババが、クローガーの買収を検討中だ。もし仮にこれが事実だとしても、米国で中国ITの巨人に対する警戒感が高まる中、買収の認可が難航するのは必至だ。だが、アマゾンの独り勝ちが、クローガーをアリババに接近させたことは特筆に値する。

 さらに、そのクローガーは、家庭用品や衣料が強みの米eコマース大手、オーバーストック・ドット・コムの買収を検討中だと伝えられる。実現すれば、アマゾンの競合であるウォルマートが2016年に米eコマース大手のジェット・ドット・コムを買収し、ネット通販の強化に成功した事例の再来となり、アマゾンにとっては寡占化を遅らせる要因になり得る。加えてクローガーは、ホーム用品チェーン大手の、エース・ハードウェアの買収まで考慮しているといわれる。

 また、アマゾンは2018年1月にシアトルで無人ストア「Amazon Go」を開店したが、それより5年前の2013年から、クローガーは店内に備え付けのスキャナーや、顧客のスマホを活用したモバイル決済アプリ「Scan Bag Go」で、支払いまで完結するシステムを試験導入していた。店員を減らせるコスト削減効果もあり、2018年には取り扱いを400店舗に増やす予定で、レジレス店舗ではテクノロジーのイノベーターであるアマゾンに先行している。

 クローガーの本気度はこれに留まらない。陳列棚に商品の栄養価や案内動画を表示できるディスプレーを設置し、顧客のスマホ上の買い物リストにある品物の近くを通りかかると、音声やディスプレー表示で教えてくれる仕組みを200店舗で導入するという。

 このシステムは、アマゾンのクラウドビジネスのライバルであるマイクロソフトが開発したもので、クローガーがほかの小売チェーンへの販売を予定している。このシステムが広まれば、アマゾンはクラウドでほかの小売チェーンの売上データを取れないばかりでなく、マイクロソフトやクローガーが小売データで仕掛ける攻勢に対し、守りの戦いを強いられるのである。

 事実、米金融大手キーバンクの調査発表によれば、2017年10月から12月期におけるクラウド市場で、Amazon Web Services(AWS)のシェアが前年同期の68%から62%に低下する一方、マイクロソフトのAzureのシェアは16%から20%に伸びている。AWSの売上が10月から12月期に前年比44.6%増加したにもかかわらず、シェアを落としているのは危険信号だ。

医薬品分野でも高まる参入障壁

 一方、ウォルマートは2017年12月に成立した税制改革法による節税分を、実店舗やネット通販で、アマゾンに対抗した商品の値引きなどに使うことが予想されている。

 また、生鮮品宅配を家庭から注文する際に、生鮮食品の候補をあらゆる角度から確かめてから購入を決められる3Dスキャニングシステムの特許も取得。アマゾンの生鮮宅配にはないイノベーションで真っ向から勝負を挑もうとしている。アマゾンは安泰としてはいられない。

 翻って、アマゾンの参入が確実視される処方薬・市販薬小売分野においては、2017年10月にドラッグチェーン大手CVSが医療保険大手エトナを買収することを発表し、店内クリニックの拡充や、まだアマゾンが実現できていない処方薬の同日宅配の全米規模でのローンチ、医療保険大手の価格交渉力を使った価格競争など、業態を複雑に多角化させて参入障壁を高くしている。

 このため、アマゾンは処方薬・市販薬小売分野への参入決断の発表を2017年11月の予定から遅らせることを余儀なくされている。「デス・バイ・アマゾン」どころの話ではない。進路を阻まれたアマゾンは代わりに、バークシャー・ハサウェイとJPモルガンとの協業による非営利型健康保険組合や、遠隔医療、ジェネリック薬品製造販売などから参入を狙うのではと予想されている。

 しかし、米経済専門局CNBCや『ニューヨーク・タイムズ』紙をはじめとして、バークシャー・ハサウェイとJPモルガンとの共同事業の将来性について疑う論調も多い。

【次ページ】熾烈な国際市場、伸び切るロジスティックス、軽視された「顧客視点」
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